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見つけた人面スライムを手当たり次第駆除する。
人間の成れの果てではあるけれども、生きているだけでも人間に害があるし、何より本人たちが報われないだろうから躊躇なく息の根を止める。
顔面はあるけれど、人型を辞めた時に骨は失ったみたいなので、一応組成している液体を少しずつは回収している。
DNAはそのままらしいから、これで個人特定ができるかもというわけだ。
残りの体は、全て燃やし尽くす。
汚物はやっぱり焼却だ。
下手に汚染を残しておくと、この地域全部を消却されかねないから……。
後は念仏でも唱えるくらいかな?
「なんまんだぶなんまんだぶ」
「大試、それなに?」
「死んだ人たちが、苦しまずにあの世に行ってまた元気にこの世界に生まれてきてくださいねって祈る言葉……とかそんなんじゃないか?俺もよく知らない」
「そうなんだ!じゃあシオリもやる!なんまんだぶなんまんだぶ!」
シオリが俺の真似をして念仏を唱える。
でも、パンパンと手を叩くのはダメだぞ。
それは神社だ。
これから向かうが……あの神社に祀られてるやつは、願いを聞いてくれるんだろうか?
「大試くん、粗方人面スライムは片付いたようだ。そろそろ本丸に襲撃をかけよう」
「そうですね。作戦は、さっき決めたとおりで良いんですか?」
「うん、私は戦闘に関していえば役立たずだろうからね。錬金術師だから、対象を分子以下に分解する技なんかもあるし戦えないことはないはずだけど、体力が陸に打ち上げられた魚以下だから!」
「自分で言わないでくださいよ……」
作戦は、かなりシンプルだ。
人面スライムはともかくとして、神社の中にいるっぽいヒルコ(仮)の強さが全然わからない。
そのため、相手が本気を出す前に天之尾羽張で即死させることにした。
魔力をすべて消費することで相手が神だろうと確実に殺す剣だから、こういうときにこそ役立てるべきだろう。
ただ、この剣にはちょっと懸念もあるんだよなぁ。
もし相手が、小さな生物の集合体のような生態をしていたら、どんなふうに効果を表すのかがいまいちわからないんだ。
例えばアレだ、カツオノエボシ。
小さなヒドロ虫の集合体であるあのクラゲは、それでも一応もとは一つの個体であって、それが分裂して出来上がっているらしい。
つまり、俺からすると1つの生物に見えるんだけれど、実際には機能が違う小さなヒドロ虫が集まった不思議生物なわけだ。
そういう生き物に対して、「1つの生き物を確実に殺す」って能力がどういうふうに作用するのかがわからん。
まあ、やってみて無理なら燃やすかな……。
倶利伽羅剣の炎ならこっちはダメージ負わないし、神社自体が炎上したとしても倶利伽羅剣で炎をコントロールしてやれば大して熱くもないだろう……多分!
「……ごめんね大試くん」
俺が1人自傷覚悟の突撃の決意を固めていると、不意に仙崎さんに謝罪された。
なんだ?寝ぼけて下着姿で歩き回ってたことか?
それに関してはむしろこちらとしてはお礼を言いたいくらいですが……。
「本当なら、こういう危ない事は私達大人が対処するべきなんだけれど、今はキミに頼らざるを得ない。情けないものだね……」
「いや、一応15歳で成人なんですよね?だったら俺だって大人のはずですし、何より俺は仲間に危ない役目をさせるくらいなら、自分が矢面に立ちたいので、仙崎さんが気にすることはないですよ」
「キミは、確かにそうかもしれない。でも、周りの人達だって、キミに傷ついてほしくないと思っている人はいるってことを覚えておいてくれ。私だってそうだ」
「大丈夫です。それは重々承知の上で、それでもちゃんと生きて帰るつもりで突っ込みますから。俺、これでもまだ殆ど死んだこと無いんですよ」
死んだことがないわけではない。
「……はぁ。ちゃんと無事に家に帰ろうね」
そう言いながら、座席の背もたれ越しに頭を撫でられる。
あぁ……頭を撫でられると子供扱いされているような気もしちゃうけど、大人の女性か小さな女の子にされる分には好き……。
男にされたら蹴り飛ばすが。
イケメンが女の子の頭を撫でてたりするシーンがアニメとかであるとすぐさま視聴を止めるくらいに嫌いだが。
神社の敷地内に入ると、昨日も感じたあの嫌な感じが強くなる。
村人たちが罹患しているあの呪病というのは、それをばら撒いた奴さえ始末すれば、呪いという原動力が供給されなくなるので、数日で終息するだろうと昨日鬼一さんが言っていた。
鬼一さんがばら撒いた人で無くなることができなくなるって病気も、ドロドロ病が無くなったら消えるらしい。
ならば、あとはあの神社の中身を始末するだけだ。
今回、神社の中に踏み込むのは俺だけだ。
俺が機体から出て、疱瘡正宗で感染を防ぎながらヒルコに近づき、天之尾羽張でさっさと決着をつける。
それが無理そうなら、神社ごとボルケーノで燃やし尽くす。
その結果、相手の体内の魔力が暴走して大爆発する可能性もあるけれど、その時もまあボルケーノ打ち込めば多少は威力を相殺できるだろう。
その場合、辺り一帯は消し飛ぶし、村人も全滅だろうが、それはまあしょうがないと諦めてもらうしか無い。
こんなヤバいもん放置してた結果なんだ。
受け入れてくれ。
パワードスーツ内にいる仲間は、装甲におもいっきり魔力を貯めておいたから爆発に巻き込まれても平気なはず。
あとは、俺がボロ雑巾みたいになっていたとしても、死ぬ前に聖羅のところまで連れて行ってもらえれば大丈夫なんでお任せだ。
うん、酷い作戦だ!
「じゃあ行ってきます」
「大試!頑張って!」
「気をつけるんだよ」
「コンテナの中は狭いので、できるだけ早く解決していただきたいです」
感染防止用のエアカーテンを通り抜けて外に出る。
人面スライムが大量にいるが、中のヒルコを刺激したくないから無視だ。
俺は、神社の入口から人面スライムがいなくなったタイミングで、素早く中に入った。
建物の中がどうなっているのか外からはわからなかったけれど、奥に何かの像みたいなものがある以外は、特別なものは特になさそうか?
……いや、よく見たら、床に穴がある。
どうやら地下室があるらしい。
そして、そこからとてつもなく嫌な気配が昇ってくる。
間違いなくこの下にいるな……。
「ソフィアさん、絶対にその時計から出てこないでくださいね。ダイヤモンドの中なら多少俺の炎で熱されても大丈夫でしょうし」
『わかっておる。じゃが、場合によってはワシの判断で外にでておヌシを守るからの』
「それは心強い。こういう所に自分がそこまで守る必要のない頼れる相棒が一緒に来てくれるってのはありがたいですね」
『じゃろう?我ながらいい女過ぎて怖いわ』
「そうですね」
天之尾羽張と疱瘡正宗を持って穴の中に飛び降りる。
一応縄梯子のようなものがあったみたいだけれど、とっくに腐り落ちていた。
地下室は、石造りのようだ。
ゴツゴツした石が敷き詰められていて、洞窟か何かみたいにも見える。
そんな寒々しく薄暗い空間に、ぼうっと光る人影があった。
見た目は……俺と同い年くらいの女の子……か?
だけど、雰囲気は人のものじゃない。
転生してから何度か体験したこの悪寒。
間違いなく、こいつがヒルコ(仮)だろう。
ヒルコという名前と違って、ちゃんと手足もあるみたいだけれど。
「……一応確認しておく。ここに間違って迷い込んだ迷子ってことはないよな?」
人間のすがたをしているとは思っていなかったので、確認のためにも一回聞いてから殺すことにした。
『……』
女の子は、答えない。
だけど、顔だけはこちらを向いた。
感情を失ったその表情を俺が認識した次の瞬間、地下室の中が火の海になった。
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