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「ぐぅうううう!!!!」
部屋の入り口で、エルフの少女が唸っている。
多分、こっちを威嚇しているんだろう。
いやぁ、顔の造りは超美少女。
すごく頭良さそう。
なのにこのワイルドな感じ。
頭が混乱するわ……。
「この日記を読んだ感じ、この娘がオリジンなのかな?」
「おやおや、野良エルフという可能性は無いのですか?」
「管理AIが許さんとエルフは里から遠くへ行けんから多分ないじゃろ……」
長年エルフの長をしてきた大精霊のお墨付きももらえたので、この娘はオリジンって事にします。
「流石にこの娘を殺すのは気が引けるんだけど、どうしようかな……」
「ボコって抵抗できなくしてから上下関係を教え込めばいいんじゃないかニャ?」
「ワイルドな美少女ここにもいたわ」
「「ですが、獣相手であれば有効ですよ。野生では暴力こそ正義です」」
まあ、最悪の場合はそうだろうけれど、できればそれだけに頼りたくないよなぁ……。
これが野郎が相手であれば手加減無しでグーパンだけど、流石に見た目中学生から高校生くらいの女の子相手にそれはちょっとなぁ……。
「がぁ!があん!かあさんにサワルナ!」
何とか平和的に解決できないかと考えを巡らせていると、オリジンが言葉を発した。
「……喋れるのか」
「唸るしかできないのかと思ったニャ」
「そりゃ喋れるじゃろ……エルフじゃぞ……」
「ふむふむ……しかし、会話をあまりしたことが無いのか、会話能力はあまり高くないようで」
「「私も会話したの先程が初めてなのですか?」」
「うん、本当に何なんだろうな君?」
素の状態で会話ができた亀の話はさておき、一応このオリジンちゃんは会話が可能なようだ。
かと言って、この一触即発な状況でどうしたらいいのかはわからんけれど。
俺だったら、自分の生まれ故郷に知らない奴が来ていて、無遠慮に屍の服を漁っていたら、とりあえずそいつが生まれて来た事を後悔できるように努力すると思う。
「大試さん、私が軽めの進化で彼女の言語野を活性化させるので、取り押さえて頂けますか?」
俺が対応に困っている事を知ってか知らずか、そんな無茶ブリをしてくるソラウ。
エルフを越えた存在とやらを目指して作られた実験体相手に、生きたまま取り押さえろとな?
いや、やるけどさ……。
「じゃあソフィアさんパース」
「あぁ……大試の温もりが……」
「はいはいにゃっと」
ネコミミメイドにエルフ大精霊を渡しておく。
これで、多少の荒事なら問題なくできるだろう。
それにしても、取り押さえるか……。
どうしたもんかな?
プロレス技で行けるもんかなぁ……。
仮に絶対に力だけじゃ拘束を外せないような締め技を使ったとしても、エルフの上位種を目指して作られたらしいオリジンなら、魔術で対抗してきそうだしなぁ……。
「サワルナ!さわルナ!」
悩んでいる間にも、彼女は同じ言葉を繰り返す。
触るなって何のことだ?
母さんって言ってたような気もするけれど……。
ん?もしかして、この骸骨さんの事か?
俺は、そーっと骸骨さんに手を近づけてみた。
「う!?ぐううう!サワルナ!!!」
うん、やっぱりこの骸骨さんに触るなって言っているらしい。
それと、この骸骨さんを母親と認識しているっぽい。
「いや、ごめん。ちょっと調査でやって来ただけなんだ。別に敵意は無い。その上で話し合いたいんだけど……」
「ウルサイ!!しね!でていけ!!!!」
どうしよう?
出て行けというなら出ていくけど、その出口にオリジンちゃんが立ちふさがっているから出られない。
多分本人もそれどころじゃないんだろう。
緊張と敵意が物凄いのだけはビリビリと伝わってくる。
これは、なんとか相手の敵意を鎮めないと、けが人が出るな……。
「これどうするニャ?やっぱりぶん殴るにゃ?」
「しないようにしたい」
「「脚の1本でも齧りとれば大人しくなるでしょう?」」
「……しないようにしたい……」
野生動物を捕獲する時のように、多少無理してでも無傷で無力化したいんだけど、そんな事できるかな……?
転生してからは、動物保護団体なんて存在しない場所で育ったからなぁ……。
前世では、動物を大人しくさせる時ってどうしてたっけ?
ネットの動画でみたような……。
そう、アレは確か動物病院につれてこられた野良猫を大人しくさせてた……。
使ってたのは……ちゅーる!
「ソフィアさん、エルフってチュール食べます?」
「食べんわ……」
くそ!一応猫ソフィア用にストックしてあるネコ用チュールならあるのに!
他に何かないか!?
餌付けできそうな、分かりやすく美味しいもの……美味しいもの……。
そうだ!あるじゃないか!
いや、正確にいえば、出してもらえるじゃないか!
エルフが大好きなアレを!
俺は、ファムにくっついてプルプルしているソフィアさんに叫ぶ。
「ソフィアさん!アレ出してください!」
「何じゃあれって……?」
「ソフィアさんと初めて会った時に指鳴らして出して食べてたアレです!」
「そんなもん何するんじゃ……?まあ良いが……」
パチンッ
ソフィアさんの指が鳴らされる。
そして、俺の手の中にアレが現れる。
ほんと、これはどうやって出現しているのか、今度じっくり聞いてみたいな……。
俺は、その最終兵器を持ってオリジンへと駆け出す。
オリジンは、俺が向かってきたのに気が付くと、恐怖と緊張を隠すかのように自らも前へ飛び出してきた。
だけど、俺はお前と戦うつもりはない。
もしこれで戦意を奪えなければ、その時は力ずくで取り押さえることになるだろうけれど、まず失敗しないと思ってる。
なにせ、エルフはこれが大好きだから。
「喰らえ!小倉トースト!」
「んぐぅ!?」
オリジンの口に、無理やりアンコたっぷりのトーストを押し込む。
いやぁ……液体だったらよかったんだけど、流石にトースト1枚押し込むのは酷かったかもしれないと、やってから思ったけれど、まあしょうがない……。
「んむぅ!むうむう!!!」
反撃しようと手を出してくるオリジンちゃんだけど、ここで吐き出されたら意味がないので、口に押し付けた手は離さない。
当然俺の手は引っ掛かれてそこそこエグイ血が流れ始めているけれど、きっともう少しだと信じて待つ。
ただ、冷静に自分の今の姿を客観的に見ると、かなりアウトな絵面だなぁ……。
「んむ!?……むむ?」
次第に、オリジンちゃんの怒気が薄れていく。
警戒が無くなり、困惑になり、そして目が輝いていく。
「むむぅ♡」
10分後、オリジンちゃんは俺の腕の傷を舐めていた。
「なんか……傷にツバがつくとすごく痛いし、女の子に傷を舐めさせるのはどうなんだろう……?」
「消毒しとるつもりなんじゃろ……大人しくしておけ……」
「おやおや、では今のうちに言語野を活性化させておきますね」
そこから、ソラウの施術が終わり、オリジンちゃんが俺の腕を舐めるのに満足して会話ができるようになるまで、更に30分が必要だった。
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