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「はい、約束の品です。でも、今回の報酬がこんなので本当に良いんですか?」
「おお!ありがたい!いやなに、お主ら人間にとっては、このようなものも当たり前に手に入るのやもしれんが、某のようなアヤカシにとってはとても貴重なものぞ?」
「そうですか?まあ、喜んでいただけるのであれば、こちらとしてもありがたいですが」
今日は、やっと隔離を解除されて家に帰れる日だ。
その朝に、天狗の鬼一さんがやってきたので、数日前に「今回の騒動ではかなりお世話になったので、何かこちらからお礼がしたいのですが、何か欲しいものはありませんか?」と聞いたら、今俺が渡したものを所望されたんだ。
何かって?
女性用下着だよ……。
しかも、お高いおしゃれなやつとか、エッチでセクシーなやつとかじゃない。
軍が女性用に支給している色気もへったくれもない実用性マシマシのブラジャーだ。
因みに、サイズはD。
なかなかのサイズになっちゃっているらしい……。
「妖怪って、なんか変化の術とかで人間に化けたりできるんだと思ってました。そうすれば、普通に買い物にも行けるでしょうに」
「いや……できるにはできるのであるが……うーむ……見せたほうが早いか?」
「はい?」
何のことかと聞き返す前に、鬼一さんからボワンと煙がでて姿が見えなくなる。
そして、その煙が消えたと思ったら、中からボインボインの女子大生くらいの女性が出てきた。
とても美人だ。
うん、今すぐ俺の記憶を数分ほど消してくれ誰か!
「いつの頃からか、人に化けると完全に女になるようになっていてな……怖いのだ……」
「大変ですね……」
「そうだな……何より、女物の服を買って鏡の前に立つと、無意識に可愛いポーズなどとってしまう自分の変化に恐れ慄く……」
「うわぁ……」
すぐに天狗の姿に戻って帰っていく鬼一さんを見送る。
大変だなぁ……。
あの感じだと、逆に何かに目覚めちゃったほうが生きるの楽かもしれんな……。
そういえば、鬼一さんが出してくれた剣の実験をまだしていなかったな。
遮那王……空中を数秒間走ることができるとかいう訳のわからない力を持つ剣だ。
多分SSRの中では、屈指の使いやすさを誇るのではないかと思う。
……しかし!しかしだ!『その間敵味方問わずヘイトを稼ぎやすい人間不信製造機!』という文言が気になる!すごく気になる!
今回の任務中、常に周りに誰かがいたから、味方からのヘイトを稼いでしまうというクソみたいなデメリットを気にして使えなかったんだ。
俺……基本的に周りからどれだけ嫌われてもそこまできにならない性格しているけれど、仲の良い人達から嫌われるのは流石に普通に泣くと思うんだ……。
でも、今は味方は全員おねんね中。
鬼一さんが早朝から来るという話だったから早々に起きていたけれど、俺以外の家族は、そんな早起きに誰も付き合うつもりは無いようで、隔離されてやることのないだらだらコンテナハウス生活を満喫している。
つまり、今がチャンスだ!
今なら、剣の力を発動していると稼がれるというヘイトも、相手が寝ているのだからあまり気にすることも必要なくなるはず!
というわけで、早速使ってみよう!
さぁ遮那王よ!その力をわれに示せ!
「おお!?本当に空中を走っているぞ!?これいいな!」
遮那王の使用感は、思ったよりも良かった。
SSRなのに大火力ブッパじゃない時点でありがたかったけれど、数秒間空中を走り回れるのは予想以上に楽しく、そして強力な気がする。
「うんうん、悪くなかったな」
「なんぞしらんがヤケに腹が立つから大試に攻撃じゃ!」
「おおお!?」
少し離れた所にいつの間にか立っていたソフィアさんが、黒い魔法の槍みたいなものを飛ばしてきた。
あれぇ?せっかくギリギリソフィアさんを起こさないくらいの距離を保っていたのに、いつの間にか起きて遮那王のデメリットにごっつりやられているなんてびっくりだ……。
俺は、身の危険を感じてすぐに遮那王の能力を止める。
すると、いきなりすごい剣幕だったソフィアさんの目に、多少の後悔の念が感じられるようになった。
「ワシ、なんで大試に攻撃したんじゃろう?そんな事するつもりまったくなかったんじゃが、今いきなりそうしないといけないようなきがしたんじゃ……すまんの大試……」
「いや、ソフィアさんは謝る必要ないですよ。なんかこの剣が、そういう周りの敵味方問わず攻撃的にしてしまうそうです」
「なんじゃと……厄介な剣があったもんじゃな……。ワシが大試に攻撃するとなるとそうとうじゃぞ?」
「でしょうねぇ……」
うーん……基本的にソフィアさんは近くにいるから、ここまでソフィアさんまで怒らせるとなると、普段遣いは厳しいな……。
はぁ……。
しかたない。
身体能力向上自体はほしいけれど、遮那王のデメリットがでかすぎるから、もうホルスターに挿して封印だな。
……そうだ、そういえば、俺は今回の事件の間に、剣を一本壊してしまったんだった。
魔力を過剰にぶち込んだせいで刃がバキバキに砕け散ったんだよなぁ……。
「壊れたままなのかとか、リスティ様に直せる状態なのかとか、一応確認しておこうかな」
俺は、疱瘡正宗を具現化した。
もしこの世界に聖羅がいなかったら、ものすごく重要な存在だったであろう活人剣だ。
いや、その呼び方は本来の意味とは全く違うんだろうけれども……。
直せるものなら直したいんだよなぁ……。
便利だし。
「ん?」
手の中に疱瘡正宗が具現化するようにしていたんだけれど、あのバッキバキになった刃はいったいどうなっているんだろう……。
そんな怖怖とした気持ちで構えていた俺の手の中に現れた剣は、俺には見たことがないものだった。
「割とオーソドックスな見た目の日本刀……か?」
その剣は、かなり地味なものだった。
これぞ日本刀!って見た目はしているけれど、神剣としてのインパクトでいえばイマイチだな。
そもそもこの剣の正体もわかってないんだけどさ?
どれどれ、この剣の事を調べてみるか。
疱瘡正宗角大試(SSR):単純に切れ味が良い!持ってるとあらゆる毒や感染症を治せる!神性もちだろうと浄化できる!装備時に身体能力を50%増加!
……ん?あれ?疱瘡正宗?でも、ランクが上がっている上に、名前も変わって……ってか俺の名前まで入ってるぞ!?
なにこれ……?
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