361:
意識が覚醒する。
俺は、眠っていたようだ。
だけど、いつものベッドの上ではない。
なんというか……やすっぽいマットレスの上みたいな……なんだこれ?
とりあえず、ぼやける目を無理に開けて周りを確認する。
何故か息苦しいし、早い所現状を把握したい。
「お早うございます犀果様」
「……おはよう」
俺の顔面から10cmくらいの所に美少女の顔があった。
驚いて飛び跳ねそうだった。
「何してんだアイ」
「犀果様の寝顔を観察していました」
「そう……」
自分の今の状況を確認する。
……そうだった、俺たちはコンテナハウスの中に泊まったんだった。
元々仙崎さんと俺の2人で来る予定だったから、このコンテナハウスの中にはベッドが2つしかなかったので、ベッドは女性陣に明け渡して俺は食事スペースの硬い長椅子で寝たんだった。
……なのに、すぐ隣で横になっているこのAIメイドは何してんだ……?
「椅子を4つ集めて、その上で寝ています」
「寝辛くない?」
「犀果様と添い寝するチャンスでしたので、それ以外の要素は無視することにしました」
「そう……」
すごい決意だ……。
俺なら疲れている時は絶対寝る事優先しちゃうな……。
「ただ、流石に体中がバッキバキです」
「……」
翌日に影響残すような事するなよ……。
そこまで考えてから、ある事に気が付く。
コイツが横にいるってことは、なんで俺は息苦しいと感じているんだ?
それこそ、誰かが上にのっているような……?
「……」
「んふー……」
「夜中にトイレに起きた後、寝ぼけて乗っていましたよ」
自分の体の方を見ると、シオリが俺の上に覆いかぶさるように寝ていた。
何しているんだコイツは……?
とりあえず起こさないようにそっと長椅子の上に降ろし寝かせておく。
ついでに、変な寝方をしていたあんぽんたんメイドも長椅子の方に移動させ、一緒に寝かせておく。
毛布を掛けて封印だ。
「ちゃんと寝ておけ」
「畏まりました。犀果様の体温で温まった椅子と毛布で寝かせて頂きます」
「……まあ……うん」
なぜこの寝心地の悪い長椅子にメンバーの過半数が寝ているのか……。
狭いベッドに2人ずつとはいえ、あっちで寝ていた方が良いだろうに……。
そう思ってベッドの方を見てみると、両方のベッドで豊満バディたちが大の字になって寝ている。
何故か2人とも下着姿だ。
いや、仙崎さんは昨日からもう寝苦しそうに服脱いで寝てたな……。
ソフィアさんはその真似だろう……。
とりあえず目の保養……毒なので、毛布を掛け直しておく。
時刻は、まだ早朝の4時。
この季節だと、まだまだ真っ暗な時間帯だ。
流石に今日は、朝のランニングをするわけにもいかないだろう。
今俺たちは、平和に寝ぼけながら惰眠を貪っているけれど、ぶっちゃけ非常事態宣言一歩手前……というか、何が起きているのかが国民にバレたら大混乱が起きそうだから秘密にしているだけで、全部包み隠さず公開されていたとしたら、とっくに非常事態宣言が発令されている状態だからなぁ。
安全装置がついているんだかいないんだかわからない核爆弾が、自我のある病原菌まき散らしながら国内に放置されているような状態だし……。
嫌だ嫌だ。
そんなろくでもない物への対応させられる奴は可哀想だな。
……顔洗うか……。
蛇口から出るキンキンに冷えた水が顔についた瞬間、残っていた眠気も吹き飛んでしまう。
顔を上げ、目の前の鏡を見ると、割と疲れた顔の俺がいる。
うん、あのパワードスーツ疲れるわ……。
試技エリアなら、死亡判定受ければ最初の状態まで巻き戻されるから楽だけれど、流石にそれなしで長時間あれを動かすのは大変だ。
肉体的にというより、魔力を使い過ぎて疲れている感じなので、木刀で回復すればきっと大丈夫なんだろうけれど、流石にここでそれに頼るのももったいない気がするしなぁ……。
まあ、最悪の場合は木刀回復でもなんでも使ってなんとかするさ。
木刀のストックも30本超えたし、多少無茶な使い方しても大丈夫だろう。
「たいしくん……ごはん……」
後ろから声をかけられたので振り向くと、フラフラしている美女が、下着姿のまま髪を寝ぐせだらけにして立っている。
仙崎さん……本気になればカッコいいできる女になるのに、どうしてこんな事に……。
「用意しますから、顔洗って……なんならシャワーでも浴びて、眠気を覚ましたら服を着ててください」
「……あれ?何故私はこんな所に下着姿で……?そして、目の前には大試君……?……そうか、これは夢か。明晰夢という奴だな?私は頭がいいから詳しいんだ。そして、明晰夢であれば自分の思うがままに行動できるはず。大試君!ちょっと私を抱きしめて頭を撫でながら『理乃可愛いよ。いつも頑張ってて偉いよ』って言ってくれ!」
「仙崎さん、寝ぼけてないでさっさと顔洗ってください」
「……あれ?」
仙崎さんを洗面所に押し込んで扉を閉める。
何かうめき声の方な物が中から聞こえるけれど、聞かなかったことにしてあげるのが人としての情けというものだろう。
代わり映えのしない冷凍ランチプレートシリーズから、ソーセージとスクランブルエッグに何かのサンドイッチの奴を選んで電子レンジで人数分解凍する。
まだ時間的にはかなり早いけれど、朝6時には行動を開始して、できれば今日中に始末をつけてしまいたい。
学校をあまり休みたくないし、何より自分たちの身が危ないからだ。
呪病なんていう面倒な物が蔓延している場所で、ちょっと間違ったら辺り一帯消し飛ばされるかもしれない状況で活動しているんだからなぁ……。
俺が多少吹き飛ばされるくらいならいいけど、今回は一緒に皆もいる。
安全を考慮しつつも、できるだけ早急に解決するべきだ。
それに、昨日王様に頼んで援軍を呼んでもらったけれど、正直そっちもどうなることか……。
この状況で援軍としてやってきて戦力になれる奴って、この国にどれだけいるんだろうか?
俺の両親を始めとした開拓村の人たちなら、多分十分戦力になるだろうけれど、あの人たちは多分来てくれないしな……。
他にいる強い人たちは、有能だからって各地の仕事が集中してて身動き取れないだろうし……。
となれば、寄越されるのは対神のスペシャリストなんて上等なもんではなく、病毒に犯された地域を消し飛ばすための破壊者、もしくは強力な爆弾な気がする。
バイオハザードが発生したからって核爆弾で吹き飛ばすハリウッド映画的な内容になりかねない。
怖いなぁ……。
やっぱり、何が何でもスムーズに解決しないとな。
そういえば、疲れを取るのにいい武器持ってたな……。
俺は、手の中に疱瘡正宗を具現化させる。
疲労状態を状態異常と頭の中で考えることで、それを解除させることができる優れモノだ。
たまに会長に使ってる。
開拓村では、酔っぱらいどもに使ってたけど。
能力を使うと魔力が消費されるけれど、ぶっちゃけこんなんで消費される魔力なんて、俺にとっては誤差でしかない。
それよりも、この疲れた感じを何とかしたい。
「……あー、いいわぁ……」
じんわりと癒されていく感じが溜まらない。
毒とかだったら一瞬で治るけれど、疲労だと少し速度が落ちるんだよな……。
拡大解釈を利用して、無理やり治してるからかな?
そういえば、今回パンデミックがどうこう言われていたから疱瘡正宗を使う機会も多いかと思ってたんだけど、それどころじゃない事態が起こりすぎてて忘れてたわ。
回復魔法が効果薄いらしいけど、疱瘡正宗を実際に使ってみたらどうなるんだろうか?
そもそも、何故回復魔法の効果が薄いんだろうか?
全く効果が無いならともかく、多少は効いた後にまた最初の状態に戻るって感じみたいだからなぁ……。
リンゼは、相手が神の力だからかもしれないって言っていたし、実際に相手から神性存在を相手にしたような嫌な雰囲気を感じるけれど、それはそれとして、この神剣の効果も試しておかないとな。
やっておきたいことは多い。
時間は少ない。
まいっちゃうなぁ……。
「大試!ごはん!」
「ごはんじゃ!」
振り向くと、既に食卓にエルフ耳2人が座っていた。
お前ら、さっきまでグースカ寝てたじゃん……。
そう思いながらも、頼りになる仲間のために食料を温め提供する。
すごい食欲で瞬く間に平らげ、おかわりを要求してくる2人。
……あれ?病気や敵や援軍の状況がどうこうの前に、やっぱり一番の問題は食料なのでは?
今更ですが、50話の収納カバンの設定を変更しました。
それに伴って内容を変える場所が出てくるかもしれませんが、予めご了承ください。
感想、評価よろしくお願いします。




