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「……どうしたもんかなぁ……」
目の前には、人外っぽい女の子が血を吐いて倒れている。
腹からは、夥しい量の出血があるようだ。
傷は、背中まで貫通していて、普通に考えたら救急車呼んでも助からない位の致命傷だろう。
「動かなくなったしほっといて帰ろうにゃ」
「わお、クール」
「だって、どっちみちここから運んでも聖羅に会わせる前に死ぬニャ」
「そうなんだよなぁ……」
我が家のホームドクター聖羅様は、残念ながら今回同行していない。
家まで帰って見せるにしても、多分何時間もかかるし、その間にこの娘は死ぬだろう。
「ファム、この娘もってテレポートしたらすぐ帰ってこれるか?」
「距離が結構離れてるから30分くらいは欲しいニャ」
「なら却下だな」
「え?なんでにゃ?」
「いや、その30分の間に何かあったら困るだろ?俺の中の優先順位で、ファム、ソフィアさん、ソラウが最重要で、その後にクロコとタケコとシオリが来る。はっきり言って、この娘は優先順位としては最下位だ。その娘のために、他の奴の危険をあまり増やしたくない」
「ボス自身の優先順位はどこなのにゃ?」
「は?女の子より下に決まってるだろ?野郎だぞ?」
「男性差別だにゃ……ってか自分差別かにゃ?」
何を当たり前のことを言っているんだ?
女の子と俺が同じ価値あるわけないだろ?
それに、俺の場合は手足が捥げても自力で帰るから気にしなくていい。
「じゃあどうするニャ?」
「うーん……ソフィアさん、ヒールこの娘に使って治せます?」
「……できるじゃろうが、魔力殆ど使い切るじゃろうなぁ……」
「そんなにですか?」
「その娘の傷、恐らく呪い付きじゃもん……嫌な感じがするんじゃ……聖羅ならともかく、ワシじゃ全力でかからんと無理じゃな……」
俺にしがみつきながら、しょぼしょぼした目でそんな事を言う。
こりゃ無理だな。
早く地上に連れ出さないと、普段の頼りになるお姉さんキャラが取り戻せなくなりそうだ。
「他にどうにかできそうな奴いるか?」
「おやおや、では私が息の根を止めて食料にするのは……」
「ダメ」
「「弱っている味方じゃない生物は、止めを刺すべきです」」
「いやそうなんだけどさ……そこをなんとか……」
「これ美味しくない!」
「食べたことあるのか……」
よし!当てにならん!
となるとどうしたもんかなぁ……。
なんか荷物にいい物無かったっけ……。
救急箱なら入ってるけど、それでどうにかなる類の傷でもなさそうだし……。
最悪傷口を焼くか凍らせるかしないといけないか?
死ぬほど痛いけど……。
ある程度俺が覚悟を決めようとしていると、収納カバンの中に突っ込んでいた手に何かが触れた。
ツルツルとしたその感触は、この世界に転生してから割と触り慣れた物だった。
その事に気が付いて、カバンから取り出す。
「あー、貰ってそのままだったな」
「何ニャ?」
「ガチャのカプセル」
「そんなもんよく放置できるにゃ……」
「ちょっと特殊でな。何か役に立つ剣はいってないかなーっと」
俺は、さっさとカプセルを開ける。
貰った時は、色々他の事してて忙しかったからカバンに突っ込んじゃったけれど、今はとにかく役に立つものがあったら欲しい。
じゃないと、女の子を焼かないといけないんだから。
カプセルから出てきたのは、刃の部分が新体操で使う薄っぺらいリボンみたいになっている剣だった。
なんだこれ?
いじ剣(SR):この剣の刃で包まれた物は魔力供給が続く限り状態を維持される!どんなに運が悪くて挫けそうでもいじけないでチャンスを掴め!ただし切れ味は0!装備時に身体能力を50%増加!
「いじ……」
何作ってんだあの神様……。
ってかネーミングセンス……は人の事言えないか俺は。
「どうしたにゃ?役に立ちそうニャ?」
「どうなんだろ……ちょっと使ってみるわ」
生き物に対しても有効なのか?
使い方は、刃の部分で巻くんだよな?
っていっても大した長さ無いけど……。
「おお!?」
「うわキモいにゃ!」
俺が女の子をリボンみたいなところで巻こうと考えただけで、いじ剣の刃が一瞬で巻き付いた。
その動きに驚いてファムが3mくらい後ろに飛びのいた。
……ちょっと面白い。
「なんか凄い速い蛇か触手みたいでちょっとニャーてきにナンセンスにゃ」
「そう言うなよ。なんか状態が維持されるらしいから、もしかしたらこれ以上体調が悪化するのを防げるんじゃないかと思ってさ」
「へぇ……あ、血が出てこないニャ」
「成功か?」
「かもにゃ。でもボス、これ……」
ファムが、ぐるぐる巻きにされた女の子を見る。
「ボス、流石に死にかけの女の子にこれは無いと思うニャ」
「いや俺は別にこんな風にしようとしたわけでは……」
どういう仕組みなのかはわからないけれど、いじ剣が巻き付いた首から下の部分は、ピッチリと刃が体に沿って巻き付いており、体のラインが思いっきりでていた。
正直、全裸よりエッチに見える。
「おやおや、服とか無視して体に張り付くのですねぇ」
「「分解してみたいですね」」
「お肉いっぱいついてる……」
進化組の感想は様々だけれど、とりあえず俺の尊厳が損なわれないように俺の服を着せた。
これで俺は、上半身裸で身動き取れない女の子を担いで、その逆サイドの腕には美女を抱き着かせた蛮族となった。
「よし、帰るか……」
「今日はカレーが食べたいニャー」
「俺はそれより、聖羅になんて説明しようかの方が気になるわ……」
「どう説明しても何かしらで怒られそうだし諦めるのが一番にゃ」
「諦めたくないな……」
こうして俺は、家に帰ってから女の子を4人も連れ帰ったことについてコンコンと叱られた後、「どうしてこういうエッチな事を私じゃなくて他の女の子にするの?」と明後日の方角にぷんすこ怒られて、調査任務を終えた。
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