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354:

「約35時間前、該当地域の交番からの定時連絡が途絶えた。再三の呼び出しにも応答なし。確認のため現地に向かわせた警官からも、該当地域に入ってすぐに連絡が途絶えた。何が起きているのかは不明だが、間違いなく大事だと判断した地元警察長と管理貴族は、すぐにこれを王城へ報告するとともに、自らの手勢を厳戒態勢を布いたうえで現地調査へと向かわせたらしい。この映像は、その調査部隊が持ち帰ったものだ」


 パワードスーツ(名前はまだない。絶賛募集中 byまるお義兄)の全周モニターに、信じられない映像が映し出される。

 皮膚が所々黒と緑の斑点に覆われた人々が大挙して撮影者……恐らく、調査に向かった部隊へと迫っている。

 だが、別にゾンビパニック物みたいな感じではない。

 あくまでフレンドリーに、されど狂気を孕んだ顔でだ。

 明らかに体に異常を来しているにも関わらず、その自覚がないのか、その歩みは止まらない。


『そこで止まれ!我々は、この地域の調査に着た伊達子爵家の者だ!最奥牙村の住人か!?』

『はい、そうですよ?何かありましたか?』

『何かって……お前たち!自分の肌を見ろ!どうしたんだそれは!?皮膚病か!?痛くないのか!?』

『あぁこれですか……いいえまったく。むしろ幸せなのです。是非皆さまも一緒になりませか?』

『何を言って……待て!そこで止まれと言っているだろう!?……おい!それ以上来るなら本当に!……やむを得ん!盾班前へ!魔術部隊は、暴徒制圧用非殺傷魔術……雷系統のものを使い相手集団の動きを止めろ!相手の動きを食い止めた後、防疫小隊はサンプルを回収!防護服は着ているな!?よし……やれ!』


 そのまま戦闘に突入したけど、電撃で動きが止まった人たちの後ろからどんどん村人が押し寄せてきてキリがない。

 サンプルとして捕獲された村人に、回復魔術や解毒魔術をかけるも、あまり効果はないようだ。

 というより、一時的に回復しはじめているように見えるのに、術を止めるとすぐに元に戻る。

 そんな事をしていたら、取り押さえていた防護服装備の兵士っぽい人が、村人らしき人に噛みつかれた。

 即隔離され、丁寧に消毒や止血などの手当をした後に隔離観察していると、1時間ほどで村人たちと同じような斑点か痣のようなものが肌に現れ、そこから30分ほどで言動まで村人たちのようになってしまった。

 調査部隊は、自分たちでは手に負えないと判断して後退。

 その後、現場を封鎖して出入りを禁止しているという。

 不幸中の幸いで、現地の村は山の中のため、出るのも入るのも1つの道しか使えないので、監視するのは楽らしい。

 その道以外は、強力な魔獣が出てくることもある魔物の領域らしく、更に雪も相当積もっているため、その道以外からの出入りは考えにくいそうだ。


「そんな感じで緊急事態だと判断され、王城の中に対策本部が作られて、私もそこに呼ばれた訳さ。一応防護服が抜かれない限りは感染も発生していないため、感染症ではないかという意見が多くてね。軍人に防護服を着せて向かわせるとか、もう村ごと焼き払うかなんて、呼ばれた者たちで喧々囂々と話し合ってたら、『防護服でなんとかなるなら、新作のパワードスーツで何とかなりそうだね。扱えるの犀果大試だけだから、皆さんは嫌な顔するかもしれませんが。あはは』なんて、キミの義兄が言い出して、こうしてキミを送り込むことが決まっちゃったのさ」

「いい迷惑すぎる……」


 俺達は今、その名前もないパワードスーツ3番機(複座型)に乗って移動している。

 後ろの席に仙崎さんが座り、前の席には俺が乗って機体の操作を担当。

 そして、膝の上にシオリが乗って、俺の腕時計につけられた人工ダイヤモンドにソフィアさんが入っている。

「この前セルフ封印されてた時にコツを掴んでのう。大試が身につけておいてくれるならば、この程度のダイヤの中にでも入り続けられそうじゃ」とのことで、コクピット内のスペースを節約するために入ってもらっている。

 因みにこの時計、買うと数千万GMするらしい。

 たまたま通りかかったリンゼのお父さんが身につけていた物をソフィアさんが目ざとく見つけ、事情を説明して貸してもらったんだ。

 公爵様は笑って貸してくれたけど、こんな高価なもんが手首に巻き付いているっていう事実が怖いから、早い所帰って返却したい……。

 もう一人今回はメンバーがいるけれど、彼女が乗っているのはコクピットではない。


『最果様、暗くて狭くて寂しいので、何か面白い話をしてください』

「無茶振りすぎる……じゃあカブトムシが、俺の指をメスだと思って交尾行動を始めちゃって、気持ち悪いから外そうとしたけれど、物凄いパワーでくっついてるから外せなくて泣きそうになった話でもするか?」

『いえ結構です』


 背中に背負われているパワードスーツ専用コンテナの中にいるアイが答える。

 せっかく話題ひねり出したのに酷くない?


「そっちは大丈夫か?痛かったり苦しかったりしないか?」

『コクピットと同等の換気機能を取り付けて頂いたので問題ありません。寒さも私のキュートな防寒着のお陰でへっちゃらです』

「そうか」

『キュートですよ?』

「そうだな、お前は可愛いよ」

『はい』


 アイ曰く、『ロボットの背中のコンテナにサポート用ロボ娘が入って動き回るというのが今のトレンドです』と言い張ってついてきた。

 どこのトレンドかは知らんが。


 アイに関しては、現地で何が起きるかわからないため、最悪ボディを廃棄できる作業員としてついてきてもらっている。

 端末なので、ボディを破棄しても問題ないと本人は言っているけれど、できればそんな事はしたくないな……。


「ん〜♪」

「チョコ美味いか?」

「んー!」


 シオリは、万が一俺の魔力が枯渇したときのバックアップだ。

 彼女の魔力は、うちの家族だと俺を除けばエリザと同等の2位タイだ。

 何千年も生きているはずなのに、本人曰く病気にもなったことが無いらしいので、今回連れてきた。

 あと、体が小さいというのも重要だ。

 仮にエリザを連れてきて膝の上に乗せながら移動していたら、俺は理性をブロークンさせて腹を切っていたかもしれない。

 補助席は前の席よりも狭く、しかも乗っているのがダイナマイトバディを自他ともに認める仙崎さんだ。

 そこにエリザを押し込めば、これまたとんでもない破廉恥な光景となるだろう。

 よって、俺の膝の上に俺の欲望をギリギリ刺激しない少女が載せられたわけだ。

 まあシオリを連れてきたせいで、背中のコンテナの中身が、アイが入っている部分以外の6割方食料になってしまったのは計算外だったけど……。

 残りは水と検査機器。

 食料が足りなくなったら、現地で魔獣でも狩るか帰還する予定ではあるけれど、パンデミックとやらが発生している場所で狩った獲物を食うのもなぁ……。


「これ、どのくらいの期間調査するつもりなんですか?」

「全くわからないな。そもそもアレが、感染症なのかどうかすらわかっていないからね」

「……俺、明日から学校なんですよ。食料だってあんまりないし……」

「そこは心配いらない。大試くんは公休扱いで、しかも国家への貢献活動ということで更に単位がもらえるように計らって貰っているよ」

「行かずに済むように計らってほしかった……」

「それは無理だねぇ。この機体を動かせるのはキミだけなんだ。私も仕様書を読み込んで、実際に試技エリアでも使ってみたけれど、数秒で死亡判定を受けてリセットされたよ。こんな狂った物をよく扱っているなと感心した」


 くそ!

 なんでこの最悪のタイミングでこんなおもしろアイテムを開発したんだあの義兄は!?

 あと1週間遅く完成していれば、こんな訳のわからない任務に駆り出されることもなかったのに!

 しかも、また俺が功績でも立てようもんなら、周りの貴族たちがまた俺を敵視するんだろ?

 クソが!嫌なら自分たちでやれよ!いくらでも役割譲るから防護服着て現地いけ!


「はぁ……なんでこんな事に……」

「仕事ができる者に仕事が集まる。仕方がないことだよ。頑張って働いて私を養ってくれ」

「俺は、俺の子供生んでくれる覚悟ある人しか養いません。結果的に子供ができなかったりとかは仕方ないですけれど、やっぱり養う以上はそれに見合う役割を担ってもらわないと。そうじゃなければ、ちゃんと仕事してもらいます」

「……待ってくれ、大試君の子供を産めば養ってくれるのかい?本当に?経験無い年上の女についてどう思う?」

「いや、本気で悩まないでくださいよ……」


 母さんにはオススメされたけれど、もう婚約者いっぱいいるんで……。



 時速40km程で山間の道を進んでいると、前方にバリケードのようなものが見えてきた。

 その手前で停止したら、現場の指揮官っぽい人が前に出て話し始める。


『お疲れ様です!話は聞いております!すぐに向かわれますか?』

「あぁ、そのつもりだ。何か状況に変化はあったかい?」

『ありません!一定距離離れると、住人たちも向かってきませんので!』

「そうか……では、私達は進む。キミ達は引き続きココで警戒にあたってくれ」

『は!』


 仙崎さんが、デキる女っぽい声で指示を飛ばした。

 昨日の夜中にノーブラジャージで出ていこうとしていた人と同一人物とは思えない。


 バリケードを守っていた人たちが左右に別れ門が開いたので、俺は前へと進んだ。


 数分進むと人家が見えてきたので、恐らくアレが最奥牙村なんだろう。

 嫌がおうにも緊張が高まる。


「そろそろ住民が向かってくるかもしれない。注意を……」


 仙崎さんがそう言ったのと同時に、村の中から人が何人も歩いてきた。

 気持ち悪い笑顔だ……。


 仙崎さんが、外部スピーカーで警告を発する。


「止まれ!私は調査に来た仙崎だ!止まらなければ実力で排除を」


 面倒なので、そのまま住人たちを蹴り飛ばしながら進んだ。

 まあ、多分死んでないだろ。


「キミ、やっぱり狂ってないか?」


 失礼な!

 


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― 新着の感想 ―
狂っているのはこんなわけわからない事件が頻発するこの世界だと思う。
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