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「タイシ〜」
アレだけワイルドに威嚇していたオリジンちゃんだけど、餌付けしたらめっちゃ懐いた。
傷を舐めて消毒してくれた後は、犬と機嫌の良い時の猫を足して2で割らないくらいのなつき方だ。
「おとうさん〜」
「それは違う」
「違う?おとうさんじゃない?」
「違うな。俺は大試、た、い、し」
「たいし?タイシ〜」
というやりとりがあり、なんとか父親になるのは防げたみたいだけど。
「思ったより人懐っこいな」
「今までずっと一人だったんじゃろ……?そりゃ敵じゃない人に会ったら酷く嫌うかデロデロに懐くじゃろ……」
「「確かに」」
長命種たちにしかわからない心の機微が有るらしい。
「でも、どうしよう?ここまで懐かれたのに置いていくのも……」
「連れていけばいいにゃ」
「うーん……でもここで生活できてるんだろ?」
「行く場所が他にないからここにいるだけにゃ。誘えば一発ニャ」
そうなのかなぁ……?
「なぁ、一緒に行くか?」
「いっしょ?」
「そう、俺達と一緒に行くか?」
「いっしょ……行く!」
即落ちだった。
「かあさんととうさんも一緒にいく!」
「母さんと父さん……」
オリジンちゃんが指差す先。
あの日記の内容から察するに、部屋の隅に座らされているのが男の研究者で、真ん中の方で倒れているのが女性研究者だろう。
当時何が有ったのかよくわからないけれど、外に救援を求めることが出来ず餓死したらしい2人。
流石にここにこのまま置いていくのも可哀想か……。
「ここに墓を作ってやるのもいいかと思ったけど、多分ここ結構ガッチリ調査入るよな?」
「ふむふむ、我々が報告すれば確かに入りますね。形の残っている人骨など、研究者にとっては垂涎の研究対象でしょう」
「この娘にそれを伝える程の冷血さは俺にはないなぁ……」
よし、じゃあ遺骨を持っていって家の近くに墓を作るか。
2人の名前もわからんが……。
「あ」
「どうしたにゃ?」
「ん〜?」
俺が声を漏らすと、皆がこっちを見る。
その中で、俺の腕にがっしり抱きついているオリジンちゃんの方を向く。
「キミって、名前なんて言うんだ?」
「なまえ?」
「俺の大試ってのみたいな名前。オリジンはコードネームだろうし、何か名前つけてもらってない?」
「なまえ……ない!」
「無いのか」
オリジンって呼ぶのもなぁ……。
もう少し女の子っぽい名前のほうが良いだろう。
オリジン……オリ……ㇱ……。
「よし!じゃあシオリでどうだ?」
「シオリ?」
「そう、シオリ。気に入らなかったら他の考えるけど」
「シオリ……」
オリジンちゃんが少し考える。
けど、数秒ですごい笑顔になった。
「シオリ!」
「安直な名前だけど気に入ったみたいだニャ」
「名前をつけられるのは嬉しいですからねぇ」
「「わかります」」
俺だってじっくり考えられるならそうするけどさ!
もうここ1年でものすごい名付けを繰り返してるんだよ!
ネタも尽きるわ!
「まあでも、気に入ってくれたならよかった」
「うん!」
「じゃあシオリ、お父さんとお母さんもつれて行くから手伝ってくれるか?」
「わかった!」
シオリは、骸骨2人をすぐに運んでくる。
すごい思い切りが良いな。
「でも、今更だけど、本当についてきて良いのか?この家……住処をほっておいてもさ」
「いい!かあさんも、もし誰かが助けにきてくれて、いい人っぽかったら、ついていきなさいって言ってた!」
「お母さんちょっと娘さん無警戒すぎじゃないですか?」
知らない人にはついていかないって教えないとダメじゃない?
「ワタシ、多分最強だから悪い男にダマされても大丈夫だって!」
「あーそういう……」
そうか、ヤベーやつだもんな。
2人分の遺骨を予備の収納カバンに入れる。
後は……。
「他になにか持って行くものあるか?」
「ない!」
「無いのか……」
手荷物、骸骨のみ。
服とか……あるわけないな。
「さてと、じゃあさっさと出ますか」
「どこいくの?」
「地上」
「ちじょー?」
「ここは、地面の下なんだよ」
「……へー」
これ、わかってないな。
「良いのかにゃ?調査の途中だよにゃ?」
「いや、恐竜もいるみたいだし、謎の研究施設も見つけたし、もういいんじゃないか?何より、女の子保護するほうが重要事項だろ。恐竜は見たいけどな……」
「きょうりゅー?」
「でかいトカゲ」
「とかげ……ある!」
そう言ってシオリが立ち上がり、外に走っていく。
「……あるってなに?」
急いでついていく俺達。
そして、出口から出ると……。
「これ、きょうりゅー!」
ティラノサウルスが倒れていた。
「おいしい!」
「おいしい……」
彼女がいつからここに1人でいたのかわからないけれど、何を食べていたのかはわかった。
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