193:
「強制徴収型魔道スーツ試作型……」
「どうかなー!?デザインにも拘ってみたよ!」
「男ってこういうのが好きなんでしょ!?」
まず、なにこれ?
「服……なのか?」
「そうだねぇ。服であり魔道具なんだよ。至る所に魔法陣が刻み込まれてて、肉体強化をしてくれる便利な装備品だ!魔術を扱えないって言う大試君のためにリンゼからお願いされて、魔力さえあれば使える装備を一から作ってみたんだ!」
「丁度良かったでしょ?感謝しなさい!」
どうなんだろう?
なんかさ?『強制徴収』って字面が気になるんだけど?
「これは、どういう魔道具なんですか?」
「元々こういう風に服のように装備できる追加装甲的な魔道具ってのは存在していたんだ。ただ、大試君の場合は魔力を任意で決まった量を流し込むのすら安定しないらしいと聞いたから、スーツの方で勝手に魔力をグビグビ吸い取る方式にしたんだ!」
「危なくないんです?」
「安全装置ならちゃんとついてるから、着用者の残り魔力が少なくなったら魔力の吸収が止まる……はずだよ!」
はずですか。
うーむ……。
いや、確かに次の試験では剣持ち込めないらしいから有用かもしれないけど、これって実験してるんだろうか?
日月護身之剣で剣を具現化していなくても身体能力を上げられるようにはなったけど、圧倒的に有利になれる程の物ではないだろう。
だから、攻撃も防御も強化できる装備ならとてもありがたい。
でも、新型アイテムに心躍るのは認めるけど、ちゃんと当てにできるのかが不明瞭なのは怖いな……。
爆発したりしない?俺パンチパーマみたいになっちゃう?
「一応理論上は安全なハズだけど、まだ魔道人形でしか実験してないんだ。その部屋の中は試技エリアになってるから、ちょっと着てテストしてみてくれないかな?」
「あー試技エリア……、死なないなら良いですけど、中々怖いですね」
「でも新しい魔道具なんて基本爆発するか燃えるかだから諦めて!」
うん、やっぱこの人こえーわ。
作ることが第一で、それで俺が痛い思いしたとしても死ななければ問題ないだろ?ってスタンスっぽい。
まあ、実際問題ないんだけど!痛いだけで実験できるならするさ!
だって、リンゼのプレゼントだぜ?
着たら低確率で死ぬとしても着るわ。
「向かって左側の奴から順に1~5号だから、まずは1号から試してみてー」
「わかりました」
俺は、試技エリアだというスーツが置いてある部屋に入りマネキンから試作1号を取り外して着てみる。
サイズは、勝手にスーツの方で調整してくれるようだ。
うん、違和感は無い。
着心地は、水着に近いかな?
実際に着たことはないけど、ダイバースーツってこんな感じなんじゃないだろうか?
「とりあえず着た感じ問題は無さそうです」
『じゃあ両手首にある赤い部分のどちらでもいいから、何れかの指を当てて「起動」って音声入力してみてくれ。あとは、スーツが自動でキミの魔力を吸い上げて身体強化してくれるから』
分厚いガラス越しにまるお兄様が指示を飛ばす。
スーツの手首部分を見てみると、確かに両手首に赤い丸い部分がある。
2カ所あるのは、片腕吹っ飛んでも使える様にって事かな?
いやその場合指もないか?
「ゆびをここに押し付けて……起動!」
言われた通りにしてみると、スーツ1号がキュインキュイン言い出した。
おー、なんか近未来っぽい。
少し動いて身体強化ができてるか試すか、と思った次の瞬間。
ドオオオオオオオオオオンン!!!!!!
と、激しい爆発音と衝撃が俺を襲った。
試技エリアじゃなかったら大怪我だったんじゃないかと思う。
気が付いたら爆発がリセットされていたようで、とりあえず俺は無事。
「……なんか、大爆発したんですけど……」
『うん!データから察するに、大試君から流れ込む魔力が多すぎてオーバーロード起こして吹っ飛んだみたいだねー。じゃあ、1号は脱いで5号を着てくれ!』
ガラス越しに見えるまるお兄様、ご満悦である。
とりあえず1号に関してはもう良いらしいので脱ぎ、俺は逆サイドのマネキンに装着されている5号を着た。
これも着心地は1号と変わらんな。
起動方法も同じらしい。
『1号は、魔力ロスを可能な限り減らした設計だったんだけど、5号は逆に敢えて魔力ロス全開にしてみたんだ!どうかな?』
「どうかなって……なんか……すいとられ……」
起動してから一瞬の事だった。
気絶した俺の意識は途切れ、ダメージは無いけど、倒れた状態でリセットがかかったようだ。
「……これ、魔力を吸い取る能力が強すぎて、一瞬で気絶するっぽいです」
『あー、慣らしてからじゃないと厳しかったかな?まあいいや。じゃあ次は、2号機を着てみてくれるかな?1号機をマイルドにした設計だから、ちょっと使いやすいんじゃないかと思むんだー』
まあいいや、じゃないんだけどな?
現時点で5分の2が死傷する結果になってるぞ?
これが製品版だったとしたら即刻リコールものだわ。
それでも、2号機はまだマイルドだというから着てみた。
結果は……。
ドオオオオオオオオオオンン!!!!!!
「また爆発したか……」
『大試君の魔力が規格外過ぎるんだなー!普通の人だったら一瞬で魔力吸いつくされる量のペースで吸い上げてるんだけど、他で魔力を消費できずに溜まりに溜まってるからか一気に流れ込むみたいでね。気を取り直して次行こうか!4号機を装着してくれ!』
「……ういっす」
そしてまた気絶する俺。
あのさぁ!もう少し安全性をさぁ!
『よーし!じゃあ最後に本命行ってみようか!』
「今までのは本命じゃなかったのかよ!?」
『ちゃんと使えたらそれでもよかったけどねー。でも、一番自信があるのは3号機だよ!』
「不安しかない……」
もう敬語を使うのすら忘れるほどの精神的ダメージを受けている俺だけど、最後の最後に一番自信があるという3号機を装着した。
それまで着てきたスーツと違って、背中側に噴射口みたいなのがある?
『3号機は、敢えてそこそこのペースで魔力を吸い上げつつ魔力ロスを減らす機能も程々にしてあるんだ!ただ、魔力のロスを減らせないという事は、魔力が無駄に熱に変換されてしまうという事でもある。そこで、3号機の背部に排熱用のスラスターを取り付けて、余剰エネルギーを推進力にもできるようにしてあるんだ!強制徴収される魔力は、大試君であれば気絶するほどではないし、仮に1~2号なら爆発するような状況でも、3号なら熱として排出されるだけで済むから安心だよ!といっても、流石に熱処理にも限界があるから、警告音が出たらシャットダウンしてくれ!起動する時と同じ要領で、「停止」と唱えれば止まるから!』
爆発するにせよ気絶するにせよ、サッサと済ませてしまおうと説明もそこそこに起動してしまう俺。
キュインキュインと魔力が吸われているらしく、それに伴って服の表面に赤いラインが浮かび上がってきた。
そのまま1分ほど待っても、爆発する様子も、気絶する様子もない。
おや?これは良いのでは?
「……ちょっと動いてみますね」
『お願いするよ!』
足を踏み込んでみる。
間違いなく身体強化が働いていて、体がとても軽い。
そのまま走り回ったり、飛び跳ねたり、壁を走ったりしてみた。
どういう理屈なのかはわからないけれど、背部のスラスターは俺のイメージした通りに噴射してくれるらしくて、飛行という程ではないけれど、ジャンプの補助として優秀な性能を持っているらしく、それを利用すれば天井を逆さまに走ることも可能だった。
おまけにだけど、中に設置してある鏡に映してみてみた所、全力で動く時に背後に炎が正直滅茶苦茶カッコよかった!
うっひゃー!
「まる義兄さん!これ凄いです!おっほほほ!うおっとー!」
『気に入ってくれたみたいだね!いやぁ、僕も嬉しいよ!キミ以外にこんな頭おかしい装備を使える人なんていないから、作るの楽しかったなー!』
「……え?頭おかしい……?」
『大試君は難なく使ってるけどね、そのスーツは平均的な貴族だったら20秒で魔力が殆ど底をつく位のペースでドバドバ浪費してるからね!おまけに吸い取るペースも調整してあるとはいえ普通の貴族が使ったら即気絶するペース!でも、大試君には丁度いいだろう?』
「まあ……そうですね……」
釈然としないけど、確かにそれなら頭がおかしいと言われても仕方がないかもしれない。
何にせよ、これは便利だ!
俺の魔力量がどこまで持つのかはわからないけれど、既に30分ほど動き回ってるのにまだ平気だ!
なんなら限界まで行ってみるか!
どうせ試技エリア内だし、限界性能を確かめておくのもアリだろ!
『ちょっと大試、あんまり調子に乗ってると……』
「平気平気!これ安定してる感じがするもん!(テテーテテテッ」
『でもそんなに連続で動き回ってたら……』
「リンゼは心配性だな!でもリンゼだって初めて魔法で飛べた時はきっとテンション上がって色々してみただろ?(テテーテテテテッ」
『それはまあ……』
「どうせ試技エリア内だから、仮に何かあっても大丈夫だしさ!(テテテテテーテテーテテー」
『……それもそうね!』
「そうそう!気楽にきら(テテンッ」
ドオオオオオオオオオオンン!!!!!!
「爆発したわ……どういう事……?」
『警告音が鳴ってるのに停止しないからだよー』
「え?警告音なんて鳴ってました?」
『聞こえなかったかい?スーパーの特売コーナーで流れる人々の注意を引くことで有名なサウンドを採用したんだけど』
「もうちょっと緊張感ある音にしてください」
こうして、強力な俺専用装備、強制徴収型魔道スーツ試作型3号が手に入った。
追伸、警告音は普通のアラーム音になりました。
感想、評価よろしくお願いします。




