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疱瘡正宗は、使った感じだと特に刺す必要はないように思う。
だから、スライム部分に突き刺したのは何となくだ。
必要はないにせよ、内側にぶっささってた方が効くんじゃないかな?程度の考え。
だけど、刺した事自体で思ったよりダメージ入っているようだ。
スライム部分だけビクンビクンしている……。
まあ、見た目日本刀だけれど、作ってるの神様だからそりゃ対神兵装として機能もするか。
でも、まだまだ終わりじゃないぞ?
ヒルコちゃんを押し倒して馬乗りになり、完全に抵抗を封じる。
「疱瘡正宗!俺の魔力を好きなだけくれてやる!全力でやれ!」
別に疱瘡正宗に意思があるかは知らないけれど、ノリで命令する。
そして、俺の拙い魔力操作で、体内の魔力をゴリゴリ疱瘡正宗に流し込んでいく。
ゴミでいっぱいになったゴミ箱の中身を足で押しつぶしながら更に入れようとしているような気分。
『!??!!?!!?!?!』
声なのか何なのかわからない物がスライムから響く。
それとともに、スライムから煙が上がり始めた。
あれだけ炎を出しても平気なムニムニした生き物のくせに、浄化には弱いらしい。
やっぱり病原菌だな!
「ごぼっ!?」
依代?寄生?されている女の子も、口からスライムの一部が飛び出したり、手の皮膚を突き破ったりしているせいで苦しそうだ。
だけど、ここで止めるわけには行かない。
全力で健康にしてやるよ!
何百発もボルケーノをブチかましたように魔力が無くなっていく。
開拓村で住人全員が酔いつぶれて片っ端からシラフに戻していったときでもここまで疲労しなかったな……。
それでも、まだスライムは苦しげに煙を上げてるいるだけだ。
どのくらい効いているのかわからないが、ダメージが有るなら問題ない。
消し去るまでやるだけだ!
「うお!?」
浄化されながらも炎で反撃しようとしていたスライムだったけれど、俺が倶利伽羅剣で炎を制御しているうえに、痩せ我慢で効いていないように見せているせいで、効果がないと判断したらしい。
攻め手を変え、ぶよぶよ本体を槍のように突き出してきた。
流石に焦ったけれど、俺の体に触れた瞬間に、触れた部分が蒸発してしまった。
『!???!!!!!?』
スライムから混乱が伝わってくる。
どうも疱瘡正宗の使用者である俺には、使用されている側のヒルコちゃんよりも強力な浄化効果があるらしく、病原菌認定されているスライムは触れただけで消えてしまうようだ。
……えーと……計算通り!
あ、この感じ、よくまる義兄さんにやらされる実験で死ぬときの感覚……魔力切れそう……。
「やめてやんねぇけどなぁ!」
魔力が切れそうなら、補給したらいいんだよ!
シャオラッ!
木刀を使って魔力を回復する。
『!!?!!?!?』
俺の体内魔力が完全回復したのを雰囲気から感じたのか、スライムの慌て方がすごい。
お前、結構感情育ってるんだな……。
あの何考えているのかわからないどころか、そもそも考えるという機能がなさそうな生き物代表格のスライムのくせに……。
流石は、仮にも神になった存在ってことか。
まあ、今日でそれも終わりだろうが。
俺が終わらせる。
何故なら日常生活に戻りたいから。
学校いきてぇんだよ!
パキッ
ベキッ
更に魔力を押し込むペースを上げると、疱瘡正宗から、金属製品からしちゃいけない音がし始めた。
まあ、壊れたら壊れたでリスティ様に直してもらえばいいだろ!
直るかは知らないけれど、無理だったらその時はその時だ!
『!!!!!!』
スライムの抵抗がいよいよ切羽詰まった感じになってきた。
だったら、トドメにもっと疱瘡正宗に魔力ぶち込んでやる!
「っらあああああああああああ!!」
ベキベキベキッ
という音を立てて、疱瘡正宗の刃が崩れ去った。
それとほぼ同時にスライムの体が消え去り、地下室の中の火も嘘みたいに無くなってしまった。
あのオーブンのような熱さすら無くなっている。
「……終わったのか?」
『みたいじゃな。その娘から、あのドロドロの気持ち悪い感じが無くなっとる。外からもどんどん気持ち悪さが消えていっているようじゃ』
「はぁ……これで解決かなぁ……。疲れた……帰って風呂入って寝たい……あ、でも、このままだと風呂の中で寝そう……」
『ほう?ならワシが一緒に入って支えてやろうかのう?手取り足取り!』
「おねがいします……」
『……披露が限界みたいじゃな……』
つっかれたぁ……。
「……あれ……?私……」
「ん?」
突然声が聞こえたのでそちらを見てみると、スライムを浄化したと同時に気絶していたらしいヒルコちゃんの目が覚めたようだ。
手のひらからちょっと血が出ているけれど、命に別状はなさそうでちょっと安心。
体の中からあのぶにゅぶにゅが出てきててかなり苦しそうだったからなぁ……。
「大丈夫か?立てる?」
「……あ……え……夢……?」
「うん?」
ただ、まだしっかり意識が戻っているわけではないのかもしれない。
言動がちょっとぽわぽわしている。
「とりあえずここから脱出しようと思う。立てないようなら俺が抱き上げるけれど、問題ない?」
「あ……はい……不束者ですが……」
「よし」
力がまだ入らないようなので、初対面の女の子相手にどうかとも思ったけれど、同意も得られたことだしお姫様抱っこで持ち上げる。
おんぶできれば楽なんだけど、ヒルコちゃんの方に俺におぶさるだけの力も残って無さそうだから仕方がない。
……って思ってやったのに、ヒルコちゃんの腕が俺の首に巻き付いてくる。
割と力あるじゃん……?
それならおんぶでもよかったのでは……?
ヒルコちゃんを抱きかかえたままジャンプし、地下室から神社の中へと帰還した。
あれだけ地下でぼうぼう炎が上がっていたにも関わらず、地上部分は燃えていたようには見えない。
やっぱり神様案件ってのはわけわかんねぇな……。
仙崎さんたちがまっているはずなので、神社の出入り口へと向かってあるき出す。
「……あの……お名前……教えてください……」
その途中で、おずおずとヒルコちゃんがそんな事を聞いてくる。
そりゃまあ、知らない男に抱き上げられてるんだから気にもなるわな。
「俺は、犀果大試っていうんだ。この村でパンデミックが発生して、その原因の大元がこの神社にあるみたいだから突撃して、んでヒルコって呼ばれてたスライムを倒して万事解決……してたら良いなと思ってる男です」
「犀果……大試くん……私の……王子様……」
「いや、王子ではないぞ?王子なんかと一緒にするな。カスかシスコンしかいないんだからな」
「……大試……様……」
その言葉を最後にヒルコちゃんはまた気絶してしまった。
何が有ったのかは知らないけれど、まあ化け物に寄生されてたんだから疲れもしただろう。
とりあえず病院へ……。
『のう大試よ。その娘どうするつもりじゃ?』
連れて行こうかと思っていたんだけれど、ソフィアさんからそんなツッコミがはいる。
「病院連れていきますよ。別に人さらいするわけじゃないです」
そりゃ気絶した女の子をイケメンでも無い奴が運んでたらそんなふうに見えるかもしれないよ?
でも俺にやましいことは一切ない!
理性とかでももちろんそんなことはしないし、何より今は、そういう欲求なんて全てねじ伏せるくらいに睡眠欲が勝ってるしな!
しかし、ソフィアさん的にはそういう答えを求めているわけじゃないらしい。
『じゃがなぁ……その娘、多分死んだことになっとるぞ?』
「どういうことですか?」
『あのドロドロと同化しとったじゃろ?多分その娘、生贄にされた奴じゃろ』
「生贄?最短でも50年前の?」
『そうじゃ』
「いや、それはないんじゃないですか?だって、どう見ても俺と同年代ですよ?」
確かに村一番どころかかなりの美少女だけれど、50歳オーバーには見えない。
髪型だけは、所謂聖○ちゃんカットのせいで古臭くは感じるけれどさ。
……まあ、今話しているソフィアさんなんてそれどころの年齢ではないが……。
『神と同化しとったんじゃ。その娘自身も神性を帯びておるようじゃぞ。そのせいで老化もしない存在になっとるんじゃよ多分』
「……えー……?」
もしかして、これはこれで厄ネタ……?
「行方不明から死亡判定までがこの世界の日本だと何年かは知らないけれど、50年もあれば確実に死んだことになってますよね……」
『この娘の家族も、50年前と変わらぬ姿で目の前に現れた娘にどう対応してよいかわからんじゃろうな。そもそも、その娘を生贄に捧げたのが他ならぬ両親や家族である可能性もあるわけじゃし』
「うへぇ……」
『もう責任取って連れ帰るしか無いじゃろ?』
「それもうほぼ人さらいじゃないですか……」
『本人のためじゃ。よろこべ、美少女の神様じゃぞ?』
神様に過度な期待をしてはいけない。
それを俺は、この世界に転生してから痛いほど学んでいるんですよ。
わかって?
『まあとりあえず、聖羅たちにまた女の子を拾ってきたことに対する釈明をする覚悟をしておくことじゃのう』
「なんかさ……俺が悪いことしているみたいな表現だけどさ、一生懸命働いた結果更に人助けしてるってだけですよね?」
『そうじゃなー』
「返事が棒……」
肉体的にも精神的にも、疲れて鉛のように重くなった体を引きずって、パワードスーツの元まで戻った。
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