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扶桑国戦記 (改訂版)  作者: 長幸 翠
第三章 反攻作戦前
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研究所三日目2

 彰利と別れ、一彰と直也達一行は、幾つかの試作武器や装備を見て回る。幾つかはすぐに使えそうな物が見つかり、準備してもらうように伝える。その後、打ち合わせスペースで休憩がてら話し合う事になった。


 各自がドリンクサーバーで思い思いの飲み物を手にすると、テーブルセットで試作武器や装備の感想、そして雑談をする。


 雑談が落ち着いた所で、あけみが切り出す。


「≪タロス≫の軽装甲型を始めとした、機能特化型という考えは良いと思いました」


 現在、≪タロス≫シリーズは二種類ある。一つ目は、最初に量産された“通常型”と呼ばれるA型。二つ目は、A型より力と装甲を増した“重装型”とも呼ばれるB型。


 他に、オペレーターの直接操作モードの戦闘スタイルに合わせ、独自に改造を施した機体もあるが、これらは除外する。


 今回はこれらに加えて、“軽装甲型”のC型が既に準備されている。今後増える市街戦を前提とした物だ。


 A型とB型は、人型ロボットと言っても人間より大きく、かつ重量があるため、建物の中を動き回る事は難しい。これに対応する為、C型では成人男性並みにダウンサイジングしている。力や装甲、機動性、センサーなどの性能はA型より劣るが、(廉価版の)パワードスーツを着た歩兵並みのスペックはある。何より擬装として服を着せると、顔を見ない限りは人間と見紛うほどだ。


 他には、機能特化型を開発する計画もある。B型をさらに発展させたタイプ、軽装甲にして索敵に特化させたタイプ等が提案されている。とは言っても構想段階のため、この戦争には間に合わない。


「あけみ君が使っている近接戦用の機体も、非常に興味深いな」

「あれは、隊の男の子達と、整備班の人達が考えたんです」

「やはりそうか。野郎ってのはカスタマイズ好きな奴が多いからな」


 一彰が笑う。


 剣術の得意なあけみ用(と言うのは、開発者側の都合)に開発した、刀型の高周波ブレード。


 あけみが直接操作モードでこの近接武器を活かすには、A型、B型共に瞬発力が不足していた。そこで直也を始めとする男性オペレーター達と整備班の有志が集い、近接戦用に機体を改造したのだ。


 主な改造点は次の通り。

・足の人工筋肉の追加。

・装甲の一部簡素化と軽量化(バッテリー容量を減らし、装甲を薄くしたり減らした)。


 この改造によって、加速力と短時間の速度は大幅に向上。さらに関節部の装甲を一部撤去した事で、可動範囲が広くなった。


 反面、一二・七ミリ弾を防ぐ事は不可能となり、小口径の小銃でも当たり所によって損傷を受ける事がある。さらに高機動戦闘時のバッテリー消費量が増加した。


 接近戦を重視した、通好みの機体と言えよう。


 他にも、彩華とレックスのために、狙撃用に改造した機体もある。こちらは、A型をベースとして、二十ミリ対物ライフルを立射で扱えるようにしたものだ。


 こちらも、直也達オペレーターと整備班の男性陣がタッグを組み、議論を交わしながら改造を進めていった。男という存在は、カスタマイズに夢を持ち、「○○専用」という響きに憧れるものだ。


 続いて、三奈はお茶の入っているコップを置き、傍らの兄を見上げる。


「お兄ちゃん。よくマンガやアニメで見る、ワイヤーアクションって出来ないのかな?」


 話を振られた一彰は、ニヤッと笑いながら「あー……、それな」と言いながら、直也を見る。


 見られた直也は、苦笑しながら説明する。


「三奈……。以前、俺も全く同じ事を一彰さんに相談した事があるんだよ。

 結果は、実用的では無かった」

「どんな所が、でしょうか?」


 三奈は首をひねる。


(きっと、ピョンピョンと自由自在に飛び回っている≪タロス≫の姿が、頭に浮かんでいるのだろうな……)


 直也自身も、一彰に相談した時は同じイメージを持っていたのだ。だから、三奈も同じだろうと考える。


 一彰は、以前検討した時の資料を呼び出しスクリーンに映し出す。


「三奈が想像しているのは、蜘蛛の能力を取り込んだマンガの主人公や、巨人を相手に剣で戦う兵士みたいな動きだと思う」


 兄の質問に、三奈は「そうです」と頷く。


「蜘蛛のように粘着性の糸は出せないから、ワイヤーになる訳だが……。

 まず≪タロス≫の重量に耐え、かつ嵩張らないワイヤーとなると、かなり高コストの材質を用いる事になる」


 フムフムと三奈が頷くと、ポニーテールがピョコピョコと揺れる。


「次に、アンカーが大問題だ。コンクリートや金属、木など、色々な物質に打ち込める威力。≪タロス≫の重量プラスアルファに耐えるだけの保持力。最後に、相反する事だが、使い終わった後に簡単に引き抜ける能力が必要だ。しかも何回も使えないと意味が無い。

 これらの要求を満たすアンカーは存在しないし、開発するには非常に難度が高い」

「……分かってきました。打ち込んだアンカーが刺さらないとか、ぶら下がっている時にすっぽ抜けたら、大惨事ですもんね……」


 納得顔の三奈に、一彰は「その通り」と頷いて見せる。


「ワイヤーを棒に巻き付ける方法もあるけれど、使える場所が限られるし、簡単に外れなくなるから、ワイヤーは使い捨てにするしかなくなるんだ」

「とまあ、一彰さんの説明の通り、俺も便利そうだと思って提案したけれど、ハードルは高かったね」

「なるほど。さすが直也さんは、気付くのが早いですね」

「……おい。検討したのは俺だぞ」


 妹の賛辞を直也に奪われ、不満を零す一彰。


「さすが、お兄ちゃん?」

「コラ。なぜ疑問形だ?」


 取って付けたように三奈に褒められ、一彰は渋い顔をする。しかし目は笑っていた。


 直也、あけみ、彩華も、二人のやり取りに笑みを浮かべる。


「そのワイヤーだが、高速移動は出来ないけれど比較的コンパクトな物が出来た」


 一彰はそう言って、試作品の画像をスクリーンに映し出す。


「オプション扱いで、両腕か大腿部に取りつけられる」

「これは良さそうですね……。クレーン代わりや、近接戦闘に使えそうです」


 クレーン代わりというのは、例えば建物の上からワイヤーを下ろし、下から物を括り付けて持ち上げる使い方。そして近接戦闘は、至近距離からワイヤーを射出して相手を怯ませたり鞭のように振り回して攻撃する使い方だ。


「どう使うかは、お前達専門家に任せるよ」



 昼食を挟み、午後からは≪タロス≫などロボット兵器の改善について議論してから、シミュレーションルームに向かう。


「神威中尉。シミュレーターは空いてますので、ご自由にどうぞ」


 部屋にいる職員が、直也に声をかける。研究所にいた頃から頻繁にシミュレーターを使っていた直也は、“訓練好き”と周囲から見られていた。特に自身のメンテナンス後は必ず籠もっていたために、職員も直也が使うことを見越していたのだ。


 直也は「ありがとうございます」と返した後、彩華達に向き直る。しかし直也の“習性”を知っているのは職員だけでは無い。


「私も付き合いますよ」

「折角だから、私もやっていきましょう」

「僕もご一緒させてください」


 直也が確認するより早く、彩華、あけみ、三奈が揃って参加の意志を示す。先を越された直也は軽く目を見張ってから、苦笑交じりに「ありがとう」と声をかける。


 グリフォン中隊は、隊長でありエースの直也が(悪夢が現実になる事を避けるため)努力を惜しまないことから、隊員達もそれに引っ張られる形で訓練をする意識が根付いている。努力すればコントロール出来る≪タロス≫が増えるなど、成果が目に見える所や、戦闘中の咄嗟の判断と行動が、自分や仲間の命に直結するところも、やる気の維持に繋がっている。


 候補者達は今日もシミュレーターで訓練中だ。その様子を見学してから、直也達もシミュレーターに籠もるのだった。


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