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剣と魔法の世界に行きたいって言ったよな?剣の魔法じゃなくてさ?  作者: 六轟


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 もう2月も末だ。

 つまり、俺が上京して学園に入ってから、もうすぐ1年が経つということだ。

 夏休みと冬休みであれだけガッツリ休んだ貴族だらけのこの学園、当然春も1ヶ月程の長期休暇がある。

 そしてその直前に、1年の総括として大きなイベントがある。

 それが、『学園祭』だ。

 俺のイメージだと、学園祭といえば芸術の秋に行われそうな気がするけれど、この学園では違うらしい。

 メタ的なことを言うのであれば、元になったゲームで1年掛けて育成してきたキャラたちの実力確認と、その後のルート分岐を表すためのイベントでもあるらしい。

 リンゼ曰く、1年生の間は比較的イベントが少なく、2年以降の重大イベントをクリアするために重点的に育成する期間らしい。

 その割には、毎月数回は俺が死にかけていた気もするけれど、きっとそれは俺が特殊なんだろう……。


 話しを戻そう。

 王立魔法学園の学園祭は、前世の高校や大学の学園祭とは違った意味合いを持つ。

 ここは、自分たちの今年1年の成果と、そして将来性を示す機会なのだ。

 貴族の当主候補であれば、「自分はこれだけ優秀なのだから、当主を引き継いだらよろしくな!」ってアピールするチャンスだし、当主候補以外や平民の学園生であれば、「自分はこれだけ優秀なのだから、学園卒業後の働き口よろしくな!」ってアピールするチャンスだ。

 つまり、品評会のようなものだ。


 自分の将来が左右されるかもしれないイベントを前に、学園生はピリピリしている。

 それぞれが自分たちの得意分野でどう目立つかを試行錯誤しながら日々を過ごす。

 武に優れた家の奴らは、学園祭内で開かれる各種の武闘会に参加するそうだし、智を重んじる家の奴らは、学術研究発表会等に参加するらしい。

 様々な催しが学園祭では企画されているので、全てのイベントを見て回ることなど不可能。

 よって、スカウト目的の貴族連中も、それぞれが目的とするイベントを重点的に見て回るため、ある意味効率がいいとも言えるかもしれない。


 そんな状態なので、前世のようにクラス対抗で何かするということはまず無い。

 お化け屋敷も無ければ、参加したという姿勢を見せるためだけのショボい展示なども無い。


 だが、実は前世の学園祭にあったような企画が全く無いかと言えばそうでもない。

 その代表例が、メイド喫茶だろう。

 メイドや侍女は、実は割と人気の就職先である。

 高位の貴族にメイドや侍女として雇われれば、真面目に働いてさえいれば暮らしは保証されるし、給料も高い。

 場合によっては、他の貴族に気に入られて嫁入りなんてこともあるかもしれないし、そうじゃなくても結婚相手くらい紹介してくれることが多い。

 そのため、前世のメイド喫茶など鼻で笑われるくらいのガチ度で運営されるそうだ。

 それと同時に、料理人等も自分の腕を振るう機会でもあるそうなので、もはやそれはメイド喫茶ではなく貴族向けの高級飲食店みたいなものなんだろうけれど……。


 当然の如く、去年の桜花祭で思いっきり分裂してしまって、あまりクラスメイト同士仲が良くない我が1年1組が全体で何か企画することなどありはせず、それぞれがそれぞれの目標へ向かって邁進中だ。

 大変結構!俺に火の粉が降りかかる心配が無いというのはどうしてここまで心を癒やしてくれるのか!?

 だってさ?卒業後は地元に引っ込んで暮らすっつってる俺だよ?

 別に周りに自分を売り込む必要もないし、むしろそんな事しないほうが変なやっかみを生むこともないのだから、そりゃもう大人しく過ごしますよ。

 とはいっても、成績にも一応影響するらしいから、無難にそれらしいものは作り上げて展示しておこうと思ってるけどさ。

 1年生の始めでは、武力だけでも示しておこうとした結果問題児のレッテルを張られてしまったし、俺は学術的な発表や展示をするのだ。

 何にしようかな〜?

 壁一面に昆虫標本でも飾ってやろうか?

 ……今の御時世だと、呪いの部屋扱いされるかもしれない……。

 自由帳から昆虫表紙の奴が無くなる時代だからな……。


「犀果大試!」


 俺が学園祭に思いを馳せていると、いきなり声を掛けられた。

 女の子の声だけど、聞き覚えは無い。

 俺は、とりあえず声の主に目を向けた。


「……すげぇ……」

「え?何がですの?」

「いや……こっちの話……」


 そこには、びっくりするくらい典型的な金髪ドリルがいた。

 思わず感嘆の声を出してしまった俺を責められるものなどいないだろう。

 だって金髪ドリルだぞ?

 髪型の正式な名前もわかんねーよ。

 パンチパーマクラスの強度がありそう。


「それで、何か用?」

「は!そうでしたわ!危なく意識を他に逸らされる所でしたわね……流石、といった所かしら?」

「なんだこいつ……」


 良くわからんが、テンション高くてすごいなぁ……。

 まだ朝のホームルーム前だぞ……?

 そもそも、この娘に見覚えが全く無いんだが……って言っても、俺のゴミのような対人能力だと、ある程度しっかり会話していない女性の顔とかあんまり覚えていられないんだけども。

 未だにクラスメイトっぽい奴らですら、毎日のように初めて見た気がする奴が混ざっているし……。


「宣戦布告に参りましたわ!」

「宣戦布告……?」

「そうですわ!学園祭の武闘会に置いて、貴方を下して2年1組の切符を手に入れるのはこの私!金持伯爵家が長女!金持絢萌かもちあやめですわ!」

「ほう……金持さんちの……」


 知らんなぁ……。

 ってか、そのビジュアルで武闘会に出るの?

 テニス大会とかじゃなく?


「首を洗って待っていることね!」

「はぁ……」


 そう言葉を叩きつけて、金持さんは教室を出ていった。

 この学園では、進級時にクラスがかわり、成績順に配置し直されるらしい。

 なので、1組に移動したければ、現在1組の者を蹴落とすというのも一つの手らしいんだけれど、俺を倒してどうにかなるもんなんだろうか?

 小学校で教えられる基本的な魔術すら使えない俺が、なんで1組に配置されているのかもよくわからんというのに……。

 ってか、金持さん1組じゃないのね?

 あのビジュアル、絶対1組でブイブイ言わせるたぐいの人だろ……。


 でもさ、俺は武闘会出ないぞ?


「ふっ……先を越されてしまったか」


 俺が朝から憂鬱な気分になってしまったなぁと思っていると、また変なやつに絡まれてしまった。

 こいつは……やっぱり知らんな。

 メガネかけた刈り上げ男だ。


「犀果大試、俺も貴様を武闘会で倒すと宣言しに来た」

「そうか……」

速水圭吾はやみけいご、それが貴様を倒す男の名だ。良く覚えておくがいい」

「はい……」


 そうして眼鏡も帰っていった。

 キミもクラスメイトじゃないのか?

 そりゃわからんわ。


 でもさ、俺は武闘会出ないぞ?


 その後も、何故か何人もの人たちが俺に挨拶しに来た。

 武闘会で俺を倒したいらしい。


 でもさ……俺は武闘会出ないぞ……?

 なんで皆俺が武闘会出る前提で話しているんだ……?


 納得のいかない顔のまま、ホームルームが始まったのだった。






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― 新着の感想 ―
そりゃ会場が爆発でもしない限り強制参加だよなぁ
説明聞いてると確かに出るメリットないね。コネはもう十分すぎるほどあるし、辺境の奥地まで来るほど胆力のある人は近所にいなさそう。
居ない間のホームルームとかで勝手に参加にさせられてたりしない?大丈夫?
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