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「た……食べる前に私の話を聞いてくれぬか!?」
「うおビックリした!?起きてたのか……え?食べるって何?」
聖羅が激おこぷんぷん丸とかいう覚えたばかりの言葉を使って満足し、夕食の支度を手伝いに席を外した途端、地下から連れてきた女の子がベッドの上で土下座みたいな体勢になった。
なんでこんな切羽詰まった感じになってるんだろう?
傷は、ちゃんと完治してもらったはずなんだけど……。
「我が名はユリアナ!ディロイ王国の第3王女である!」
「王女?へぇ……王制がある組織なんだ……。俺は、犀果大試。目の前でキミが腹に大穴開けて物凄い大量の吐血しながら倒れたから、仕方なく連れてきたんだ。因みに、さっきまでいたのが治療をした聖羅」
「……治療?な!?アレだけの重症が治っている!?」
「痛い所は無いよな?しっかり治してくれてるはずだけど」
「は……はい……えぇ?何故治されているのだ……?」
よくわからないけれど、どうやら認識のズレがあるらしい。
まあいいけどさ。
「とりあえず、まずは治療して頂いた事について礼をいたす!感謝する!」
1人で色々ぐるぐる考えていたのが表情の変化でわかったけれど、どうやら一先ず横において話を進めることにしたようだ。
「ここは、迷い人達が暮らす地上という場所で良いのだな!?」
「迷い人?」
そういや、さっきのトカゲニンゲンがそんな事言ってたっけ。
すぐ殺しちゃったから意味はわからんけど。
「迷い人っていうのが何かはわからないけれど、地上ではあるな。キミを拾ったのは、俺達からしたら地面の下、地下だから、そこから大分上の方の地面の上ってなるね」
「では、至急知らせたい事がある!其方らの王か……軍の上位者に取り次いでいただきたい!」
「王様に?どんな事を?」
「このままだと、戦争が始まってしまうのだ!」
どどーん!と効果音が着きそうな勢いで彼女は叫んだ。
「…………へぇ」
「ちょっと待ってくれ!何故そのように平然としていられるのだ!?」
「いや、ここ1年程その手の事が続いててさ。そっかぁ……って感じ?」
「地上は怖い場所なのだな……」
どうかな?
俺の周りだけかもよ?
「それで?」
「そうだった!話を戻すが、実は私の国であるディロイ王国が、急激に軍事政権に近い状態になっており、外征に乗り出そうとしているのだ!」
「攻め込んで領土を広げたいと?んでその先が地上であるってわけ?」
「そうだ!」
そこまで話すと、やっと土下座のポーズから姿勢を変え、俺の勧めに従って普通に座ってくれた。
「それにしても、なんでわざわざ地上にやってこようとしてるんだ?あの洞窟の中には他に国無いの?」
「存在はする……が、何れも強国ばかりだ」
ユリアナによると、地下世界ジェノユニバースとやらには、彼女が知っているだけでもいくつかの国があるらしい。
それらの国々は、似たような見た目の種族ごとに分かれているらしくて、彼女の母国であるディロイ王国は、あのラプトル的な見た目の恐竜人間の国なんだとか。
「あれ?じゃあなんでユリアナは俺達と同じ人間みたいな見た目なんだ?俺の主観だと、普通に美人の女の人に見える程度には俺達に近い見た目に見えるんだけど」
「美人!?私がか!?……いや、そうだな……たまに私のように、迷い人……キミたち地上人のような見た目で埋まれる者もいるのだ。それらは忌子とされ、大抵は生まれてすぐ処分されるのだが、私の場合秘密裏に匿われたらしくてな、運よくこの年まで生き永らえた」
「何歳なんだ?」
「5歳だ」
「はぁ!?」
「な……なんだ!?」
どう見ても18歳は超えてそうな見た目してるのに、5歳だとう!?
日曜日の朝に魔法少女アニメ見るような年齢じゃねーか!
人間っぽい見た目でも、やっぱり違う所はあるのか……。
「と……とにかくだな、我々の国が戦争をしかけようとしているから、お前たちにはそれを迎え撃ってほしいのだ!それも、圧倒的な大戦力で!」
「どういうこと?」
「あの馬鹿どもを諦めさせるには、負けさせるしかないのだ!」
ユリアナが熱く語った所によると、迷い人達の持ち込む物品が、ジェノユニバースにある物とは全く次元の違う完成度で、こんなものを作る文化を持つ国と戦争をして勝てるわけがないと彼女は考えたらしい。
だが、彼女の姉の女王と、軍のトップたちはそう思っていないらしく、自分たちの強力な肉体をもってすれば、地上など簡単に制圧できると考えているらしい。
迷い人達があまり強くなかったというのが彼らの根拠なんだけど、それは迷い人が軍人ではなく民間人だからだとユリアナは考え、本格的な全面戦争になったら間違いなく負けるであろう母国と、少なくない被害が出るであろう地上の国々を救うため、単身地上へ向かっていたらしい。
「とはいえ、1人で玄武洞を突破できる可能性は殆ど無かったのだが……」
「玄武洞?」
「とても巨大な化け物がいる場所でな、特殊な力でもない限り、地上を目指すのであれば避けて通れない場所だ。背中に森を積んだ大いなる生物と言われているが……」
「あー……」
そいつな、今台所で料理を学んでるぞ。
「本腰を入れて戦争に発展する前に、先遣隊を圧倒的な戦力で叩き潰してくれれば、姉たちも考えを改めると思うのだ!だから犀果殿!至急連絡を!玄武洞といえど、我が国の戦力であれば突破できてしまうかもしれない!早く!」
そう言い募る彼女に、俺も言わなければいけないことがある。
「実はさ、多分その先遣隊全滅してるわ」
「……は?」
「うちのメイドが、『警戒していましたが、変なトカゲ人間がいっぱい出てきたので殲滅しました』ってさっき連絡してきたから」
「……はぁ」
飯にしよう。
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