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「おう!大試か!例の件の報告だな!?」
「はい……そうです……」
俺はこれから、王に嘘を付く。
バレたら俺の命は……多分まあ、王様ならそこまで怒らないと思うけど、スリルは満点だ。
だって王様だぞ?
しかも、筋肉がムキムキ。
正面から戦ったとしても、まあ逃げに徹すればなんとか逃げ切れるとは思うけどさ。
よし、覚悟は決まった。
「それで!捕虜からは何か話が聞けたか!?」
「はい、生き残りの女性から」
「確か王族だと言う話だったが!?」
「らしいです。彼女によると、地下世界にある国の女王様らしいんですけど、国でクーデターが起きたらしくて捉えられたらしいです。ただ、クーデターといっても内々に行われたらしくて、国民からの理解が簡単には得られない奴が起こしたもんだから、王族には全滅してもらわないといけないとかで、勢いに乗って地上に攻め込む時の総大将に据えて、その結果敵地で死んだってことにされる予定だったらしいです」
「成程な!それで本当のところはどうなんだ!?」
「なんか薬剤か魔術か知らないけれど、やけに攻撃的にされていたっぽくて、今は大分冷静になっているみたいですね。んで、調査を担当したうちの義弟が女王に惚れちゃって、なんか良い感じに纏めて、良い感じに結婚できるようにしてくれって頼まれました。あと、国にはまだ軍関係のトップが残ってて、そいつが戦争を周りに吹っ掛けたがっているみたいなんで、全部そいつのせいって事にしようかなって思いました」
「そうか!まあ良いんじゃないか!?あちらは攻め込んだつもりだったんだろうが!お前のとこの戦力がサラッと終わらせたせいでそもそも俺達の国とは正式には戦争にすらなってないからな!」
嘘はバレました。
俺って嘘下手くそなのかなぁ……。
「それで、女王と義弟を結婚させてもいいですか?恐竜人間ですけど」
「いいんじゃないか!?亡命したって事にしとけばいいだろう!あちらの国がその後どうなるかはわからんがな!」
「知ったこっちゃないですよねー。攻めて来たのあっちだし」
「あははははは」
「はっはっはっはっは!」
「ってことになってさ、ディロイ王国のその軍務卿をどうにかして、日本に有効的な王様を立ててこいって言われちゃったんだけど……」
「アンタ、フェアリーファンタジーにすら無かったイベントにすら巻き込まれるのね……」
「元はといえば、どっかの女神が適当なことして恐竜人間出来上がる世界にしちゃった事が原因だと思うんだ」
「……て、手伝えば良いんでしょ!?やるわよ!やってやるわよ!」
「一応言っておくが、まる義兄さんが敵の女王に惚れるっていう面倒な出来事がなければ、事はもっと簡単だったんだからな?」
「あの人、今までどんな美人にもまったく異性としての興味示さなかったのにね……。虫のメスとかじゃなくてよかったと喜べばいいのかしら……?」
知らん。
無邪気に俺が確実に死ぬ装備を喜々として作り上げてるような場面しか見てないから。
「お前たちの話はわかった。それで、私に何をさせようというのだ?」
俺達の話しを聞いていた女王が、首を傾げながらそんなことを聞いてくる。
正直、何をどうしたら良いのか聞きたいのは俺の方なんだが……。
「とりあえず、女王様は、秘密裏に日本に亡命したってことにします。そして、なんやかんやあってまる義兄さんと結婚したことにします」
「だが、私はお前たちと……見た目が……」
「その辺りは心配いりません。プロポーズした当の本人が今、超急ピッチで見た目を俺達と同じ人間……地上人に見えるようになる魔導具を開発しているので。問題は、ディロイ王国の王がいなくなることなんです。長女が捕まって行方不明で、次女は処刑されている。三女は見た目のせいで忌子だから据えられない。なので、だれを王様にしたらいいかなーと」
隣りにいたユリアナが俯く。
俺達の価値基準だと美人なんだけど、文化が違うとやっぱり大変なんだなぁ……。
ただ、5歳には見えない。
どう見ても18歳以上。
大学のラクロス部にでも入ってそうな雰囲気。
飲み会にホイホイ行っちゃダメだよ?
危ないからね?
「わかった。それなら良い者がいる」
俺が現実逃避していると、女王が口を開いた。
迷いも何も無い、自信をもったその話し方は、確かに王族のオーラが有るわ。
「私の妹に王位を継がせよう」
「姉上!?ですが私は……!」
「勘違いするな。お前ではない」
「……え?」
自分のことだと思っていたらしいユリアナが、きょとんとした顔になる。
あ、この表情だと女の子って感じだな。
15歳くらいに見えるわ。
5歳には見えん。
「次女のカティノを王にすれば良い」
「ちぃ姉様を!?」
だけど、それを聞いて俺もポカンとしてしまった。
幽霊?ゴースト?
「ですが、ちぃ姉様は、お姉様が処刑したはずでは!?」
「生きておるわ。ただ、アヤツには少々問題があってな……。いや、少々等と言って良いものかわからんのだが……」
「どういうことですか……?」
「うむ……まあ……そのだな……」
先程までの自信に満ち溢れたオーラがしゅんと消えてしまった。
どう言ったら良いかわからないという感じだろうか?
……言っても良いものかわからないって雰囲気にすら感じる。
なんか、この状態だと女王様の方も15歳位にみえるわ。
「カティノを担ぎ上げて女王に据えようとした者もいたから、そいつらを黙らせるためにもカティノを消す必要があった。当時の私は、とにかく無理矢理にでも成し遂げなければという思いが強くてな。今の冷静になっている状態だと、なんと恐ろしいことをしていたのかとも思うが、あの時はそんな客観的な考えが無かった。とはいえ、流石に実の妹を処刑するのも気が進まず、まずは説得しようと思ったのだ。一生幽閉される代わりに、ソレ以外の全ての贅沢をさせてやろうとな。それで、カティノの部屋に行ったんだが……」
どんどん目線が泳いでいく。
なんで?
どこにそんなためらう要素があった?
今言ったとこのほうがスレスレの極秘情報じゃないの?
「姉上……?」
「……はぁ。心して聞けよ?実は、カティノはな……」
顔を上げ、決意の灯った視線をユリアナへと向ける女王。
「重度のシスコン……というより、ユリアナマニアだったのだ」
「……はぁ……私の?」
「そうだ……」
どういうことよ?
「カティノの部屋に入ったとき、私は一瞬頭が真っ白になった。部屋の中には、所狭しとユリアナの写真や人形、それに小さい頃に着ていた服などが展示されていた。ベッドには、ユリアナの抱き枕まであったな……」
「……えっと……どういったらいいのか私には……」
「呆然としていた私だったが、とにかく説得をするべきだと思い直し、部屋の中でユリアナ人形に頬ずりしていたあやつに、先程の提案をしてみた。……帰ってきた要求は、『では!ユリアナを私の嫁にしてください!』だった……」
「……」
黙る姉妹。
何だこの空気?
「幽閉したよ……無理やりな……。奴は、離宮の尖塔にいる」
お姫様を救い出して、女王様にしよう。
きっとピュアで可愛い娘なんだろうな。
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