表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法の世界に行きたいって言ったよな?剣の魔法じゃなくてさ?  作者: 六轟


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

318/621

318:

 ○月○日

 ついに念願のこの研究所へ来れた。

 神にすら至れる最強の生物を作るという研究を思う存分できる最高の環境と聞いている。

 私の研究テーマがやっと認められた……と思いたいが、実際には、その最強の生物にお偉方が自分の脳を移植して、永遠の命を手に入れたいとか、そういう下らない話らしい。

 地上では、どんどん色々な国がキナ臭い感じになってきているし、私の研究も可能であれば兵器転用したいという考えもあるんだろう。

 ただ、この地下5000mにある研究所は、例え地上が消し飛ばされても恐らく耐えられるだろうし、ドンパチを気にせず研究に集中できるはずだ。

 楽しみだ。



 ○月○日

 2日目にして、もう来たことを少し後悔している。

 まず、食事がまずい。

 誰だこんなもんを研究者に食わせようと考えた奴は?

 ディストピア飯にも程がある。

 料理が乗っているトレイから、その料理自体まで、全て四角形じゃないか。

 味も単調。

 1つのメニューは、どの部分も全部同じ味だからすぐに飽きる。

 そもそも味が薄いか、見た目のイメージと全く違うから脳が拒否しそうになる。

 どうしてオカズのような場所にある黄色い四角の食べ物が、チョコミント味なんだ?

 それに、このでかい研究所は殆ど無人で運用できるはずだが、事前に1人だけ私以外の人員がいるとは聞いていた。

 しかし、男とは聞いていなかった。

 この密閉空間で!このひ弱で儚い女の子である私が!男と2人きりだと!?

 しかも奴め!「いや、リアルの女はちょっと……」と聞いてもいないのに言ってきた!

 腹が立つ!これでも胸も大きければ顔もいいし性格以外は満点の女と言われてきたんだが!?

 まあ、研究自体はしっかりできそうなので良しとする。



 ○月○日

 頑丈な体にするために、ドワーフタイプの遺伝子を使用してみたが、これがまったく上手く行かない。

 魔石に強い拒否反応を示し、1時間もしないうちに肉体が崩壊してしまう。

 魂を定着させる前だったので、別に良心が痛むことは無いけれど、頭は痛い。

 何とか抑えようとしたが、どうやらこれはドワーフで作るのをやめた方が良いようだ。

 まあ、あのお偉方のイメージする最強の生物は、もう少し見た目が良いほうが望ましいのだろうから、ドワーフは最初から難しかったのかもしれないけれど……。

 でも、そうすると……エルフか?

 エルフかぁ……。

 いいのか……?

 全部女の子だぞ?

 お偉方のオッサンオバサンジイサン辺りがエルフの美女に?

 うーん……。



 ○月○日

 エルフの素体を使った結果、驚くほどすんなりと魔石が定着した。

 本来、魔石は人種に定着することは殆どない。

 自らの体内にある魔力が、魔石に拒否反応を起こすからだ。

 それを調整し、波長を重ねて、拒否反応を起こさずに体内に定着させることができれば、魔物を越える力を発揮できるのではないか?

 というのが私の研究テーマだったけれど、殆ど調整もしていないのにエルフに定着してしまった。

 どういう事だろうか?

 人間やドワーフとエルフがどう違うのか?

 ドワーフもエルフも精霊との親和性が高いが、エルフは更に妖精にも近い存在だから……という事か?

 わからん……。

 とりあえず、この素体を以降オリジンと呼称する。

 もし、この素体が特殊なだけで他のエルフに魔石が定着しなかったときのために、このオリジンはこのまま保存することにした。

 どうせ魂も定着させていないし、生体管理カプセルに閉じ込めておいても問題ないだろう。



 ○月○日

 エルフの他の素体で実験してみた結果、魔石が驚くほど馴染む。

 色々な条件で試してみたが、定着率は80%を超えている。

 その為今日、いよいよ魂の定着実験を行ってみたけれど、そっちは全くの空振りだった。

 どうしてだ?

 ここしばらく、あの男を見ていない。

 食事は摂っているようだが、お互い研究に没頭しているため、会うタイミングが全く無い。

 だが、おかしくないか?

 私は、美しいだろう?

 情欲を搔き立てられたりしないのか!?



 ○月○日

 研究は、全く進んでいない。

 それはまあいい。

 いや、よくは無いが。

 それよりもだ、あの男と喧嘩をしてしまった。

 アイツが悪いのだが、私の研究を下らないと言ってきたのだ。

 なので、私も奴の研究をこき下ろしてやった。

 お互い最強の生物を作るというテーマの元それぞれで研究しているのだが、私は人型に拘っているのに対し、あちらは恐竜という存在に拘っているらしい。

 アホらしい……人型でなければ、お偉方の脳を移植した所でマトモに生活できないだろうに……。

 そんな事を言ってやったら、「キミは本当にロマンの無い人だな」と言われてしまった。

 あるが?最強で美しい生き物を作るロマンあふれる美女なんだが?



 ○月○日

 何故か、地上からの物資が届かなくなった。

 管理ドローンに問い合わせてみたが、状況不明としか答えない。

 つまり、何もわからない。

 この研究所は、バイオプラントの機能もあるから、例え地上からの支援が無くても何とかなるとは思うが……。

 問題は、食事のディストピア感が増す事だろう。

 見た目も味も落ち、更に元を辿るとエルフの素体たちが材料だという事実に苛まれる。

 まあいい。

 あの男がスプーンを口に入れた瞬間の苦々しい顔が見れたから満足だ。

 私の研究と違って、あっちは素体として既に生きている物を使っている。

 素体は、地上からの搬入に頼っていたらしいが、それが期待できなくなり、しかたなくそこらを歩いている失敗作たちを再利用しようとして、捕獲に失敗したらしい。

 この研究所にある管理用ドローン20機の内、10機を喪失したようだ。

 わざわざプログラムを書き換えてまでやったようだが、ザマァない!



 ○月○日

 バイオプラントの機能が一部壊れた。

 その一部と言うのが、食料の供給システムだというのだから笑えない。

 簡単な部分であれば、我々でも治せたかもしれないが、万が一こうした事態が起きた場合の対応マニュアルでは、地上から技術者を派遣してもらうという事になっていた。

 地上との連絡は依然つかない。

 詰んだか?



 ○月○日

 オリジンに生体反応がある。

 魂を定着させていないのに、何故か生物としての反応を示している。

 造り物の入れ物に勝手に魂が定着することなどあるのだろうか?

 これはこれで興味深いテーマだ。

 なにせ、私が自分で魂を素体に定着させようとしても、一度たりとも成功していないのだから。

 となりで、あの男も頭をひねっている。

 自分の研究ができなくなり、仕方なく私の手伝いをしている。

 まあこれはこれで悪くない。

 会話できる相手がいるというのは、人間にとって重要な物だと気が付かされた。

 あと、笑うとちょっと可愛い。



 ○月○日

 あの野郎!

 すこし仲良くなってきたと思っていたのに、食料の大半を持って部屋に閉じこもりやがった!

 何が「在庫確認してくる」だ!?

 ディストピア飯とはいえ、アレは私の生命線だぞ!?

 残された食料は、運ぶのが間に合わなかったと思われる1か月分。

 これでどこまで生き延びられるか……。

 やはり、人は信用できん。



 ○月○日

 奴が部屋に閉じこもってから3ヶ月なんだかんだで私はまだ生きている。

 1食分を2日に分けて食べているが、案外何とかなる物だ。

 とは言え終わりは近い。

 研究は進んでいない。

 これは、やはりオリジンだけが特別なのかもしれない。

 そういえば、一度システムトラブルで停電が起きて、電子ロックがすべて解除されたことがあった。

 それで、あの男の部屋をのぞいてみたら、奴は白骨になっていた。

 この施設内は、ナノマシンの効果で、不潔な要素はどんどん分解されるようになっている。

 なので、肉などは腐敗が開始した辺りで排除されたのだろう。

 遺書と、手作りの指輪が置いてあった。

 私にらしい。

 食料なんて、持ち込んでいなかった。



 ○月○日

 水だけで何とか生き永らえてきたが、もう脳が上手く働かない。

 文字を思い出すだけで時間がかかる。

 これを読む者が居たとしたら、食には拘れと強く言いたい。

 死ぬ瞬間になって、アレが食べたかったこれが食べたかったと後悔するのは、とても辛いぞ。


 素体たちは、このまま施設が残る限り何千年でも残っているだろう。

 魂も定着していない物だから、それはまあいい。

 研究だって、一応極秘のプロジェクトではあったけれど、地上と連絡がつかない以上、それどころではないんだろうな。

 だから、私わ私で好きにしようと思う。

 あの、唯一の成功例……いや、成功しているのかどうか私にもわからないのだが、一応生体反応があるオリジンを解放することにした。

 一応基本的なコミュニケーションデータを脳にインストールしておいたが、会話する相手もいないこの場所で、彼女は一体どんな存在になるのか。

 見届けられないのは残念だけれど、まあ親とはそう言う物なのだろう。

 出来る事なら、我が子の一生をずっと見守ってやりたいが、鬱陶しいと思われるのが関の山だ。

 アイツの骸骨を私の研究所に移動しておいた。

 これで動けなくなっても、奴を見ていられる。

 どうだ?私の方が最後まで生き残ったぞ?

 生物として私の方が優れている証明だ。

 お前なんて、薬指に付けた指輪一つ分の価値しかない。






感想、評価よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
……男性研究者さんの名前はゼフで決定やな!(ギリギリラインを攻めてはいけません)
ラブラブやんけ!
男性研究者…(T_T)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ