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21:

 奥多摩の森の中に、燃え上がるような音と、スパークのような音が響き渡る。

 俺の左右の腰に挿された倶利伽羅剣と雷切が奏でるエキゾースト。


 鞘に納めている分には、ただのエフェクトであって熱くもビリッともしないけれど、とにかく目立ってしまう。

 本来、魔物の領域で目立つというのは致命的なんだろうけど、今はそれも受け入れるしかない。

 大して魔物がいないエリアであり、いたとしてもそこまで強くないのと、どうしてもこのSSRの剣を具現化しておかなければいけない理由があるからだ。

 1本につき100%上がる身体能力。

 それが、今の俺の生命線。


「グギギギギ!おっも……!クワガタもイノシシもどうでも良くなってきたな……!」


 2mを超えるクワガタと、3mどころか4mはありそうなイノシシを引っ張って歩く俺。

 傍から見れば、もしかしたら学園にきてから一番メルヘンしてるように見えるかもしれない。

 でも、実際にやってみると大変にも程がある。

 クソ硬い外骨格に包まれた死体と、中まで肉たっぷりな死体。

 それ即ち、クソ重い。


 そんなものを引っ張って歩くんだから、当然スピードは出ない。

 行きは30分ちょっとだったはずの帰り道が、既に1時間かかっているにも拘らず、まだ駐車場に到着していなかった。

 捨ててしまえば楽になるんだけど、それでもやっぱりせっかく狩ったんだから、持ち帰って採点してもらわないといけない。

 素材も売れるかもしれないし。

 そんなわけで、歯を食いしばっているんだ。


 前世で小学生の時、今の俺は自力でどこまで遠くに行けるんだろうと気になって、自転車で遠征をしたことがある。

 まあ、遠征と言いながら5km位しか離れてなかったと思うけれど。


 限界まで遠出して、そろそろ帰りが怖いから帰ろうと思った時、前輪のタイヤがパンクした。

 小さな金属片が刺さったらしくて、ゆっくり空気が抜けてたと思ったら、金属片が吹っ飛んだ瞬間弾けるようにタイヤが萎んだ。

 疲れに疲れたと思っていた状態からそれだったから、心にズシリと重い絶望が伸し掛かってきた。

 かと言って帰らないわけにもいかず、重い自転車を押しながら家へと向かう小学生の俺。

 自分1人で通るのは初めての道、パンクした自転車を押すという慣れない作業。

 悲しさと情けなさと不安で、我慢しても涙が出てくる。

 それを周りの人に見られるのが嫌で、無理な体勢で隠しながら進んだ。


 何が言いたいかって言うと、今まさにそんな状態だって事だ!

 ただ、ちょっとだけこの理不尽に対する怒りが多めかなってとこだけど!

 時間かかり過ぎてて、本当にこっちの方角だったかも自信なくなってきた!

 くそ!俺にイノシシ押し付けて行った女子共は1人くらい引き返してこんのか!?

 大体、監督していた教師はどうした!?

 おい!上善寺!


 結局俺は、1時間半かけて駐車場へと帰って来た。

 そろそろ終了時間だからか、大部分の生徒たちは戻ってきているようで、バスの周辺に集まっている。


 その中の数人が俺に気がついたようで、すごいスピードで走って来た。


「ちょっと大試!アンタ大丈夫なの!?大きなイノシシに襲われたって……その後ろのやつ!?」

「多分……あとクワガタも狩った……」

「これ、こんな所に出るような魔物なんですか!?」

「大きい……今夜はイノシシ鍋?」

「……食べるんですか……?」

「血抜きは出来てるから、食べられると思う……ぞ……」


 俺のグループのメンバーたちは、どうやら休んで体調が戻ったらしい。

 よかったよかった。

 逆に、俺がグロッキーだけど。


「犀果くん!そのイノシシ倒したの!?てっきり一緒に逃げてると思ってたのに、ついてきてなかったから心配してたんだよ!?」


 ……えーと、だれだったっけ?

 ……あ、さっき俺にイノシシ押し着けて行った女の子だ。

 名前は知らん。


「……もしかしてだけど、私の名前覚えてなかったりする?」

「まあ、うん……」

「そっか……。じゃあ改めて!佐原京奈(さわら けいな)です!クラス委員長もしてるんだけど……今度こそ覚えてね!」

「わかった。そっちのグループは、怪我無かったか?」

「うん!でも、あんな強そうな魔物を1人で倒しちゃうなんて、犀果君って強いんだね?」

「まあ、相手がただの力押ししかしてこない奴ならね……。魔術戦だときついかも……」


 周りへの被害を無視するのであれば、倶利伽羅剣と雷切で吹き飛ばせばいいんだけど、森の中でそれやるのも怖くてなぁ……。


 委員長との会話が終わったと同時に、上善寺先生がやって来て話し出す。


「よく戻ったな犀果!捜索しようとしても、謎の巨大イノシシを見つけた者たちが森の中を縦横無尽に走り回ったらしくてな。どこを探せばいいのかを話し合っていた所だったんだが……まさか既に倒しているとはな……」

「脊椎斬っただけで死んでくれて助かりました。むしろ、ここまで引っ張ってくる方が大変で……」

「だろうな……。この魔物は、本来こんな場所にいるはずがない種類に見える。普通のイノシシサイズですら、めったにここにはいないんだ。そっちのクワガタの魔物も規格外に大きすぎる。一体、何がどうなっているんだか……」


 このイノシシもクワガタも、やっぱりイレギュラーな存在だったのか。

 まあ、角ハムに比べたらどう考えても強すぎるもんな。


 てか、今気がついたけど、ポケットにガチャチケが1枚入ってる!

 イレギュラー2体でやっとレベルが上がってくれたらしい!

 これでガチャが引けるぞ!

 俺が引いたらまた木刀だろうから、もっと幸運持ってそうな奴に代理でやってもらわんとな!


 頭の中がガチャ欲に支配される俺には気がつかず、上善寺先生は尚もブツブツ呟いている。


「……いや……まさかあの噂が本当に……?」

「噂って何です?」

「ん?聞こえていたか?いや、大したことじゃないんだ。だが、最近各地で魔物の動きが活性化しているという知らせがあってな。そして、その原因なんじゃないかとまことしやかにささやかれいるのがなぁ……」


 そこまで話してから、俺の耳元で内緒話でもするように声を潜めて教えてくれた。


「魔王が復活したんじゃないかって言われていてな?」


 そこからいくつか質問されて、それに答えただけで解放された。

 俺が狩った獲物は、バスの荷物入れスペースに押し込んで持って帰ってくれるらしい。

 ただ、調査が必要とかで素材は全部買い上げられてしまった……。

 しかも今回の試験は、魔獣の数で勝負だったために、超強力なイレギュラーモンスターを倒したとはいえ、討伐数3の俺たちは当然1位では無かったんだとか……。

 俺の王者ミヤマ……。


 まあいいや。

 今はそれどころじゃない。


 俺は、律儀に俺のテントを片付けようとしてくれてるけど、やり方が分からなくて悪戦苦闘しているリンゼへと近寄り、手を掴んで森の方まで連れて行く。

「へ!?」「ちょっと!」「なんなのよ!?」

 なんて悲鳴は無視する。

 急ぎなんだ。


 他のクラスメイト達に盗み聞きされないであろう距離まで離れ、リンゼから手を放す。


「リンゼ、今しがた上善寺先生が言ってたんだけどな、最近各地で魔物が活性化していて、その原因が魔王の復活なんじゃないかって噂があるらしい」

「……あ、そういう……2人きりになったからてっきり……。まあいいわ!確かに、魔王はそろそろ復活しててもおかしくないタイミングなのよね。でも、ゲームの方だとまだ完全な復活じゃない筈よ?だから人間たちにチョッカイ出して、聖女の成長を妨害したりしてるらしいわ!」


 どうやら、魔王復活に関しては既定路線らしい。

 成程、それはわかった。

 問題は……。


「主人公不在だけどどうすんだ?」

「……まあ、どうにかなるんじゃない?アタシも色々調べてみたけど、桜井風雅の情報がまったくないのよね。教会で始末されたのか、こっそりどこかに派遣されてるだけなのかもわからないけれど……。でも、聖女の聖羅がビックリするくらいレベル上がってるし、本来死ぬはずだった有栖とアタシもいるからね!」


 ふーん。そっか。

 っていかねぇよなぁ?

 怖い事言わなかったか?


「お前と王女様って死ぬ予定だったのか!?」

「そうよ?有栖は、生まれつき病弱で子供のうちに死んじゃうのよ。それを主人公と焚火を囲んで話してた第3王子が、回想で振り返る時にちょっと出てくるだけ。アタシなんて死産よ死産!まあ、アタシの場合は死ぬはずだった体がアタシ用に再構成しなおされたから普通に生まれたし、アンタがアタシの提案でエクスカリバーを渡したことで有栖も生き永らえたから、そんなIFの話は必要無いんだけどね!」


 ドヤ顔のリンゼを見て、ほっと胸をなでおろす。

 俺を爆殺した相手とは言え、何だかんだで憎めないこいつが死ぬのなんて、やっぱり嫌だったらしい。

 だから、今このホッとした瞬間であれば、ドヤ顔も許してやろう……。

 いや、やっぱ頬っぺたつっついてドヤ顔崩してやりてぇな!


 直後普通に殴られた。



 戦力的には主人公が居なくても何とかなりそうだと安心したので、リンゼと一緒に皆の所まで戻る。

 先生方は、まだ隅の方で話し合っているけれど、事前に知らされた演習時間は既に終わっているので、いつ帰ることになるかわからない。

 俺は、リンゼが途中までやってくれていたテントの片づけを再開することにした。



「大試さん!ちょっとお願いが!」


 テントが無事片付け終わり、帰ったら干しておきたいなーと思っていると有栖がやって来た。

 片手には、例の2つ折りガラケーっぽいスマホを持っている。


「お願いって?」

「父から電話が来て、迎えを出すから、学園に戻り次第王城まで来てほしいそうなんですけど、時間ありますか?」

「えぇ……?くったくたなんだけど……?」

「そこを何とか!どうしても急ぎでお話ししたいそうなんです!」


 一体何の話があるというんだろう……。

 疲れてるって言うのは確かに事実だけど、本心を言うと王様と話すのは緊張するから逃げたかったんだけどなぁ……。

 逃がしてくれる気配がない……。


 ……いや、良い事思いついたぞ!


「行っても良いけどさ、その代わり頼みがあるんだけど」

「なんですか?私にできる事ならできるだけやりますけど……」

「実はさ、さっきレベルが上がってガチャチケットが手に入ったんだよね」

「そうなんですか!?おめでとうございます!」

「ありがとう!でもさ、俺が引いても殆どが木刀だからさ、王様に代わりに引いてもらえないかと思ったんだよ」

「なるほど……。わかりました!その程度であれば父も断らないでしょう!」

「じゃあ、それでお願い」

「よしなに!」


 俺の運は悪い。

 そもそも女神に巻き込まれで爆殺されている時点で人生詰むレベルの不運だったと思う。

 だから、自分のガチャ運なんてもう信じない。

 俺は!これからガチャに関しては他力本願することに決めた!

 さぁ!来いよSSR!王様ラックでおまけで2本くらい出てきても良いぜ!?



 ただ、どんなにSSR剣を手に入れた所で、バスの中でUNOをするのは自殺行為だと帰りのバスで気がついた。




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