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死か発現か

 俺がこいつに勝てる可能性――それは、俺がこの世界の『主人公』であることだ。


 もし俺が主人公なら、この世界に存在するすべての『潜在能力』を持っているはず。それが俺が作った設定だった。


 だが、もし俺が主人公だったとして、今スキルを発現できるという保証はない。


 考えている間にも、目の前のドラゴンは攻撃をやめない。もはや俺に考える時間は残されていなかった。


 自らの脚にすべての意識を集中させる。脚力強化のスキルを集中するだけで発現出来るかはわからないが、とにかくやってみるしかなかった。


「頼む。成功してくれっ!」


 目の前から炎が押し寄せてくる。死を覚悟したその瞬間、急に体が軽くなって、気づけば俺は宙に浮いていた。


 俺は脚力強化で超人的な跳躍力を手に入れた。スキル発現に成功したのだ。ドラゴンの姿は自分よりもはるかに下にあった。ついに反撃をするチャンスだ。


「今まで散々いたぶってくれたお返しをしてやる!!」


 自分の中にある怒りを右手に集める。感情を力に変換するスキルを発現させた。


「こんなところで死んでたまるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 深紅に輝くその右手を、全身の体重を乗せてドラゴンの頭に振り下ろす。


 鈍い音と同時に、ドラゴンの全身から力が抜けていくのが分かった。


「勝った......のか?」


 ぐったりと横たわるドラゴン。その光景を、自分でも信じられなかった。


 ほっとしたのも束の間、そのドラゴンはゆっくりと起き上がった。もう俺に戦う体力は残っていない。


 一直線にこちらに向かってくる。そして俺の上に覆いかぶさった。でも攻撃ではなさそうだ。ドラゴンは口を開いた。


「まずいっ!焼かれる!」


 とっさに体を動かそうとするが、体力不足で動けない。もっと運動しとけばよかったなぁと後悔したその時だった。


「焼きなんてしませんよ、ご主人様」


 女の声だった。このドラゴンが発した声だというのはすぐに分かったが、ご主人様呼びはどう考えてもおかしい。


「ご主人様って俺のことか? 『お前』とか、そういう呼び方じゃなくって?」


「はい、呼び方が嫌なら変えさせていただきますが、お前なんて失礼な呼び方、とてもできません」


 俺が作ったこの世界のドラゴンは、もっとこう......クールなキャラのはずだ。確かに、ドラゴンは強さを求めるあまり自分よりも強い相手に服従するという設定は作っていたが、俺の作った話では主人公の姉貴分ポジションだった。


「あのー、俺の上に乗るのやめてくれない?」


「あ、嫌でしたか? でもこれは愛情表現の一種でして......」


「愛情表現!?」


 こいつ、急にとんでもないこと言ってきたぞ。もしかして、俺が強すぎたから服従通り越して発情でもしちゃってるんじゃないか?


「まあ、気持ちは受け取るからどいてくれ」


「分かりました。ご主人様」


「俺はアキーラ・シュベルグ。呼び方はアキーラでいい。それと、そんなにかしこまったしゃべり方じゃなくていいぞ。」


「あ、うん、わかった」


「そっちは名前、何て言うんだ?」


「名前?そんなのないけど......」


「そうかぁ」


 ドラゴンが名前を持ってないのは予想外だった。呼び方に困るし俺が名前つけちゃうか。赤いから......『ルージュ』にしよう。


「お前の名前、ルージュとかどうだ?」


「素敵な名前! 気に入ったよ」


「それはよかった」


「ところでルージュ、俺ロブランド城に行きたいんだけど、乗せていってくれたりしない?」


 ドラゴンをタクシー代わりに使う人間なんて俺くらいだろう。


「楽勝だよ! さあ、乗って」


 ルージュの背中は広くて意外と乗り心地が良かった。


「しっかりつかまってねー」


 風を切って城へと向かう。とても気分がいい。心強い仲間もできたし、なんだかんだ俺の異世界ライフも順調に進んでいる。

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