転生二日目にして大ピンチ!
自分が作った世界、俺が今いるのは俺が作った世界だという事実に興奮がとまらない。
「ごちそうさまでした! 明日には城に出発します!」
「おお、そうか。気を付けて行って来るのじゃよ」
ジェルドさんは、俺の突拍子もない言葉に少し驚きながら、そう声をかけた。
「そこのドアを開けると客人用の部屋がある。机とベッドしかないが、今日はそこでゆっくりしていくといい」
「ありがとう!ジェルドさん!」
興奮を隠しきれない俺は、小走りで部屋へと向かった。
ドアを閉め、ベッドに横たわる。少し埃っぽいが、ふかふかで心地よい。
「この世界ってどんな設定だったっけなぁ……」
この世界でうまくやっていく一番の近道はこの世界の設定を思い出すことだと思った。
ただ、これを思い出すのが案外難しい。なにせ俺がこの小説を書いたのは小学六年のころ、しかも中二病満載の小説だったもんで、頭の中の黒歴史ファイルに詰め込んでいるからだ。
最初に思い出したのは『スキル』の存在。この世界の人は全員が一つ以上スキルを持っている。要するに超能力みたいなもんだ。
しかし、生まれた時からすぐにそれを使えるわけではない。スキルが発現するまでは、『潜在能力』としてその人の中に眠っている。
次に、種族について、大きく分けて、『人間』、『魔族』、『ドラゴン』の三つの種族がこのナヌドラース大陸に生息している。
人間は、そのほとんどがアーサー・バシュコドール3世が統治するロブランド王国の国民である。
魔族は、魔王ノワールの元に集まった多種類のモンスターのことを指す。
ドラゴンは、人間や魔族と違い、国を持たないが、強さだけを求める種族である。
人間と魔族は敵対関係にある…… みたいな設定だったはずだ。
いけない、ずいぶんと長い間思い出していたようだ。明日は早い、もう寝ないと。
ろうそくの火を静かに消して、布団にくるまった。
小鳥のさえずりと太陽の光で目を覚ます。こんなに心地よい目覚めは何時ぶりだろうか。目覚まし時計の爆音で目覚めていた向こうの世界向こうの世界とは大違いである。
「起きたか」
ジェルドさんは俺よりも早く起きていたらしく、二人分の朝食が置かれたテーブルの向かい側に座っていた。
「おはようございます」
テーブルには昨日と同じパンと野菜が入ったスープが置かれていた。
「さあ、食べよう」
「いただきます」
穏やかな食卓だ。いつまでもここで暮らしていたい気もするが、ジェルドさんに迷惑だろう。
ジェルドさんは俺より早く食べ終わり、タンスの中から小袋を持ってきて、俺の朝食の隣に置いた。
「城に行ったら金が必要になるじゃろう。少ないが、持っていけ」
中を見ると、金貨が袋いっぱいに詰まっていた。
「そんな、受け取れませんよ」
「遠慮せんでいい。これで服でも買うといい」
急に自分の服装が恥ずかしくなる。
「でも……」
自分に何か差し出せるものがないかを考える。だがお金なんてもってない。どうするか悩んでいると、ポケットの中に固いものがあることに気づいた。あの時拾った宝石だ。
「ならこれをもらってください」
赤い宝石を差し出す。
「宝石なんぞわしにくれんでいい。」
「いや、もらってください。そうしないと申し訳なくてお金も受け取れません」
少しの間が開く
「そうか……」
少々不服そうな顔を見せながら、渋々交換を受け入れてくれた。
支度は終わった。出発の時だ。
ジェルドさんもドアの外まで見送りに来てくれた。
「気を付けるのじゃぞ」
「色々とありがとうございました。ジェルドさん。では」
「そういえば、名前を聞いてなかったな」
名前かぁ…… 聞かれたときなんて答えたらいいんだ?アキラって答えてもいいけど、なんかダサいよなぁ……
「アキーラ・シュベルグです」
我ながら素晴らしいネーミングセンスをしている。イカした名前だ。
「さようならーーーー」
「無事に城までたどり着くんじゃぞーーーー」
ジェルドさんに別れを告げ、道を進む。この道は整備がしっかりとされている。城までは案外楽勝かもしれないな。
そう思い、二時間ほど歩いただろうか。急に周りが暗くなった。
『雨か?』そう思い、空を見上げる。空は見えなかった。代わりに視界に入ったのは、赤い翼……
「まさか、そそそそんな馬鹿な……」
思わず声に出てしまうほどの恐怖。もう一度顔を上げたときには、その飛行生物の顔は俺の正面にあった。
俺を見る目は、獲物を今から殺す目だった。鋭い爪、大きな翼、嚙まれたらひとたまりもないであろう牙。誰がどう見ても、それはドラゴンだった。
「俺はこんなところで死ぬのか? まだ転生二日目だぞ!?」
直後、ドラゴンの口の中が赤く光り始める。
「これはやばい」
直感でそこにあった岩の陰に隠れる。俺の周りは炎で包まれた。後ろを見ると、辺り一面焼け野原。
「ああ、死んだわ俺」
そう思った時にはそいつは爪で俺の体を引き裂こうとしてくる。間一髪避けることに成功する俺。その後も同じような攻撃をギリギリ躱していく。
まだ生きているのが奇跡だ。だが、攻撃を躱しているというのは自分にとってあまりにも都合がいい解釈だった。俺は、このドラゴンは俺をいたぶっているということに気づいた。
「こいつ、俺で遊んでいるのか? 俺はこんな奴の娯楽にされて無様に死ぬのか?」
俺の中で急に『生きたい』、というより『こんな奴に殺されたくない』という謎のプライドが燃え始めた。
逃げることはできない。となると、戦うしか手段は無かった。ドラゴン相手に勝機などないと思うかもしれないが、この世界を作ったのは俺だ。何か方法があるはず。
考えた結果、可能性は限りなく低いが、勝てるかもしれない方法を思いついた。
「これなら…… 可能性はゼロじゃないな!」




