288:
「……で、食材は手に入りましたか?」
「それがな……とても美味しい松茸の香りがしたから急いでやってきたんだが、どうやら先に取られてしまったようでな。残念だ……」
松茸……松茸かぁ……。
そんなに食べたかったか松茸。
この人、どういう感覚を使ってサーチしているのかわからないけれど、下手したらアイより上位の探索能力あるんだよなぁ……。
しかも、手に持っているのは、神様からもらった神弓。
最初こそアワアワしていたけれど、今ではもう肌身離さず持っているらしい。
遠距離攻撃手段まである索敵担当というわけだ。
これは……もしかして、便利なのでは?
「先輩先輩、松茸があるかはわかりませんが、美味しい食材がたんまり手に入るとしたらどうします?」
「そんなの多少怪しい話だとしても乗るに決まっているだろう?妹のために美味しい食材を集めたいんだ私は」
振り返り、ことの成り行きを見守っていた聖羅、リンゼ、有栖、アイ、ソフィアさん……は酔っ払って着いてきちゃっただけか。
とにかく、うちのメンバーに目で問いかける。
すると、全員が力強く頷き返す。
言葉にされなくてもわかる。
これが以心伝心か!
全員が、「人数分の松茸を確保するのに便利そう」と言っている気がする!
「実はですね、今ここはこうこうこういう事態になっていまして……」
俺は、先輩に事のあらましを伝えた。
「というわけで、ここは100レベルの魔物が出現するダンジョンになっていまして、その魔物を倒すと、とても美味しい食材がドロップするんですよ」
「それは素晴らしいな!?しかも、私の神弓にかかれば、稼ぎ放題なのでは!?」
「ですが、先輩がここで食材集めをする場合に、とても大きな問題があるのはわかっていますか?」
「問題?なんだ?」
「この場所、というより、この辺り一帯が、俺の所有する土地なんです」
「なん……だと!?」
だって、こんな開発もし難い土地、持っているだけで活用もできずに埋もれていた場所だったんだもん。
二束三文でアイが買い増し買い増し続けているらしくて、下手な自然保護区より広大な地域が我が家の土地となっている。
そこで勝手に食材を集めると法的にどうなるのか?
「森林窃盗罪って知ってます?」
「知らないぞ」
「勝手に森のもの持って帰ると、逮捕されます」
「なんだと!?それじゃあ私は食材を持ち帰れないじゃないか!」
「そこで俺の出番です!今なら100レベル超えの戦力をもつ我が家のメンバーが一緒に戦ってくれて、なおかつ食材は山分け!先輩は、犯罪に問われることなく、家族の元へ食材を持ち帰ることができるというわけです!」
「おおおおおおお!」
……この人大丈夫かなぁ?
将来的になにか悪い大人にひっかかりそう……。
「犀果!一緒に食材を探しに行こう!」
「はい!夕食はごちそうですよ!」
「楽しみだ!」
先輩と硬い握手をする。
多分仕事量で言えば先輩が7で俺達が3くらいになるだろうけれど、全員で山分けでいいらしいからラッキーだ。
「それで先輩、他に何か美味しそうな匂いはしますか?俺も鼻には自信あるんですけれど、今はまだ食材の匂いは感じてないです」
「そうだなぁ……む?エビの匂いがするぞ!」
「エビ!?」
「ああ!美味しいエビの匂い……いやまて!これは、エビじゃない!」
「じゃあなんなんですか?」
「エビフライだ!」
「エビフライ……」
エビフライは食材なのか?
いや、そういえば前世だと森の中で天然のエビフライを見つけることがあるって一時期有名になっていたな……。
リスの生息域と重なって確認されているから、なんらかの因果関係があるんじゃないかと話題になっていたけれど、詳細は不明だ。
「こっちの方だ!……しー!静かに……!」
みるく先輩に案内されながら進んでいくと、そこに目当ての奴はいた。
「本当にエビフライだ……」
「アレは、エンシェントフライね」
「大きなエビフライだな!あれなら妹も喜びそうだ!」
リンゼが説明してくれるけれど、エビフライのインパクトが強すぎて頭に入ってこない。
だって、エビフライが生き物のように……というか、実際に魔物とはいえ生き物となって這いずり回っているんだぜ?
しかも、体長は約2m。
この世の終わりかといいたくなるわ。
「大試、私は醤油が良い」
「アタシはソースね。とんかつソースがいいわ」
「レモン汁だけでいけます!」
またもや意見が分かれる我が家のメンバー。
だが、今回は先輩の意見を尊重してもらおうじゃないか。
「じゃあ先輩、エビフライにかけたいものを考えながら、弓で狙ってください」
「いいのか!?なら私は……そうだな……。うーん……」
考え込むミルク先輩。
そして……。
「ホイップクリームだ!」
それはないわ。
感想、評価よろしくお願いします。




