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「お!見えてきたな!あれが家!」
「……え!?あの大きいのがですか!?お屋敷……宮殿!?」
「いや、流石にそこまでじゃ……あれ?知らない間にパルテノン的なのができてる……」
大試様の操縦するロボットに乗って走ること数時間、私はとうとう大試様の自宅へと辿り着いた。
その建物は、私が想像していた豪華な住宅の1000倍は巨大で、神社のような神聖さすら感じるすごいところだった。
でも、なんで大試様まで驚いているんだろう……?
『頑張りました』
「アイ、おれんちをどうしたいんだ?」
『10年以内に世界屈指の人気を誇る観光地にしたいですね』
「遠大な目標だな……」
アイさんが勝手にやったらしい。
すごいなぁ……。
そしてこの家では今、大試様の婚約者様方が待っていらっしゃるそうだ。
これからお世話になる身として、嫌われるわけには行かない!
万が一嫌われたとしても、大試様のそばにいると決めたんだから、どうにか気に入ってもらったほうが良いに決まってるもん!
そんな私の空回りの決意に気づいているのかいないのか、大試様が私を気遣ってこう言ってくれた。
「大丈夫、うちの家族は皆優しいから、美須々さんが緊張する必要はないよ。むしろ、美須々さんのこれまでの話を先に知らせてあるから、同情的な感じになってる気がするし、まず悪い扱いをされることはないと思う。もし、聖羅たちがキレているとしたらそれは」
そこまで言って、何故か後ろにいる大試様から悲しげな雰囲気を感じた。
「俺に対して……かな……」
ロボットから降りて、玄関へと入る。
その重厚で豪華な扉が開けられると、中は広々としたロビーになっていた。
壁際には、とても大きな……それこそ、本物と変わらないくらいの大きさの木彫りの熊像っぽいものが置いてある。
流石は、貴族様のお家だなぁ……。
置いてあるものの迫力がちが……あれ?
なんかこれ甘い匂いがする……チョコレートみたいな……あれ?
でも、そんな熊像よりも更に迫力を出している人たちがいた。
「お帰り大試、早かったね?」
「急いで帰ってまいりましたので……」
「ふーん……」
先頭の女の子が目を細めながら喋りだすと、それだけでこの場所の温度が下がったような気がする……。
どうしよう……?
本当に私怒られたりしないかな……?
婚約者にくっつく悪い虫は駆除するとかそんな感じのことされたりしたら、私普通に負けちゃうと思うんだけれど……。
炎ってまだ出せるんだっけ……!?試してないなぁ……!
「美須々さんだったよね?」
「ひゃい!?」
私が考えていることなどお見通しだとでも言うかのように話しかけられちゃった……。
「私が聖羅、話は聞いている。ようこそ」
「あ……はい……ご丁寧にありがとうございます……杉沢美須々と申します」
「うん。じゃあ、他の人の紹介もしちゃうね」
そうして聖羅様たちからの自己紹介をされたら、本当にお姫様やお貴族様……それも一番上の方の方々ばかりで……しかも美人さんばっかり!
うぅ……私、これからこの人たち相手にして大試様を誘惑しないといけないんだ……。
大丈夫かな……?
下手なことをしたら、簡単にクビをはねられそう……。
そんな怖い想像をしていた私を聖羅様がいきなり抱きしめてきた。
本当にいきなりで、理由もわからなくびっくりしたけれど、なんだかすごく落ち着くのは、聖羅様が『聖女様』だからなのかな……?
「……良く頑張ったね。すごいね。偉いね。女の子が何十年も自分の身を犠牲にして化け物を抑え込み続けるのは、私が想像することすらできないくらい大変だったと思う。私は貴方を尊敬する。……だから、これからは、好きに生きていいんだよ。誰を好きになってもいいし、この家でいつまで暮らして良い。50年を取り戻すのは大変かもしれないけれど、その協力くらいいくらでもするから、いつでも頼ってほしい。生きていてくれてありがとう」
「……あ……」
その後、どのくらいそうしていたのかわからないけれど、私は泣いていたみたい。
聖羅様の服がビチョビチョになってて……。
ごめんなさい!
まあ、その後も周りの女の子たちと話したりとかもしてたんだけれど、すごく気になってることがあった。
「……あの、なんで大試様は、さっきからこの硬い石造りの床で正座しているんですか?」
「それはね美須々さん、俺が性懲りもなくまた女の子を連れて帰ってきたからなんだ」
既に婚約者が5人もいるのに、今更私が増えた所で何か問題があるわけでも無さそうな気がするけれど、大試様にとっては大問題らしい。
そんな人なのにどうして5人も婚約者を作ったのかと思ったら、『皆すごい魅力的だと持っているし、婚約できたことはすごく嬉しいけれど、どうして婚約者が5人もいるかと言えば大体成り行きで……』って言っていたなぁ……。
既に家庭内での権力のピラミットができているみたい。
でも、私のせいで大試様がひどい目に合うんだとしたら……申し訳ないな……。
少なくともまだ私は何か酷いことをされたわけでもないし、そもそも手を出されてもいないんだけれど……。
「大試、話によると、美須々さんと抱き合ったりしたみたいだね?」
「……はい、泣いてたので……」
「そういうの、婚約者がいるのにしていいの?」
「あまりよろしくはないかもしれません……」
「じゃあどうするの?」
「腹を切ります」
「切ってもいいけどすぐ治すから他にして」
「……皆様の言う事をなんでも1つ聞くというのでいかがでしょうか……?」
「ふーん……」
そうして、聖羅様を始めとした婚約者様方がニヤリと笑うのが見えた。
あ……この人たち楽しんでる……。
「なら、美須々さんと大試が抱き合ってたと予想される時間の2倍……3倍のハグを要求します」
それは罰なのかな?
「……あの、美須々さんは大体1時間位泣きじゃくっていたのですが……?」
「そう?じゃあ1人3時間で、5人で15時間だね?」
「……はい……」
あ……大変そうだな……。
こうして、私の新しい生活が幕を開けた。
それは、私が思っていたよりも大分刺激的で、びっくりするようなものだったけれど、きっと私は、死ぬまでこの夢みたいな暮らしが続くことを望んでいると思う。
50年後も、100年後も、1000年後だって。
そのとなりに、王子様がいてくれる限り、私は世界で一番幸せな女の子だと思えるから!
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