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結界術式の修正や、世界中の教会施設への査察。
教会の腐敗した部分とつながり、私腹を肥やしていたような者たちを潰しに潰して回っていたメンバーも、どうやら一段落したらしい。
貴族たちも大分落ち着きを取り戻してきたらしく、珍しく我が家は人が多い土曜日を迎えていた。
季節は秋。
天高く馬の体重が増えて、厩務員の顔が青くなる時期だ。
木ノ葉は色づき、この山の中というか森の中というか、ほぼ樹海の中にある我が家の周りも、秋の彩りに満ちている。
とりあえず、カメムシが怖いので、アイシリーズたちと一緒にお手製カメムシ避けスプレーを家の外壁にかけまくった。
さて、我が家と言っても、最近は家屋が複数存在しているために、ちょっとした村みたいになってきた。
まあ、高級な別荘地のようにでかい建物ばかりだけれど。
洋風っぽいメインの屋敷であるこの建物。
でっけー神社。
聖女である聖羅を守るために滞在している聖騎士の寮。
堕天使とその他大勢のバーサーカーたちの寮。
あれ?
家屋の数はともかく、人口で見ると、そこそこ大きめの村並みになってきたぞ?
開拓村の10倍じゃ済まんな……。
「お茶が美味いな……」
「我が家の家庭菜園は、順調にその収穫量を増加させております。この茶葉も、自家製ですよ」
「アイ、お前は一体この家をどうしたいんだ?もう自給自足できそうな勢いじゃね?」
「勢いというか、既に自給自足も可能な状態になっております。残念ながら、動物性のタンパク質は魚だけですが」
「ほへぇ……」
紅葉を眺めながら、東屋でのティータイム。
同席しているのは、メイド姿のアイと、世界中を飛び回らせられていたせいで数分前までイラついていた聖羅。
同じくストレスを溜めていたリンゼと有栖。
アイと、屋根の上で酔っ払ってぷかぷか浮かんでいるソフィアさんを除くと、珍しく幼馴染だけの空間。
家の中では、住人たちに大量のスイーツが提供されている。
実は、魔族の領域から、大量の贖罪を携えて魔王がやってきたからだ。
食材を置いた後、魔王はすぐにカレー屋に行ったためにここにはいないけれど、食材は傷まないうちに処理しようとなったわけだ。
女性の比率がとても高いため、メニューは甘いものが多くなった。
あれだけ修羅の如く暴れまわっていても、戦いを終えれば甘いものが食べたくなる。
そんなわけで、スイーツパーリィと相成った。
「盛り上がってんなぁ」
「そんなに喜ぶもんかしらね?割といつも甘いもの食べてるじゃない」
「そう言うならそのプリンもいらねーな?」
「いるわよ触らないで」
「まさかカカオまでゴロゴロ作れるようになっているとは思いませんでしたが、果物もちゃんと美味しくできていますね!」
「あのカカオ豆を発酵させたら、チョコも作ってみたい」
理衣だけでは処理しきれず溜まってしまった仕事を片付けるため、理衣と会長は今日も学園でせっせとお仕事らしい。
猫ソフィアを呼び出せてからの会長は、俺でもびっくりするくらい精力的に動いていてすごい。
隣の理衣は、ついていくだけでやっとって感じみたいだけれど、このまま経験を積んでいけば、来年は生徒会長としてしっかり仕事ができるかも知れない。
そんなこんなで、婚約者2人はここにいないけれど、婚約者との時間を楽しんでいる俺達に気を使ったのか、殆どの人たちがここに来ないようにしてくれているらしい。
ソレが届いたのは、そんな時だった。
「……?犀果様、郵便受に最果様宛にハガキが届きました」
そう告げるアイが、珍しじゅ焦っている。
「どうした?何かあったか?」
「……今このハガキがここに出現するまで、どんなレーダー類も反応がありませんでした。これは……」
どうやら、面倒事の匂いがする。
「ハガキの中身は……ドキドキ!秋の味覚祭りイベント開催のお知らせ?へえ!もうそんな季節か!」
「今年からは、私達も参加して良いんだよね?」
「って母さんたちは言ってたから、楽しみだったんだよなー!」
この季節恒例のイベントの開催告知を受け、俺と聖羅のテンションが上がる。
だけど、他のメンバーにはどうやら馴染みがなかったらしく、ぽかんとした顔をしている。
あのリンゼまでもだ。
「ちょ……ちょっと待ちなさい」
少しボーっとしていたリンゼが我を取り戻す。
「なんだよ?珍しいなそんなに慌てるなんて」
「慌てるわよそりゃ!アンタね、このイベントって、フェアリーファンタジーオンラインの秋イベントを参考に開催されるやつよ?」
「そうなんだ?やったこと無いからわからんな」
久しぶりに聞いたわゲーム。
「落ち着いて聞きなさい!このイベントが開催されるようになったのは、フェアリーファンタジーオンラインの歴史における中期以降なのよ」
「……へぇ?」
「絶対良くわかってないでしょ!?」
うん。
ごめん。
「つまり、100レベルを超えたプレイヤーの参加を前提に作られてるってことよ!」
あ、それはやばいわ。
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