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「んー!?んふ〜♪」
「美味いか?」
「んー!」
「そうか、ゆっくり食え。おかわりもあるぞ」
俺は今、助っ人といっしょにチョコレートの処理をしている。
そうそうすぐに悪くなるものではないけれど、かといって全く傷まない訳でもない。
渡してくる方も、あれだけ一度に何十個も義理で渡してくるのだから、すべて俺が食べると考えて渡しているわけではないだろう……。
そう自分に言い訳をし、明らかに義理チョコと思われる、保護している教会の元被害者等から貰ったチョコレートを消費できる分だけ開封しつつ、リストに纏めている。
貰って嬉しくないわけではない……というか、そもそも女性からチョコレートをもらえること自体、前世から考えると飛び跳ねる程の自体なので、無下にはしたくない。
よって、義理とは言えお返しに感謝の品を贈るためにも、中身を改めつつ処理する必要があったんだ。
世のイケメンたちは、毎年こんな事してるんだろうか?
すごい事務処理能力だな……。
もちろん、俺自身がまったく食べないのは失礼にもほどがあるので、10分の1程を割って食べている。
残りはどうしているかって?
助っ人に食べてもらっているんだ。
「それにしても、シオリはすごいな?どれだけチョコレート食べても、新鮮な顔をして喜んでくれるから食わせ甲斐があるわ」
「んー?ん!」
「何言っているかはわからないから、口の中身がなくなってから話してな」
オリジンという固有種?である彼女は、エルフを素体にして強化された存在らしい。
だからなのか、よく食べる。
にも関わらず幼いままなのはなんでなんだろう?
これが、完璧な姿だってことなんだろうか?
確かにフィギュアスケートとかしたら映えそうな体型だけど、もっと成長したほうが戦闘力は上がりそうなもんだけどな。
こんなふうに。
「……なんじゃ?」
「いや、ソフィアさんて、本当に全身が美しいなって思っただけです」
「じゃろう?見たいなら服を脱いでもいいんじゃが?」
「見たいですけど、俺には婚約者がいるので」
「相変わらずじゃなぁ……。漫画じゃと、普通男は据え膳なんとかで、チャンスがあれば飛びつくもんじゃないかのう?」
「人によるんじゃないですか?俺だって、婚約者がいなければ飛びついてたと思いますけど」
「じゃろ〜?」
機嫌が良さそうだ。
「んふ〜♪」
シオリも大喜びだし、チョコレートっていうのは最高だな!
ただ来年からは、1つ1つの大きさを10分の1くらいにしてもらえないかな……。
因みに、聖羅たち婚約者や、アイやファムたちのように一緒の家に暮らす家族、あと委員長たち学校関係でもらったチョコレートやクッキー等については、当日の内に食べておいた。
可能なら永久保存したいくらいのレジェンダリーアイテムだけれど、食べ物を食べずに保管はちょっとな……。
というわけで、毎回美味しくいただけるように、物凄い距離を走ったりしながら、こっちに関してはシオリを助っ人にしたりもせず自分で食べたよ。
美味しかった……。
会長から頼まれた仕事もしながらだったから、かなりキツかったが……。
雑談も交えつつ作業を続けていると、居間にメイドが入ってきた。
顕微鏡で見るとハート型のチョコパウダーというとんでも技術を使って作られたチョコレート渡してきたアイだ。
「最果様、まる様からの通信がありました。例のものが完成したそうです」
「来たか!」
俺は、座っていたソファーから飛び跳ねるように立ち上がる。
近くにいたソフィアさんとシオリがちょっと驚いているが気にしない。
「この作業は一時中断する。チョコレートだし明日でも腐らんだろう。それより重要なことができた」
「なんじゃ?」
「ん〜?」
「おそーじくん渡す条件で作ってもらってたパワードスーツが完成したらしい!」
「あー、アレなぁ……本気だったんじゃな……」
「んー」
興味なさそうなシオリと、ちょっと呆れているっぽいソフィアさん。
何故か俺のこの情熱は理解される事がない。
でも仕方ないか……。
前世の世界でも、これで大喜びするのは、大半が男の子だったし。
既に開封していたチョコレートは、表にまとめてから10分の1食べ、シオリの口に入れる。
残りは、冷暗所に移して片付けた。
よし!さっそくリンゼんちへゴーだ!
「よく来たね大試君!ソフィアさんも!おや?シオリちゃんも一緒なんだね。ようこそ」
「元気そうじゃな」
「ん〜」
「はいこんにちわ。それで、例のものは?」
「早速だねぇ……その気持わかるよ!みたいよね!」
「はい!」
言葉など必要無い。
俺とまる義兄さんは、駆け足で研究所の中を進んだ。
「これが……俺の機体……!」
「全高約5m!重量約2t!世界で初めての戦闘用パワードスーツだよ!早速乗る……いや、着てみるかい!?」
「はい!」
目の前には、黒い塊が立っていた。
操作方法どころか、どこに乗るのかさえわからないけれど、俺は即乗ることに決めた。
もしかしたら乗ることによるリスクとかあるのかもしれないけれど、知らん!
「そこの胸の所に丸い部分あるでしょ?そこに手を押し付けると、指紋と掌紋チェックが入ってコクピットが開けられるよ。そこまで上がれない時には、足の所にある同じ丸い装置に触れると、胸の所まで引っ張り上げてくれるワイヤーが降りてくるから、それつかってね!」
「ラジャー!」
言われた通りするとワイヤーが降りてきたので、その先端についている足場みたいなのに足をかけ引っ張り上げてもらう。
なんか雰囲気あるな!
胸の丸いセンサーみたいなのは、なんかボディビルダーの乳首みたいでアレだけど……。
とりあえず触れると、がぱっと胴体が開いて、コクピットらしい搭乗席が見えた。
即乗り込むと、自動なのかコクピットが閉まる。
『大試くん聞こえるかい?』
「聞こえます!」
機体内にスピーカーから声が聞こえる。
雰囲気あるなぁ!
『コクピット内に色々スイッチ類あると思うけれど、基本的にはそれらは触る必要はないんだ。動かすだけなら、左右の操縦用のレバーさえ握っておけば、脳波を読み取る魔導具で勝手に動いてくれるよ。とりあえず試しにやっていて』
「はい!」
俺は、言われた通りにレバーを握りしめる。
すると、自分の体がものすごく大きくなったような感じがした。
……成程、俺の脳波を読み取るだけじゃなくて、機体自体が俺の体になるような感覚になるよう双方向で通信できるのか。
面白い!
とりあえず歩いてみる。
振動は……全然ないな!
搭乗するタイプの人型兵器のウィークポイントのはずなのに、登場者への衝撃がないなんて完璧じゃないか!
慣性制御でもあるのかな!?
『どうだい?気に入ってくれたかな?』
「すごいですねこれ!」
『そうだろう!?この機体の最高走行速度は、大試君の全力疾走の半分くらいの速度だし、パワーも大試君の7割位もあるんだ!』
「おー!……え?」
『大試くんは、そろそろ自分の身体能力が出鱈目になっていることを自覚するべきだと思って敢えて言っておいた!』
「そうですか……」
なんだ……俺より弱いのかこいつ……。
たしかに俺の身体能力は、エクスカリバーの身体能力強化を受けたうえで、身体強化魔術を行使している状態の有栖と同等以上の身体能力がある。
だからそりゃ強いんだろうけれど、こいつはソレ以下なのかぁ……。
俺がコクピット内で暗い顔をしていると、ニヤっとした顔のまる義兄さんが全周囲モニターに映る。
『がっかりする必要はないよ!だってこの機体は、それ自体が魔術触媒になるんだ!』
「……どういう意味です?」
『つまり、このパワードスーツは、それ自体が魔術用の杖のように使えるんだ。つまり、これを着たまま身体強化の魔術なんかを使える!体の延長線になるように作られているからね!だからスーツなのさ!』
「……へー?でも俺魔術使えませんよ?」
『そうだね!もしかしたら、大試君の剣による身体強化も乗っからないかなって思ったけれど、それは無いみたいだ。だけど!そのパワードスーツには、オートで身体強化魔術を発動する魔導具的な機能もある!』
「なん……だと……?」
『左側に赤いスイッチがあるだろう?それを押してみてくれ』
「……いや、ドクロマークついてますけど……?」
興奮も一瞬で冷めるわ。
『大丈夫!ここは試技エリアだし、大試君なら問題ない機能だから!比較実験のために、2番機には僕が乗るね!』
そう言うと、まる義兄さんは何かのリモコンのスイッチを押した。
すると、床が一部せり上がってきて下から俺が乗っているパワードスーツと同じような機体が出てきた。
まる義兄さんがそれに乗り込む。
「比較ってどういうことです?」
『まあそれは見てみればわかるよ。じゃあ一緒にスイッチ押すよ?せーの!』
そう言われ、仕方なく押してみる。
すると、確かに身体強化がかかったらしく動きが異常なほど速くなる。
しかも、モニターが赤く点滅したりなんだりで、何となくリスクとって強くなる系の切り札感がすごい。
まる義兄さんが乗っている2番機も、高速で動き回る俺に追従しているようだ。
外から見ると、機体色が黒から赤になるのか……。
ちゅき……♡
「おー!?これすごい!」
『だろう!?ただ、登場者か搭載している魔石からゴリゴリ魔力を吸い取っていくから……』
その通信を最後に、まる義兄さんの言葉が途切れる。
みると、2番機は最初の場所に戻っていた。
あれ?試技エリアでこうなるときって……。
『普通の人間だとすぐ魔力が過剰に吸い取られて死んじゃうんだ!現状だと実質大試くん専用だね!』
「やべぇやつじゃん……」
やっぱヤバいわこの義兄……。
ちょっとこれを試技エリア以外で使うのは厳しいかな……。
まあ、カッコいいからシミュレーション起動して乗り倒すけれど!
そんな俺の、安全を重視しながらも楽しみたいという気持ちは、翌日早速駄目になるわけだけど、この時はまだそれを知らず純粋に楽しんでいた。
感想、評価よろしくお願いします。




