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「それで!洞窟に先の地底世界はどうだった!?」
「太古の大森林って感じでした」
「研究者を向かわせたり開拓させるのは可能そうか!?」
「難しいと思います。そこら中に恐竜がいて、モリモリ肉食う現地人が狩りまくってても全く減っている感じがしませんでした」
「そうか!じゃあ洞窟の出入り口だけ監視して後は放置だな!」
「あと、あの写真のUMAが外に出てこれるような道はありませんでした。もしかしたら、地底の恐竜とは全く別のルートで生き残った奴かもしれないです。何ッシーにしますか?」
「そうだな!UMAッシーにするぞ!」
軍務卿とかのアレやコレを何とかした俺達は、俺の失血からの失神コンボを機会にして帰還した。
そして聖羅にチャチャっと治してもらった後、血の材料になりそうなローストキョウリューを食べながら登城したわけだ。
漫画に出てくるような焼いた骨付き肉みたいなローストキョウリューを食べながら城にやってきた俺を、貴族たちが信じられないものを見るような目で見ていたのが印象的だった。
城で歩きながら肉食っているマナー違反な俺に対する侮蔑や嫌悪の表情が殆どだったけれど、数人はこのマンガ肉に目を奪われていたのに俺は気がついたぞ。
食いたいか?地底世界行け。
そんなこんなで、王様への報告を終えた俺は、そのままの足でリンゼの実家へと向かう。
我が義兄が何をしているかの確認と、女王……元女王か。タリオさんへの報告と伝言を伝えるためにだ。
「こうこうこう言うことがあったんですよ」
「何そのロボット!?頂戴!」
「え?嫌ですけど」
「そこをなんとか!」
「絶対嫌」
「結婚祝いとして!」
「えぇ……?嫌だぁ……」
「じゃあ3mの魔導パワードスーツ作ってあげるから!」
「しゃーねーなー!」
おそーじくんはコレクションにできなかった。
致し方なし。
「それと、タリオさんへの伝言で、カティノさんからは『私に女王という面倒な仕事を押し付けたのですから、精々幸せになってください』。ユリアナからは、『おめでとうございます!結婚式には参加させていただきます!』と」
「そうか……。手間を取らせたな」
「いえ。経緯はどうあれ、義姉になるわけですし、このくらいどうってこと無いですよ。割と楽しめましたし」
「腹に風穴開けられてよくそんなことが言えるな……」
何故か呆れられた。
でもね義姉さん、貴方が結婚しようとしている男、人に装備させた魔導具が大爆発すると大喜びする変態だよ?
俺よりよっぽどヤバいと思うんだ。
「そうだ大試くん!タリオ用の変身魔導具が完成したんだ!見てくれ!」
収納カバンから取り出したおそーじくんを早速とばかりにバラし始めていたマル義兄様がいきなりそんな事を言う。
あまりの話題転換さに驚きつつも、段々なれてきてしまったなこれ。
義兄さんが手に持った機械のスイッチに指を触れると、タリオさんが光り始めた。
どんなふうになるのかと思ったら、尻尾が消え、鱗の部分は普通の皮膚になり、顔も人間の女性のものになった。
見た目に関して言うなら、顔は美人だし、何より胸がでかい。
「タリオが人間だったらこんな感じかなって想像しながら作ったんだ!」
「へぇ……。これって、尻尾とかの見えなくなってる部分は、見えていないだけでその場に存在はしているんですか?」
「いいや!最初はそんなふうにしようと思ったんだけれど、作り始めたら楽しくなってきてね!実際に体の形が変わるように作ってしまった!できてしまったんだ!」
「へぇ……」
サラッとすごいもん作ってるなこの人。
つまり、完璧な変身魔術が使える道具ってことだろ?
やべぇ……いくらでも犯罪に使えそうだし、バレたらご禁制になりそう……。
「あぁ……でも残念だなぁ……」
テンション高かったと思ったら急降下した。
これ、どうしたの?って聞かないとだめなやつかなぁ……?
多分ろくでもない事だぞ……
「何がです?」
「だって!タリオは、タリオのままで完璧なんだよ!?それをわざわざ人間の姿に偽装しないといけないなんて……ああああ!でも人間のすがたでも綺麗だ!」
「貴方ったら……あんまり人前でそんなふうに褒めないでください……照れてしまいます……」
「ごめんね!でも無理だ!あー!早く結婚式の日にならないかなぁ!」
「もう……」
なんだ?
俺は何を見せられている?
惚気か?
帰っていいです?
「ところで、結婚式っていつやるのか決まったんですか?」
「うん、明日」
「明日ァ!?」
「汝、健やかなるときも病めるときも――」
ガーネット家の敷地内にある教会で、神父がお約束のセリフを読み上げている。
今日は、マル義兄さんとタリオさんの結婚式だ。
急遽決まったので、参加できた者は少ない。
ガーネット公爵と公爵夫人、長女であるリンゼとその家人たち。
ガーネット家の長男は、仕事があって無理だったらしい。
リンゼ曰く、「もっと早く言え!」と怒っていたそうだ。
そりゃそうだわ。
そして、義兄とタリオさんが出会わせた俺とその家族たち。
普通、公爵家の結婚式ともなれば、それはもう大々的に各界の著名人だの貴族だのがやってくる一大イベントだ。
王様だって当然来るだろう。
ちゃんと前もって告知されていればな!
「流石に無理だったそうです」
「だろうね」
有栖が苦笑いで告げる。
納得しかない。
式は進み、指輪の交換も終え、熱烈なキスまで行われた。
噂によると、マル義兄さんは女子たちの人気がすごかったらしく、いきなり結婚するという噂が流れたせいで、気絶する婦女子がたくさんいたとか何とか。
悪いな、お前らの想い人ちょっと普通じゃないんだわ。
普通の人間じゃ満足できないんだわ。
そして、フラワーガールが入ってくる。
うちの面子で一番小さい女の子の見た目をしているタヌキ巫女に打診したところ、「神前式じゃないのであればちょっと……!」とお断りされてしまったので、次点で幼い見た目のシオリに頼んだ。
年齢的には、多分ここで一番の高齢だけれど。
フリフリの服を着たシオリが入ってきて、花嫁の前に進む。
ここからブーケを渡したり、花びらを撒いたりするらしい。
何度も俺とマンツーマンで練習したから完璧なはずだ!
俺も実際に見たこと無いから、動画で確認しただけだけれども!
「……え?」
って思ってたのに、シオリが花嫁の前まで進んだ途端動きを止め、手に持っていた花籠とブーケを落としてしまった。
どうした?トラブルか?
大丈夫だ!まだリカバリーできる!拾え!拾うんだ!
そんな俺の心の声も虚しく、その願いが叶うことはなかった。
「かーさん……?」
そうシオリが小さく呟く。
そして、すぐに涙を流し始めた。
ざわめく俺達を他所に、とめどなく流れ出す涙を見て、タリオさんたちも慌てる。
「え!?娘がいたの!?」
「いません!私は……アレ……ですから……」
「かーさん!かーさん!!」
狼狽えるタリオさんたちだけれど、シオリにはもう周りの状況が見えていないようだ。
そのまま、タリオさんに抱きついてしまった。
「なんなんだ……まったく……」
タリオさんは困り顔のまま、抱きついて泣きじゃくるシオリの頭を優しく撫でる。
「姉上が母上みたいな顔になっています!」
ユリアナ大興奮。
初めての結婚式でテンション高めだから、これはもう落ち着かせるのは諦めたほうが良いだろう。
「ち……ちが!しかしだな!目の前に泣いている女児がいればあやすしか無いであろう!?」
「そうだね!タリオは優しくて綺麗で可愛いんだ!」
「旦那様!あまり人前でそういう事を言わないでください!」
「かーさぁん!かーさああん!」
「あーもう!何だと言うんだ……?」
もうめちゃくちゃだよこれ。
どう収拾つけるんだ?
「……でも、まあいっか」
なんだか知らんが、泣いているシオリは、別に悲しいわけでは無いみたいだし、抱きつかれているタリオさんも母性くすぐられているっぽいし、そんなタリオさんみて大興奮のマル義兄さんは言わずもがなだし、とりあえずこのまま時間が解決するまで待っていよう。
今日の俺は、ただの参列者。
ゲームで言えば、名前もないモブでしか無い。
「どうしてこんなシナリオになったのかしら……」
隣で創世の女神がため息を付いている。
「どっかの女神が適当なことしたからだ」
「うー……まあそうかも知れないけれど……」
「いいんじゃないか?世の中、何が起こるかわからんほうが面白いだろ」
「そういうものかしら?」
「そういうもんなんじゃね。それに……」
なんか、皆幸せそうだし。
初めて参加した結婚式は、グダグダで楽しかった。
因みに、ハネムーンは地下世界行くらしいです。
それはやめとけ……。
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