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扶桑国戦記 (改訂版)  作者: 長幸 翠
第四章 反攻作戦
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反攻作戦11

 ――ズレヴィナ軍 笛崎市 扶桑国侵攻軍総司令部――


 侵攻直前に扶桑軍の開幕ラッシュとも言うべき怒濤の攻撃を受けて、ズレヴィナ軍の陸上部隊は第一陣の砲兵旅団と高射ミサイル大隊の多くを失った。


 榴弾砲は百二十門のうち半数以上を失い、彼らを守るべき対空兵器も数を大きく減らしている。


 この被害報告は、侵攻軍総司令部、そして前線司令部の鼻面を殴り飛ばすに等しい効果を与えた。この大損害に、「作戦中止」の文字がチラッと過る者もいたが、政府――党より「この作戦は如何なる犠牲を払っても遂行せよ」と指示が出ている以上、軽々に判断することは許されない。


 未だ侵攻部隊の主力であるロボット部隊は六百機中五百五十機が健在。歩兵や戦車に至っては、ほぼ無傷だ。


 ニカロノフ大将は第二陣のレーダー車両と対空車両、自走榴弾砲で陣地の再構築を急がせながら、生き残った榴弾砲で支援砲撃とロボット兵器を始めとする陸上部隊の前進を指示するのであった。


 対する扶桑軍は、ズレヴィナ共和国の衛星測位システムに対してジャミングを開始する。これによってズレヴィナ軍は、自前の衛星測位システムを用いて正確な位置情報を得る事が不可能となった。この他、戦争開始後よりエトリオ連邦と欧州の衛星測位システムも扶桑国周辺では使えなくなっていた為に、精密誘導は敵である扶桑国のシステムを使用するしかない状況となっていた。



 ――扶桑軍 第二回廊 第一ライン――


 扶桑軍の攻撃が終わった午前五時過ぎ、ついにズレヴィナ軍陸上部隊第一陣の前進と支援攻撃が始まった。


 日の出は過ぎているものの、日光は分厚い雲と小雨に遮られ薄暗い。


 司令部の偵察ドローンを始め、グリフォン中隊とカーバンクル中隊の≪カワセミ≫は敵の陸上部隊を上空から監視しており、敵の前進を即座に捉えていた。


 カーバンクル中隊には、≪メーティス・システム≫に適応するオペレーターが複数人おり、第一回廊から第三回廊まで数人ずつ配置している。一人辺り平均六機コントロールしており、グリフォン中隊が≪カワセミ≫を使う負担を軽減している。


 敵の規模から、第一陣はこちらの迎撃能力を探るため、強行偵察の意味合いがあるようだ。だが、もしこの程度の敵に手こずるようならば、敵はすぐにでも本命の第二陣を送り込んでくることだろう。


 榴弾砲の予想着弾地点に近い≪タロス≫や≪バーロウ≫が、付近の掩体壕に退避していく。


 百五十二ミリ砲弾が約一分の飛翔を経て、灰色の雲を突き破り次々と第一ライン上に降り注ぐ。


 オペレーター達の乗る≪九五式多脚指揮車≫は、五キロメートル後方の第二ライン上からコントロールしているため、被弾する心配は無い。だが彼らの意識は、≪タロス≫のいる第一ラインに存在している。


 砲弾が着弾する度に地面が揺れ、巻き上げられた泥混じりの土砂が降り注ぐ。


『グリフォン5よりグリフォン2へ。次の砲撃体勢に入り次第攻撃します』


 ズレヴィナ軍の生き残った自走榴弾砲は、扶桑軍の反撃を恐れ、数射した後に移動している。しかし≪カワセミ≫は空にあり、レーダーによって常に正確な位置を把握している。今回はこちらの自走砲が弾薬補給するタイミングと重なり反撃出来なかったが、間もなく準備が整う。敵が次に砲撃準備を始めた時が、息の根を止める好機となる。


「グリフォン2、了解。みんな、次の着弾後に状況確認と敵ドローンの排除!」


 あけみは指示を出しながら、仲間達の状態を確認する。ほぼリアルタイムに砲撃を察知しているお陰で、戦車や≪タロス≫、≪バーロウ≫全てが余裕を持って退避出来ていた。


『砲撃で天井崩れたりしないよな……?』


 そんな中、不安そうな義晴の声が聞こえてくる。他のオペレーターの多くが多脚指揮車に乗り後方からコントロールしているところ、彼は≪アトラス≫に乗って遊撃を担当している。≪アトラス≫のコントロール範囲は多脚指揮車の半径十キロメートルに対して半径一キロメートル程度と十分の一しかないため、≪タロス≫や≪バーロウ≫と同じ第一ライン上でコントロールしているのだ。


『全く同じ場所に砲弾を受け続けない限りは、耐えられるよう造ってある。大丈夫……、だろう』


 落ち着いた声で、亮輔が答える。彼は陣地構築や罠の扱いを得意としており、今回の陣地設計にも深く関わっていた。今は第三回廊より東側の山岳地帯に潜み、敵迂回部隊の迎撃と後方攪乱、そして第三回廊防衛の補佐と、いくつもの役割が与えられている。山岳地帯は砲弾が飛んできていないため、文字通り“高みの見物”状態であった。


『なんだよ、その微妙な間は?』

『……ピンポイントで五、六発当たれば、可能性があるかもと思っただけだ』

『可能性あるのかよっ!?』


 思わず悪態をつく義晴。何せ≪アトラス≫と言えど、榴弾砲が直撃すればミンチ待ったなしなのだ。


『宝くじが当たるよりも、確立低いですよ?』

『三奈ちゃん……、それフラグ!』

『ヨッシー、ぎゃあぎゃあうっさい』

『そんなこと言っても、近くでドンドコ言っていったら怖いでしょ』

『彩姉は何も言っていないけど?』

『んぐっ……』


 三奈の慰めに義晴がツッコミを入れ、エイミーが黙らせる。彩華も≪アトラス≫に乗って、第一ライン上で同じように砲撃を受け続けているのだ。引き合いに出されると、義晴は何も言えなくなる。


 実は、彩華は狙撃手のため、第一ラインでも少し後方にいるせいで、降ってくる砲弾が少なかったりする。それでも、義晴のように動じない程度には、肝が太い。


 仲間達のやり取りを聞きながら、あけみは仲間達が必要以上に緊張していない事を感じ取って安堵する。


『まあ、結構揺れるから不安になるものだな……。うおっ!?』


 同じく≪アトラス≫搭乗者の英川遥中尉が会話に加わったところで、一発の砲弾が掩体壕の屋根に直撃。振動と轟音に、遥は驚きの声を上げる。


「え、英川中尉……? 大丈夫ですか?」

『……あ、ああ。問題無い。大丈夫だ』


 あけみが声をかけると、遥は緊張した声音で答える。自分の真上に砲弾が落ちたのだから、驚くのも仕方のない事だ。


『まあ、震度三か四ってとこっすかね? これ位は余裕っすよ』

『まだ敵の姿も拝んでないのに、これ位でビビってられねえ』


 英川中隊の面々が、美女、美少女揃いのあけみ達にいい所を見せようと虚勢を張るが、声は少し震えていた。


『敵の最終弾落下、十秒前……』


 レックスがカウントダウンし、『今っ』の声と同時に振動と轟音が第一ラインを揺らす。


「各機散開っ!」


 掩体壕に退避していた≪タロス≫や≪バーロウ≫が、砲弾の巻き上げた土煙が降る中を飛び出していく。ズレヴィナ軍は、≪タロス≫が退避している隙を狙い偵察ドローンを後方に送り込もうと目論んでいた。だが≪避来矢≫によって全ての偵察ドローンの位置を特定しており、それを前線もリアルタイムで共有しているために対処は早かった。


 各オペレーターの≪タロス≫が十二・七ミリライフルや二十ミリ対物ライフル、携帯式地対空ミサイルを駆使して手早く偵察ドローンを撃ち落としていく。優秀な射撃管制能力を備える≪タロス≫にとって、低空を等速度で飛行する偵察ドローンは格好の標的となった。偵察ドローンが第二ライン近くに迫ったものの、ライン後方の掩体壕に潜む彩華(グリフォン4)の≪アトラス≫、≪タロス≫一番機、レックス(グリフォン10)の≪タロス≫一番機と二番機、陸軍の渡會少尉(グリフォン15)の≪タロス≫一番機が持つ携帯式レールガンによって見る間に数を減らして行き、残った数機は第二ライン上の友軍によって撃ち落とされていった。程なく、偵察ドローンの排除を完了する。


『携帯式のレールガン、なかなか使えそうだな』


 英川遥中尉が、やや熱を帯びた声で感心する。男性とは、圧倒的な力を持つ武器に魅了されやすいのかもしれない。あけみ達は直也を始め同じ隊の男性陣の反応を思い出し、内心で苦笑する。


『接敵まで、約八分』


 久子がズレヴィナ軍陸上部隊の接近を知らせる。前にロボット兵器を押し立て、戦車が続く。第一回廊、第二回廊にほぼ均等に数を振り分けているのは、それぞれの反撃能力を推し量るためだろう。第一ラインの前面(南側)に敷設した対戦車地雷によってロボット兵器に小規模ながら被害を与えているが、命を持たないロボットの群れは、与えられた指示に従いひたすら前進してくる。戦車は露払いを務めるロボット兵器の後を、粛々と付いてくる。


 間もなく接敵するという所で、敵の砲兵部隊が一斉に停車し砲撃体勢に入る。


『グリフォン5より各隊へ。一、二射目は敵自走榴弾砲、三射目以降はO-9からO-13の敵ロボット兵器を砲撃します』


 オペレーター達、そして英川中隊の小隊長達が『了解』と返し、敵の砲撃と突入に備える。


 ズレヴィナ軍の砲兵部隊が初弾を放つ前に、久子から目標を指示された扶桑軍の砲兵部隊が砲撃を開始する。


 双方が放った砲弾がレーダー画面上で飛び交う中、再び第一ラインの≪アトラス≫、≪タロス≫、≪バーロウ≫が掩体壕に飛び込んで砲弾をやり過ごす。


 これまでズレヴィナ軍の自走榴弾砲は、三射または四射して移動する動作を繰り返していた。通常ならば、対砲レーダーが飛翔する砲弾を捕捉し、その軌跡から砲撃地点を割り出して反撃するため、この動作で退避が間に合う。しかしズレヴィナ軍の砲兵部隊は、砲撃前から偵察ドローンで捕捉されている事を知らず、想定より二十秒ほど先んじて砲撃を受けていた。


 その僅かな時間差は、ズレヴィナ軍砲兵部隊に残酷な結果を突きつけた。ズレヴィナ軍の自走榴弾砲が三射目または四射目を放とうとしたタイミングで、多数の車両が一斉に爆煙に包まれたのだ。


 既に≪カークトゥス≫による“傘”は失われ、リアルタイムに行動を捕捉されていては分が悪すぎた。五十両近い自走榴弾砲を一気に失い、攻撃を受けなかった自走榴弾砲も、慌てて退避行動に移ろうとしたところで悉くが被弾した。あっという間に百両もの自走榴弾砲が壊滅し、扶桑軍の砲兵部隊は反撃を恐れること無く一方的に撃ちまくることが可能となった。久子から砲撃管制を返された大隊長達が「ボーナスステージ突入だ!」と息巻き指示を出すのだった。


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