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冬休みは、やっぱり短い。
北海道に戻ったり、地下世界の探検だのなんだのまでやらされていては……。
何が言いたいかというと、学校が始まった。
「静かにしろー。今日は留学生を紹介する!」
朝のホームルーム、そこで担任が声を張り上げる。
この学園に転校生というシステムがあるのかは知らないけれど、少なくとも留学生が俺のクラスに来るのは初めてだ。
「おい!どんなやつだと思う!?」
「可愛いと良いな!」
「イケメン外国人……」
「え?熊みたいに毛むくじゃらでムッキムキのほうがよくない?」
「えぇ……?」
留学生というものには、こんな貴族ばっかりのクラスでも騒ぎになるものなんだな。
微笑ましいものだ。
まあ、その話題に俺が混ざることはないんだが……。
気軽に話せるクラスメイト?
婚約者くらい?
マイカは、あっちがまず気軽に話せないタイプだし……。
「犀果君、犀果君」
「……ん?委員長?」
ボッチムーブかまして窓の外を眺めていたんだけれど、輝くような明るい声で話しかけられる。
光の女子高生、委員長様だ。
「ねぇねぇ……留学生に興味ないの?」
「……あるある」
「絶対ないよね?っていうより、最初から知ってた感じだったよね?全く驚いてないように見えるし」
「ソンナコトナイヨ」
なんだ?
年末年始に読心術でも会得したか?
陰陽術にそういうのあったっけか……?
「……成程!つまり、これから来る留学生は、犀果君絡みのとんでもない人かぁ……」
「……」
反論しようとも思ったけれど、反論する根拠がない。
おかしいなぁ……。
「よーし、騒ぐのもそこまでにしろ!入ってきていいぞー」
担任がそう言うと、入口の引き戸が開き、彼女が入ってくる。
「し……失礼する!」
5歳児だ。
「えー、今日から1週間かそこら、短期留学するユリアナ君だ。かなり遠い所にある国から来ていて、文化の違いなどで色々困ることが有るかもしれない。助けてやってくれ」
「ユリアナだ!ディロイ王国の第3王女をしている!勉学は、基本的に家庭教師に教えられていたため、学舎というものは初めてだ!至らない所も有ると思うが、よろしく頼む!」
ユリアナが自己紹介をすると、男子が色めき立つ。
美少女で王女様、まあ頭の中が思春期状態の男子であれば、そりゃあ大喜びだろう。
他国の王女様と交流するって、冷静に考えるとすごくスリルの有るイベントだと思うんだけどな……。
「ユリアナは、犀果の後ろに席を用意したからそこに座ってくれ」
「承知した!」
承知されてしまった。
先生、ユリアナが俺の名前と顔を認識しているってバレる事言わないでくれ。
クラスの男子からの視線が痛くなったじゃないか。
「やっぱり犀果君案件だったんだ!」
「俺案件って……」
「頑張ってね!よくわからないけれど」
ありがとう委員長。
巻き込むぞ?
「大試殿、よろしく頼む!」
「はいはい……」
なんでユリアナがここにいるかというと、それを説明するには、そもそも、何故俺が恐竜王国に攻め込んでいないのかという事から説明する必要がある。
あれは、昨日義兄と敵国の女王のイチャイチャシーンを見せられた後の話だ。
「おう!大試!この娘たちが例の女王陛下と王妹殿か!」
「……王様、フットワーク軽いですね」
ガーネット家研究所取調室へ、一国の王様が普通にやってきた。
さっき会ったばっかりだけれど、少なくとも忙しそうだったよな?
「ははははは!仕事を抜けてきた!」
「抜けても良いものなんですか?」
「良くない!だからすぐ帰る!」
何しに来たんだこの人と俺が思っていると、急に真面目な顔になる王様。
「大試!お前に重要任務を与える!」
「ディロイ王国を落としてこいとか言われても無理ですよ?明日から学校なので、金曜の放課後からしか活動できません」
「それに関してはそれでいい!」
つまり『それ』じゃないめんどくさい任務が有るのね?
「王妹殿を少しの間学園に通わせようと思う!」
「……理由をお伺いしても?」
「我が国の文化に触れてもらい!それを母国に持ち帰ってもらうためだ!」
「だったら、別に学園じゃなくても、外交官とかに接待してもらえば……」
「ディロイ王国とやらの問題は、今のところ極秘事項だからな!国名はともかくとして人種的に明かせない部分が多すぎる!」
「まあ、そうですね」
恐竜人間だもんね。
「そこで!事情を知っていて世話焼きのお前の所に送り込むことにした!」
「したんですか」
「した!」
って訳だ。
でもさぁ、5歳児に高校生レベルの授業わかるのか?
一応言葉は普通に通じているけど……。
「うーむ……」
ほら、難しそうだぞ?
「大試殿、大試殿」
「どうした?」
「この男は、どうして部屋で首を切って自殺などしたのだ?女を友人に先に根回しされて取られただけだろう?まだ恋人どころか告白すらしていないではないか?にも関わらず借りている部屋で派手に血しぶきを上げながら自殺とは、迷惑にもほどが有るぞ」
「……そうだな」
うん、その手の小説は、読み手によって捉え方が違うから難しいよね。
結論から言うと、ユリアナは普通に授業について来ていた。
たまにわからない事もあるけれど、そういう場合素直に質問して、スポンジに水が染み込むかのように知識を吸収していく。
何この娘……超ハイスペック……。
強いて言うなら、理科系の授業はちんぷんかんぷんだったようだけれど。
「げ……げんそ?なんだそれは……?」
「じゅうりょく?いんりょく?ほし?」
「うみ……それなら知っている!でかい湖だ!我が国にもあった!……え?水がしょっぱい……?」
どうやら、ディロイ王国では、理科系の事はあまり教えていないらしい。
ただ、数学に関しては、俺よりよっぽど素早く計算していたので、別に勉強ができないわけじゃないんだよなぁ……。
流石、太古の天才によって作られた恐竜人間の末裔……。
「ユリアナちゃんすごいね!本当に学校初めてなの?」
「ああ、ずっと城の奥で隠れて育ったからな。たまに外に出るときも、仮面を被っていた。とはいえ、これから国に帰ったら、新しい女王の補佐をしなければならないかもしれない。だから、ここで可能な限りの知識を身に着けて国に帰るつもりだ」
「すごい……なんて立派なの……」
「もう国を運営する事を前提に考えているなんて……」
「私も自分なりに頑張っていたつもりだったけれど……負けていられないわね!」
いつの間にか、クラスの女子達に囲まれて仲良さそうにしている。
これ、俺必要なかったんじゃね?
「大試、あの娘のお世話必要あったの?」
ジト目で講義してくる聖羅。
俺に聞かれても困る。
「大試殿!お昼御飯の時間だ!」
「えー!ユリアナちゃんも私達と一緒に食べようよ!」
「そうだよー!」
「いや、私は大試殿たちと食べることに決めているのだ!」
「……」
何故だろう?
男子だけじゃなく、女子からの視線まで痛くなったぞ?
でもさぁ、これ、王命なんだよね。
お前らは知らないだろうけれど……。
「大試くん案件だねぇ……」
「委員長も巻き込まれてくれ」
「え?嫌かな〜」
そんなこんなで、金曜日の放課後までその状態が続いた。
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