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大試たちがあれやこれやを解決し、やっとの思いで束の間の平和を勝ち取り、ようやく安心して惰眠を貪れるようになったある日の草木も眠る丑三つ時。
犀果邸の一室にて、2人の美女がコソコソと話し合っていた。
「用意したにゃ。聞いていたとおりなら、これで問題ないはずニャ」
「おぉ……よくこんなものを見つけてきたのう?この地球にこれ程まで巨大なダイヤモンドは早々ないじゃろ?」
「無かったから作ってもらったにゃ」
「何?これは偽物なのか?」
「本物ニャ。人工ってだけにゃ」
「ほう……技術の進歩というのはすごいのう……」
「で、これでいいんだにゃ?」
「……大丈夫そうじゃ。魔力の通りも良い。3日程度なら十分耐えられるじゃろ」
「ここまで大きくても3日しか無理なんてコスパ悪いにゃ……」
「本来であれば、死ぬまで離れられん関係なんじゃぞ?」
「いや、一回精霊の世界に帰れば良いんじゃないにゃ?」
「再召喚させるのが面倒なんじゃ」
「面倒とか言われても困るにゃ……」
猫耳メイドの美女は、ここ数週間ある準備のために忙しくしていた。
内容をあまり周りのニンゲンに知られるわけにも行かず、常に極秘で動いていたのだ。
その最大の障害である大精霊の美女には、常に一緒にいるため流石に隠し通す事はできそうになく、諦めて最初から協力してもらっていたわけだが。
手に持つ巨大な人工ダイヤモンドも、その協力に必要な小道具でしか無い。
人工ならダイヤモンドでもきっと安いニャ〜とかナメたこと考えていた猫耳メイドだったが、実際に調べてみたら、自分の給料3ヶ月分で焦ったりしているのだが、些細な問題だ。
食事は家にいれば出してもらえるし、雇い主は自分に甘いから、ちょっと真面目に仕事をしているだけでちょくちょくお小遣いをくれるため、こっちに来て偽造した身分で作った銀行口座の中がスッカラカンになっても全く不安ではないのだ。
ないったらないのだ。
「にしても、そこまでしなきゃいけないことなのかのう?適当に探せば良いのではないか?」
「ダメニャ……ニャ―の一族は、その辺り厳しいにゃ」
「まあ、ワシは構わんが……。では、明日自分で頼むんじゃぞ?」
「……なんて言えば良いのか、まだ考え中なんだけどニャ……」
「正直に言えば良いんじゃないかのう?」
「恥ずかしいにゃ」
「青いのう、若レモン味じゃ」
そうして夜は明ける。
猫耳メイドの雇い主……実際には、隷属する相手であるはずの極甘主人が、早朝のトレーニングを終えて、シャワーを浴びてから食堂へとやってきた。
まだ他の家族はやってきていない。
チャンスだ!
そう猫耳メイドは考え、すぐさま行動に移した。
「ボス、ちょっとお願いがあるにゃ」
「ん?ファムが俺にお願い?どうした?食べ歩き用のお小遣いが足りなくなったか?いくらだ?」
「いやそういうんじゃなくてニャ……もらえるならもらうけどにゃ」
っと、話が逸れそうになりつつも、ギリギリ踏ん張って耐える猫耳メイド。
実は、割とテンパっていて、今もギリギリの精神状態だったりするのだが、それを表面に出さずいつも通りを意識して主に願いを伝えることにした。
なぜなら恥ずかしいから。
「明日と明後日の土日、ちょっと一緒に出かけてほしいニャ」
「でかける?買い物か何かか?俺と一緒じゃないとダメってどこに?」
当然の質問だ。
そして、猫耳メイドにとっての一番の恥ずかしい部分でもある。
これを正直に頼むと、アレがアレでコレなので。
だから、結局日和った。
魔王軍幹部として成り上がり、ブイブイ言わせた強者と言えど、猫耳メイドは未だに初心だった。
「いやぁ……ちょっと、実家の両親に里帰りしろって手紙で言われててにゃ……。そして、今の雇い主にも挨拶がしたいからできれば連れてきなさいって言ってるニャ……」
「へぇ、ファムのご両親が……」
基本的に、この主は猫耳メイドがお願いすれば殆ど断らない。
あーだこーだ言っても、結局最後はなんだかんだでやってくれる。
だから、自分でも自覚はあるけれど、猫耳メイドはかなりこの主に甘えていた。
あまりに甘えすぎて、自分の部屋に帰ってから、「あれ?あそこまでやったらほぼ彼氏じゃないかニャ!?」と気がついて、布団に潜ったりしているが、それは本人しか知らない。
「まあいいよ。予定も無いし。じゃあソフィアさんにも伝えておくか……」
「ソレには及ばんぞ」
そこに、ぱっとすがたを表す大精霊。
もちろん彼女は、今回のことを事前に知っている。
そして、猫耳メイドが少し日和ったことにちょっとだけ呆れている。
「ワシは、これから月曜日まで、セルフ封印されることにした」
「なんですかそれ?ガソリンスタンドみたいな……」
「自分で自分を封印するんじゃ。そうすることで、この現世に存在しながら大試から離れることができるんじゃよ」
「え?留守番するんですか?ってか、そういう便利な機能あったんですね」
「機能って……まあそうじゃな。じゃが、それにはとても大きな宝石が必要でのう。ファム、あれを」
「ニャ」
猫耳メイドが取り出したこぶし大の人工ダイヤに、主の目が驚きで見開かれる。
「でっか!」
「これなら、3日は耐えられるじゃろう」
「……え?こんな大きいダイヤが、3日分のなにかのためだけに消費されるんですか?」
「そうじゃ。超コスパ悪いから、そうそう多様はできん」
「ほへぇ……」
主は、「じゃあなんで今回はそれをするんだ?」と一瞬考えたようだが、「まあ良いか」とすぐに考えを改めたようだ。
そういう前向きな所がす
「いや違う違う落ち着くにゃ!」
「え!?どうした!?」
「なんでもないニャ!」
「えぇ……?」
危なく変な事を考えそうになった猫耳メイドだったが、努めて冷静にミッションを遂行することにした。
「これで、ニャーと2人で行ってほしいニャ。流石にあんまりぞろぞろと実家に連れて行くのは恥ずかしいからにゃ」
「そっか。いいぞ。何時出発だ?」
「明日、土曜日の朝8時に出発して、魔王城に一回飛んでから、実家に飛ぶにゃ」
「一足飛びにはテレポートできないんだな」
「田舎すぎてめちゃくちゃ遠いにゃ」
「へぇ、田舎とかあるんだなぁ魔族の領域って」
「何言ってるにゃ?ファントムキャットの住んでいる所は物凄い田舎にゃ。ニャーの方言でわからないにゃ?」
「方言?」
「語尾にニャってつけるのは方言ニャ。上京して直そうと思ったけど無理だったにゃ」
「それ方言だったのか!?」
そこで驚かれると思っていなかった猫耳メイドだったが、とりあえずミッションが成功したためその豊満な胸を撫で下ろした。
「……」
「にゃ!?」
しかし、主の後ろの食堂入口で、ジトーとこっちを睨む主の婚約者を見るまではだが……。
「お?聖羅おはよう」
「おはよう大試……にゃ」
「え?可愛い。でもやっぱりキツネ耳キャラのほうが……」
そんなやり取りを見て、自分は本当にこの主のもとで働いていて良いのだろうかと少しだけ考えた猫耳メイドだった。
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