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扶桑国戦記 (改訂版)  作者: 長幸 翠
第一章 統合機動部隊
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基地見学1

 お披露目が終わり、各隊の士官が格納庫を去って行く。


 昼食には少し早かったが、午後は基地の見学予定があるため、直也達は出雲大佐の許可を得て陸上部隊エリアの食堂へと向かった。


 直也達十人が食堂に足を踏み入れると、席は半分近く埋まっていた。食事中の隊員達チラチラと好奇の視線を向けてくる。当人達はさりげなく見ているつもりでも、見られている側からは丸分かりだ。


 そんな視線をサラッと受け流し、配膳のカウンターで料理を受け取り空いている席で食事をする。ご飯と味噌汁、鳥の竜田揚げ、キャベツの千切り、そして漬け物。軍では数少ない楽しみである料理に気を使っているため味が良く、そして体を動かすことを考慮し量も多い。


「エイミー、ちょっと食べてくれる?」

「いいよー」


 量が多くて食べきれない久子が、隣のエイミーにご飯と竜田揚げをお裾分けする。一般的な身長の久子が、身長百四十センチメートルほどと小柄なエイミーに食べ物を分け与えている姿は、「たくさん食べて大きくなりなさい」という意味か、はたまたいじめか罰ゲームの類いに見えるかもしれない。しかし食欲に関してエイミーは、成人男性を優に上回る――直也達の中で一番大柄な龍一並みの――量を食べる。いっそ清々しいまでの食べっぷりだ。


 あけみ、彩華、三奈に関しても、エイミーと比べるには及ばないが、スラッとした体型からは想像出来ないほどの量を食べる。


 食事を終え、各自の部屋で迷彩服に着替えてからグリフォン中隊の隊舎に集まる。予定時刻の十分前にマイクロバスが到着し、運転手兼ガイド役として、司令部付きの広報担当士官が付く。三十台前半の、物腰の柔らかい男性だ。


「君達がグリフォン中隊のオペレーターだね。今日はよろしく頼む」

「「宜しくお願いします!」」


 直也達一人一人と握手してからマイクロバスに乗り込むと、基地見学会が始まった。


「まずは港に向かう。うちの部隊に所属する水上艦は八隻あるが、残念ながら全て出払っているので今回は見せられない。代わりと言っては何だが、停泊中の潜水艦を見てもらう」


 つい先日まで八隻全てが新兵器搭載のために改装中であった。つい先月、七隻が改装を終えて試験と訓練を行っており、残る一隻はまだ改装が続いている。


 陸上部隊エリアから共通エリアを通り、海上部隊エリアへ。ゲートでは予め連絡が行っていたこともあり、僅かな時間で通行が許される。


 十分ほどで港に到着しマイクロバスを降りる。麗らかな陽の光と、漂う潮の香りが直也達を迎えた。


「すぐ迎えが来るはずだ。

 それでは、私は仕事があるので別行動だ。時間が来たら迎えに来る」


 広報担当士官がマイクロバスを運転して去って行く。


 広い埠頭の片隅に、ひっそり寄り添うように二隻の潜水艦が係留されている。統合機動部隊の水中艦隊に所属する<あやなみ>型潜水艦、≪あやなみ≫と≪すずなみ≫である。扶桑軍の最新鋭潜水艦であり、ディーゼル機関とポンプジェット推進を持つ潜水艦だ。


 ≪あやなみ≫から乗員が二人出てくると、タラップを渡り岸壁に降り立つ。直也達は横に並び、敬礼で出迎える。


「ようこそ≪あやなみ≫へ。艦長の穂高だ」


 前に出た士官、穂高知貴中佐が答礼し、直也達の顔を見ていく。そして穂高亮輔少尉のところで、「昨日の制服姿も良かったが、その姿も良いな」と笑う。二人は親子であった。


 父親の好意的な反応に対し、息子の亮輔は「ありがとうございます」とだけ答え、口をへの字に結んで目を逸らす。知貴はそんな息子の姿を少しだけ見つめた後、気を取り直して「艦内を案内する」と先導する。


 艦の中央にあるハッチからタラップを降りて艦内に入ると、発令所や魚雷発射管室、居住区、電池室、機械室などを見て回る。陸上部隊の兵士が艦の内部を見る機会など無いため、直也達は全員がキョロキョロと興味深く見ている。巨大な兵器や建造物は、男心をくすぐるものだ。特にこう言う物が好きな男性陣とエイミーの反応は、オモチャを前にした子供のようであった。


「この艦は、イコルニウムを使った大容量バッテリーの搭載を前提に設計された最初の潜水艦だ。だから特徴は、ポンプジェット推進よりバッテリーにある。コイツのお陰でバッテリー設置容積が従来艦の五分の一にも関わらず容量が三倍以上に増えている。その分を居住性の向上と物資や兵員輸送用の区画に回している。君達もいつか乗ることになるかもしれないな?」


 一時間ほどの見学を終え、艦内の食堂で休憩する。少し離れた所では、数人の若い男性乗員がチラチラとあけみ達女性陣に熱い視線を送っている。


 知貴は、呆れながらも苦笑するしかない。食堂にいる乗員達はサボっているのではなく休憩中のため、この場所にいることを責めることは出来ない。


「あいつら……。すまない、追い出そうか?」


 見学の最中、すれ違った若い男性乗員が道を譲りながら、あけみ達女性陣に目を奪われる光景が何度も繰り返されていたため、そこから話が伝わったのだろう。現に二人ほど、すれ違った乗員が混ざっていた。


「私は気にしません」


 あけみの言葉に、他の女性陣も頷く。その言葉を聞いていた乗員の何人かは、ガックリと肩を落としている。身だしなみをいつも以上に整えてきたにも関わらず、路傍の石の如く女性陣の気にも留められなかったのだ。龍一、義晴は心の中で乗員達に合掌した。


 休憩がてら雑談をする。


「亮輔はしっかりやっているかな?」

「はい。とても優秀で、うちの隊には欠かせないですよ」


 直也は、知貴の問いに頷いて見せる。亮輔は支援攻撃を得意とする他、罠の設置や陣地構築に精通している。当の亮輔は、知貴から一番遠い席に座り飲み物を飲んでいた。直也の賛辞のためか耳が少し赤くして、そっぽを向いている。


 知貴が「それは良かった」と息子の方を見る。直也は、亮輔が何故知貴を避けているのか分からなかったが、軽々しく家庭の事情に首を突っ込む訳にはいかず質問するのは憚られた。


 二十分ほど雑談をしていると、マイクロバスが戻ってきたと連絡が入り艦を降りる。食堂を後にする際、乗員達があけみ達に話しかけたそうにしていたが、知貴の鋭い視線の前にどうすることも出来ず、涙をのんで見送っていた。


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