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王立魔法学園1年1組の教室に息せき駆けこんでくるあの娘は誰?
生徒会長様です。
突然の生徒会長の登場に、高位貴族家出身の子どもたちだらけのクラスメイトたちも流石にどよめいている。
まだまだだなぁキミ達……。
会長がいきなりやってくるのなんて日常茶飯事じゃないか。
そして、大抵の場合俺が大変な目にあうんだ。
「お願いってなんですか?」
「……ここではちょっと話せないわ。大試くんだけじゃなくて聖羅ちゃんたちにも聞いてほしいから、皆で生徒会室に来てくれるかしら?今日は、生徒会のメンバーが皆忙しくて、誰も生徒会室にいないのよ」
「え?でも私は呼ばれてないですよね?」
理衣が反応する。
ここ数ヶ月、1年生で最も生徒会の仕事を頑張っていた1人であろう理衣が、何の仕事も言い渡されていないのだから、そりゃ不思議にも思うだろう。
何より不思議なのは、理衣が別に生徒会メンバーじゃないことかもしれないが……。
「学園祭は、生徒会メンバーにとっても良いアピールの機会だから、できるだけ内部で処理させてあげたいのよね。そういう意味では、理衣だけじゃなくて、あまり得点を稼ぐ必要がない私も今回は仕事を抑え気味なの。とにかく行きましょう!」
そう言って会長は、俺の手を取って引っ張り出す。
これに抗える男がいるだろうか?
いや、いない。
引っ張られるままに進む俺の後ろに聖羅たちもついてきたようだ。
付き合いの良い奴らだぜ!
バックレても俺は何も文句言わんぞ!
会長が泣くが。
生徒会室に入ると、確かに誰もいなかった。
会長に進められるがままに高そうなソファーに座って、とりあえず話を聞くことにする。
やるかやらないかの問題ではない。
事ここに至った以上、やらないという選択肢はないんだ。
美少女からのお願いだぞ?
そりゃやりますよ。
ただ、とりあえず心の準備はしないといけないから、内容を教えてくださいね……。
「実は、今年の学園祭で、新しいイベントを企画していたのよ」
そう説明を始めた会長は、俺達に1人1枚ずつチラシを配ってきた。
そこには、『バンドフェス』と書いてある。
「意見箱に生徒からの要望でヤケにバンドフェスを企画してほしいという投稿が目立ったらしくてね、生徒会メンバーの2年の女子が担当してやっと形になったんだけれど……」
そこまで説明してから、暗い顔でため息を付く会長。
上手くいってないんだなぁこれ……。
「参加希望バンドが2つしかいなくて……」
「多数の希望者はどこへ……?」
「恐らく、カッコいい、もしくは可愛い同級生の歌う姿が見たいっていう観客側の希望者だったんでしょうね……。まあ、それはいいわ。原因がなにかなんて今は考えても仕方がないのよ。問題は、この仕事を引き受けていた娘がかなりショックを受けているみたいで……。私と違って、彼女はこの仕事を通して、良い就職先を探したいと考えていたみたいだから、何とかしてあげたいのよね」
「具体的には、どうなったら、何とかしたってことになるんですか?」
「参加するバンドグループが3つ以上になれば、最低限イベントを開催するゴーサインが出せるのよ。流石に、2つしか参加グループが無いイベントの企画を続行するわけにもいかないのよね……。そこで!」
ビシィッって音がしそうなほどの勢いで、会長の人差し指が俺に向けられる。
「幻の3グループ目を大試くんたちにお願いしたいのよ!」
「無茶ぶりが過ぎる……」
力仕事ならともかくだよ?
何いきなりバンド活動をお願いしてきてんの?
普通できるわけ無いじゃんそんなの。
「いきなりそんな事言われてもなぁ……。そもそも、楽器演奏なんて皆できるのか?」
そこが重要だ。
ボーカルは、まあ綺麗な婚約者たちがやれば間違いなく成功するだろう。
だって、この世界はゲームをモデルにした世界だ。
ってことは、多分ゲームの方でキャラソンとかも出ていたんだろうし、そういう要素も多少はフィードバックされていることだろう。
となれば、ボーカルは大丈夫だと予想できる。
しかし、楽器演奏はどうだろうか?
普通に考えたら、貴族の女の子たちが、ギターやベース、ドラムなんかに手を出しているとは思えない。
「私は、ピアノとヴァイオリンくらいしかできません……」
悲しげな表情でそう告げる有栖。
いや、ピアノとヴァイオリン演奏できたら十分では……?
「こっちもそんな感じかなぁ……ピアノとフルートくらい……」
理衣も自嘲気味に言う。
いやいや、ピアノとフルートが演奏できたらすごいって……。
「会長は、何かできないんですか?」
「そうね……ピアノと和太鼓、あと琴ね」
「渋いな……」
ピアノと、まあ琴はイメージ通りといえばイメージ通りだ。
でも、和太鼓か……。
うーん、和太鼓叩く女の子って割と好きだなぁ……。
「じゃあ、リンゼはどうだ?」
残り2人。
彼女たちの音楽スキル次第で方向性は変わってくるんだけれど……。
「アタシは、弦楽器全般がいけるわよ?というか、女神自身や女神の加護を持っている人は、基本的に弦楽器に適正あるのよ」
「そうなのか?」
「えぇ。だって、女神と言えばハープでしょ?」
「そうかなぁ……?」
「少なくとも、女神界隈ではそうなのよ。だから、女神から力を得ている聖羅もきっと弦楽器が得意になれると思うわ。もちろん、練習は必要だろうけれどね」
そう言って自慢げにしているリンゼ。
こいつがここまで言い切るってことは、かなり自身があるんだろう。
バンドならギターやベースなど、弦楽器がそこそこある。
となれば、確かにリンゼと聖羅は優秀そうだ。
でもなぁ……俺と聖羅は伊達に今までずっといっしょに育ってきたわけじゃないんだぜ?
アイツが楽器を演奏しているところなんて殆ど見たこと無いんだが……。
「聖羅、行けそうか?」
「大丈夫、なんとなく行ける気がする」
どうやら自信があるのはこちらもらしい。
頼もしいことだ……。
根拠がないのが玉に瑕だが。
「何偉そうに他の人達に聞いてんのよ?アンタ自身はどうなの?楽器演奏できるの?」
リンゼが俺に疑問を投げかけてくる。
失礼な!俺は案外演奏得意だぞ!
「ピアノとギター、あとベースも演奏できるぞ」
「……は?大試がピアノとギターとベース……?流石に想像できないわ」
リンゼが大概失礼なことを言ってくるけれど、俺はピアノとギターとベースなら割と上手いと自負しているんだ。
なんでそんな楽器が使えるのかって?
だって……弾けたらカッコいいだろ……?
特にギターとベース辺りなら、ライブ直前に1人都合がつかなくなって、たまたま近くにいた俺が助けに入り、そこから始まる青春群像劇……なんてのを夢見て練習したんだよ。
特にベースは、ギターよりも演奏したがる奴が少ないイメージがあるから、バンドでも募集される機会が多いんじゃないかと思ったので練習したんだ。
……まあ、俺がそういう楽器を使えるってことを知っているのは、今この生徒会室にいるメンバーだけなんだけれどな。
「大試、本当に演奏なんてできるの?」
「できるぞ。ただ、他の人と合わせたことがないから、バンド全体での演奏ってなると、どうなるかわからないけどさ」
「ベースって、他の人の演奏があるから輝く楽器でしょ?なのに合わせたこと無いの?」
「そもそも、誰かの前でピアノやギター、ベースを演奏したことがまず無い」
「アンタ……それって……」
俺の言葉を聞いて、生徒会室の中にいる女性陣の表情が変わった。
ある者は苦笑いし、ある者は悲しそうな目でこっちを見てくる。
何故笑うんだい?
ただのボッチなロックだぞ?
スマホとエレキ系の楽器を繋いで、エフェクターの代わりにするアプリだって持ってた。
……ただ、この世界に転生してから、殆どそんな楽器も使ってないんだけれど……大丈夫だよな……?
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