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マジックミラー越しに、ディロイ王国の女王とその妹が見える。
2人共、王族用としては簡素にもほどが有るパイプ椅子に腰掛けているのは、ここが一応取調室のように使われる事もある研究施設の中の部屋で、尚且つ女王の尻尾の関係で座れる贅沢な椅子が無かったからだ。
まる義兄さんが「ああああ!もっといい椅子を!今すぐ作らないと!」って走って出ていった。
現在どこで何をしているのかは知らない。
『姉上、その……』
『無事だったかユリアナ……。情けない所を見せたな』
姉妹の感動のご対面……なのかな?
お互い気不味そうだけど……。
だけど、ユリアナの方は、色々と見なかったことにして話をすることにしたようだ。
『姉上、なぜ地上に攻め込んだのですか!?貴方は、もともと苛烈な方だと言われておりましたが、このような無謀な計画を立てる方ではなかったはず!ちぃ姉……カティノ姉様を処刑してまで何故!?』
……あ、そういやそういう話だったな?
ソレどころじゃなくて忘れてたわ。
ぶっちゃけ、攻め寄せた所が一番サクッと終わったから、俺の義兄が恐竜人間を口説いている所しか印象に残ってなかった。
流石王女様、物事の優先順位を間違えない。
『無謀……か……。確かに、今あらためて考えると、事前の調査も満足にせず飛び出してきた自分の愚かさに眩暈がするが、それでも、何故かあの時は無理矢理にでも攻めるべきだと思えたのだ……。自分の中の怒りなのか……攻撃本能なのか……とにかく、足を止める気にはなれなかった』
『それは……』
正直に話しているのかはわからないけれど、何か外的な要因でもあって攻撃的になっていたのか?
薬とか、精神病とか……。
いずれにせよ、戦争を引き起こそうとしたって事は変わらないけれどな。
もっとも、家のメイド3人によって、小競り合いにすらならなかったみたいだけれど。
姉妹2人の会話を眺めていると、この取調室の中を見るための部屋のドアが開く音がした。
最高機密案件なので、今この部屋にいるのは俺だけだし、俺以外でいたのはまる義兄さんくらいだけど、誰が入ってきたんだ?と思ったら、リンゼだった。
「あら大試、ここにいたのね」
「リンゼか。これどういう事だ?」
「……アタシも詳しくはわからないんだけれど、1つ心当たりというか、思い出したことがあって話そうと思ってたのよ」
リンゼは、部屋の中に入ると入口に鍵をかけた。
リンゼがこういうふうにするってことは、女神様としての自分が何かやらかした話かな?
「アンタは多分知らないと思うんだけれど、フェアリーファンタジーは結構人気があったおかげで、色々なジャンルのゲームで続編のようなものを出したのよね」
「へー、失敗しやすいタイプだな」
「……まあ、そうなんだけれど。それで、アンタが地下から連れ帰ってきた女の子に、オリジンって娘がいるんでしょ?」
「シオリのことだな」
「その娘が出てくるのは、時代とファン層を10年先取りして、あっという間に販売が終わったゲームハード、ファントムキャストで発売された『フェアリーファンタジーZERO〜君と育む世界〜』っていう育成ゲームよ」
「育成ゲーム……」
RPGから随分外れたな?
「あの機械、アタシは好きだったけど本当に一瞬でメーカーがハードから撤退しちゃったのよね……」
「そうか……いや、ハードのことはどうでもいいわ」
「どうでもよく……!そうね、今はそれどころじゃなかったわ」
あ、これ、話し始めたらめんどくさい感じの話になるやつだったんだな?
まあいいけど。
「シオリのことは、まあわかった。それで、そのゲームには恐竜も出てくるのか?」
「出てくるわ。まあ、メインじゃないからかなりいい加減だけれどね。シオリ?を作った研究者の1人が恐竜を実験台に使っていて、それが逃げ出して繁殖しているって設定だったんだけれど、オリジンの食料にするためにその恐竜を狩ったり、恐竜を捕まえて騎乗できるようにできたのよ」
「へぇ……」
楽しいのかソレ?
「じゃあ、恐竜人間もそのゲームにいたのか」
「……いないわ」
俺が、これって本当にフェアリーファンタジーのキャラなのか?
ソレにしてはかなりレーティングで色々言われそうなくらいエグい怪我をユリアナがしてたぞって思って出した言葉を、リンゼが否定した。
どういうこと?
「いないっていうのは?」
「そのままの意味よ。フェアリーファンタジーZEROに、人型の恐竜なんて出てこないの」
そう言うと、俺から目を逸らす。
……なんだ?何を隠している?
「なぁ、なんでこっちを見ないんだ?」
「……そんな事ないわよ?」
「そうか……で、何か言わなきゃいけないことが有るんだろ?」
「んぐ……!」
自分で言いに来たんだろうに、なぜそこで言い淀むのか?
今更何を躊躇することがあるんだ?
俺を爆殺したことよりもヤバいやらかしがあるのか?
「……怒らないで聞いてほしいんだけれど……あと笑わないで欲しいんだけれど……」
そう前置きして、リンゼは観念して話し始めた。
「……アタシ、あんまり恐竜に興味無かったのよ」
「うん、知ってる」
興味なさそうだったもん。
「それで、恐竜なんて、オリジンのご飯とか乗り物になるために、ずっと昔の研究者が使っていた実験動物が逃げ出して野生化していることにすれば十分だと思ってたの」
「なるほど」
「……それで、まったく管理とかの設定していなかったの」
「あーあ」
「そんな目で見ないでよ!残念な子を見る表情しないで!」
だってなぁ……。
「つまり?」
「つまり……勝手に研究者が色々やってて、勝手に進化したのよ……」
よし、なんとか平和的に解決できる手段を模索して、地上にこんな女神すら予想できないトンチキイベントが派生しないようにしないと。
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