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剣と魔法の世界に行きたいって言ったよな?剣の魔法じゃなくてさ?  作者: 六轟


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366:

「月が綺麗ですね……」


 1人だけ眠れぬコンテナハウスの夜。

 満天の夜空を窓越しに見上げ、前世の世界で色々議論されていたセリフを言ってみる。

 聞いてくれる相手も居ないので、あまり意味はないが。


 振り返ってみると、みんなお休み中である。

 ソファーでは、昨日と同様にアイとシオリが狭そうにしながら寝ていて奥の2つしか無いベッドの片方では、下着姿のソフィアさんと仙崎さんが、絵画になりそうなくらいの美しい寝姿を疲労している。

 誰がこれをベロンベロンに酔っ払った末の寝落ちだと気がつけるだろうか?


 そして、もう片方のベッドはというと、昼間助け出したヒルコちゃん改め、杉沢美須々さんが寝かされている。

 まだ本人には確認していないけれど、多分間違いなく杉沢さんだろう。

 聖○ちゃんカットにしている女の子があそこにいるとしたら、数十年前からそこにいたと考えたほうが無理がないからな……。


 何故俺達がまだこのコンテナハウスにいるかというと、単純に防疫のためだ。

 発症速度が早かった緑の斑点の感染症は、現在完全に収束したと見て良い。

 幸せそうに村を徘徊していた住人たちは、例外なく斑点が無くなっており、健康な状態へと戻っているらしい。

 ただ、その状態でもまだ感染自体を広げる可能性もあるだろうという指摘が有ったらしくて、3日間は隔離して様子を見ることに決まったようだ。

 呪病の原因は絶ったから大丈夫だって仙崎さんが言っても、絶対じゃないからダメって言われちゃったので、仕方なく俺達もここにいるわけだ。

 食料だけは補給してくれたけれど、ベッドも追加されていないし非常に辛い。

 何より、今週の学園への登校が絶望的になったのがきついなぁ……。


 それでもまあ、くったくたになってここに戻ってきてすぐに、疲労の後押しもあって俺はすぐに寝てしまったんだ。

 起きたのは、1時間ほど前。

 俺が寝ている間におきた出来事を教えてくれたソフィアさんと仙崎さんが、仙崎さんが自分で能力使って作った密造酒で酩酊して寝落ちしたのもその辺り。

 杉沢さんは、神社から救出してすぐ気絶してそのまま起きていないみたいだけれど、他のメンバーは夜まで起きていたらしい。

 それに対してここに来てすぐ寝てしまった俺は、もう完全にスッキリと目が覚めるくらい寝てしまったので、二度寝を敢行しようにもできない状態だ。

 そうなったらもう、天体観測でもするしかないじゃん?


 杉沢さんは、死んだように眠り続けている。

 寝息は立てているので、重篤な何かってことはないと思う。

 彼女が起きたら色々聞いてみないとな……。

 特に、ヒルコちゃんが本当に杉沢さんかどうかとか、これからどう生きていきたいかを。


 今回の騒動について、既に仙崎さん経由で報告書が提出されているらしい。

 そしてそこには、杉沢さんの事は一切書かれていないそうだ。

 神性を獲得した人間という時点で、周りに知られたらとんでもなく面倒なことになるのがわかりきっているし、それとはまた別の懸念もある。

 ずばり、杉沢さんの見た目だ。

 今ここで寝ている女の子が、50年前に生贄として捧げられた杉沢であるとすると、見た目が変わっていないことになる。

 つまり、永遠の若さだ。

 そんなの、神様がどうこうっていう話しを抜きにしても、かなり騒ぎになるだろう。


 太古の昔から、永遠の若さというものを人々は追い続けてきた。

 それこそ、命を賭けて探していた者だっていくらでもいるだろう。

 そんな人達に杉沢さんの存在がバレてみろ。

 すぐさま研究用にモルモットにされちゃったり、杉沢さんがヒルコと同化していた条件を再現して、神性の獲得を狙うために生贄の儀式まで行おうとする可能性すらあるんだ。

 もし本人が、そんなの知らん!本名で名乗り出る!って言い出さない限り秘匿しておいたほうが無難だろう……。


「……んっ……」


 俺が考え事をしていると、件の少女が目覚めたようだ。


「目は覚めた?」

「んー……んぅ?」

「まだちょっと厳しいか……?」

「……あれ……?大試様……?そっかぁ……これ夢かぁ……」

「夢じゃないぞ」


 流れるように夢オチだと決めつけまた寝ようとしたので、ちょっと慌てて止めた。

 少しだけ確認作業させてくれ!


「……うそ!?本当に大試様なの!?どうして!?」

「どうしてって……キミが気絶している間に、このコンテナハウスの中に運んできただけ。確認したいんだけれど、杉沢美須々さんでいいんだよね?」

「あ、はい……。よくわかりましたね?」

「50年前の中高くらいの年齢の女性で行方不明だってわかるのが、この村だと杉沢さんしかいなかったからね」

「……50……年……?」


 俺が説明すると、再度驚いた顔になる杉沢さん。

 特に、50年経っているのが信じられないようだ。


「それで、杉沢さんに確認しておきたかったんだけれど、これからどうしたい?」

「これから……?」

「そう、これから」


 何となく助けられそうだったから助けたけれど、まさかここまで厄介な要素の塊みたいな女の子だとは思っていなかった。

 それでも、助けた以上は、俺が責任を持って今後の生活を何とかしてやろうじゃないかと考えているわけで。


「村役場で調べてもらったんだけれど、杉沢さんのご家族は、杉沢さんが行方不明になったのと同時期に、皆行方不明になっていた」

「あぁ……私を生贄に捧げて喜んでいたところを、あの化け物に全員殺されていましたから……。

「あーそういう……」


 ならまあ、遺族の元へ帰るとは言い出さないだろう。


「とりあえず、俺が杉沢さんに用意してあげる選択肢は2つかな」

「2つですか……」

「まず1つ目は、自分の事を包み隠さず発表してしまって、元の世界に杉沢さん本人として戻ること。ご家族はいないけれど、何不自由無く生活できるように支援はするよ」

「私本人として……」

「もう1つが、全く新しい人間としてやり直すこと」

「……身分を偽る、ということですか?」

「まあ、そうだな。っていっても、別に後ろ暗い存在に頼るって言う話じゃなくて、偉い人たちに話を通すことで、杉沢さんを普通の女性として生活できるように調整するってだけなんだけどさ。どっちがいい?」

「……」


 俺の提案は、目覚めてすぐの彼女には唐突が過ぎる話だっただろう。

 だけど、早めに決めてもらわないといけない。

 俺としても、神性をもった女性を国から秘匿して匿っているという中々デンジャラスな状況だから、悠長に待っていられないんだ。

 せめて王様に位は詳細を報告しておきたい。

 だから提案してみたんだけれど、何故かどちらを選ぶというわけでもなく、絶望したような表情になっている。


 どうかしたのかと心配になり始めた辺りで、彼女が口を開いた。


「……私にそんなに良くして下さらなくても結構です。私が貴方に返せるものが何もありませんから……。あの神社の地下に落とされてからずっと、何とか生き残りたいと思っていました。それでも諦めかけていたときに、貴方に助けていただけて、正直、物語のヒロインにでもなったような気分だったんです。でも……流石に50年も経ってしまっていたら……」


 自嘲気味だな。

 なんでだ?

 助かったのに嬉しくないのか?


「私、東京にでて、アイドルになりたかったんですよ」

「へぇ」

「例え魔導列車に密航してでも行こうと……思っていたんです……」

「すごい決意だなぁ……」

「でも……65歳のおばさん……いえ、おばあさんになってしまったら、流石に無理ですよね……。私、これでも結構美人だって有名だったんですよ?きっと若いときだったら、大試様の事もメロメロにしていました。そのくらい自信があって……だから……でも……。はい!私の物語はここまでなんです!悲しいけれど、どうしてこうなっちゃったのかはわからないけれど……私の送りたかった青春は、もう二度と取り戻せません。人生も……きっと無理です……。だから、さっき提案してくれた選択肢、どっちでもいいかなって……。というより……もう死んじゃってもいいかなぁって気もするし……寿命自体すぐじゃないかなって……」


 なんか……重い話ししている?

 なんでだ!?

 やっと助かってこれからって話だよな!?

 ……ん?あれ?もしかして……。


「杉沢さん、ちょっと鏡を見に行こう」

「……え?」


 俺の唐突な提案に、また間の抜けた返事をする杉沢さんを返事も聞かずに立たせ、洗面所スペースへと連れて行った。

 ここには、大きめの鏡があるんだ。

 その前に立たせると、杉沢さんが目を見開いたまま固まった。


「杉沢さんに寄生していたあのスライムだけど、どうも神様みたいな存在になっていたんだ。それで、杉沢さんも神様っぽい存在になっちゃったみたいで、老化しない存在になっているっぽいんだよ。だから、見た目は15歳くらいで固定されているみたいだし、綺麗なままだと思う。アイドルを目指そうと思えば可能なんじゃないかな?身元さえ弄ってしまえば、特に問題はないと思う」


 髪型は今風のに変えたほうが良いと思うけどな。


 俺の言葉を聞いていたのかいないのかわからないけれど、しばらく固まっていた杉沢さん。

 だけど、突然涙を流し始めて、呼吸も荒くなってきた。


「わた……わたし……!アイドル……めざしてもいいのかな……!?」

「良いと思うよ」

「恋も……できるかな……?」

「できるんじゃないか?男はいっぱいいるし……まあ今の時代女同士ってのもアリらしいし」

「そと……そとで……カップラーメンたべながら……歩いてみたくて……!」

「それは……まあやってる人見たこと無いけど、やっても怒られないとは思う」

「……大試様からみたら……私は……おばあちゃんだと思うけれど……私が諦めるまで……一緒に居てもらえる……?」

「この状況だと俺が責任を持つべきだと思うし、別に構わないよ。俺の家に住んでいいし……神社に居候っていうのも可能だな。狸住んでるけど」


 この人が50年どんなふうに過ごしてきたのか知らないけれど、まあ今言ったことくらいは実現してあげても良いくらい過酷な人生だっただろう。

 あんな薄暗い所で、体に化け物を飼いながら1人過ごし続けて、よく今まで頑張ったもんだと思う。

 ご褒美くらいあるべきだろう。


「なら……私を……末永く、よろしくお願いします……!」


 そう言った彼女は、涙を流しながらも、魅力的な笑顔だった。


「そっか、わかった。戸籍は新しく作ることになると思うけれど、名前は元のままでいい?多分50年前に行方不明になった女の子とつなげて考えるやつも居ないだろうし……」

「うん!あ……名字は、犀果でもいいんだけれど……?」

「犀果?アイドルには合わなくないか?どうせ変えるなら、西園寺とか東宝院みたいなゴージャスなののほうが良くない?」

「……ううん、やっぱり元の名前でいいや。そのうち変えてみせるから」

「そう?まあいいけど……」


 なにはともあれ、目に希望が戻ったっぽくてよかった。

 自殺でもされたら寝覚めが悪いからなぁ……。


「……これって、夢じゃないんだよね?」

「多分」

「……死ぬ直前に見てる、都合の良い妄想とかじゃなくて……?」

「多分」

「……もし、次に目が覚めた時、またあの地下室の中だったら、私……多分もう耐えられないよ……?」

「俺自身が夢見ているんじゃなければ大丈夫だと思うけど、何にせよ、今を現実だと思って進んでいくしかないでしょ。少なくとも俺はここにいるし、いくらでも頼ってもらって構わない。家に戻ったら、頼れる仲間がいっぱいいるし、王様にもつなぎを作れる。アイドルくらいすぐなれるかもよ?」

「……そっか……うん……そっ……かぁ……よかった……よかったよぉ……!わたし……いきてる……まだ……女の子で……それで……それで……!」


 泣き止んだように見えたけれど、やっぱり耐えられなかったらしい。

 一回決壊した感情は止めどなく溢れ、そして俺の胸に飛び込んでもそれは止まらなかった。

 俺は、抱きしめながら彼女の背中をさすってやる。

 多分女の子が泣いてたらこういうふうにするもんなんだろ?

 正直ちょっとどうしたら良いのかわからなくて焦ってんだけど!

 ヒルコと戦ってた時の方がまだ何したら良いのかわかりやすかったわ!


 何より、こんな所で騒いでたら……。


「うわぁ……また大試が女の子泣かせとるのう……」

「私も大試くんに全身全霊でお世話されたいんだが……」

「大試!泣かせたらだめ!」

「シオリ様、あれは男の甲斐性とかそういうものだと思いますので問題ありません」

「そうなんだ!」

「好き勝手言ってないで慰めるの手伝ってくれない?」


 結局、こんな綺麗な星空を眺めていられた時間はあまり長くなかった。

 まあ、それはそれで悪くないか……。





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