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扶桑国戦記 (改訂版)  作者: 長幸 翠
第二章 第二次扶桑海海戦
40/98

ロボット VS ロボット2

この章は今回で終わりです。

次の章まで、しばらくお待ちください。

『02より10へ。後退する。もう少しよ』

「10了解です!」


 レックスは返答しながら、配下の≪タロス≫一~三番機の二十ミリ対物ライフルで前進してくるロボット兵器を狙撃する。既に市街地の近くまで後退しており後は無い。ケルベロス大隊の歩兵は、念のため市街地で迎撃準備を整えつつあるが、ロボット兵器を相手にしては損害が出ることは避けられない。唯一のいい話と言えば、あと十分ほどで増援が到着する事だ。


 これまでの戦闘で半数近くのロボット兵器を撃破または戦闘不能にしていたが、最大の脅威である≪BM-102≫は全て健在だ。敵部隊の後方にいることに加え、他のロボット兵器に比べて装甲が厚いためだ。


 それでも数度の後退で敵味方の距離が縮まっており、≪BM-102≫を狙いやすくなっている。


(この距離ならカメラを狙えるはず……)


 レックスは、対物ライフルで≪BM-102≫の車体を破壊する事は出来ないが、砲塔にあるカメラを破壊すれば無力化出来ると考えた。ちょうど他のロボット兵器の前進がかなり弱まっている事もあり、チャンスだと判断した。


「≪BM-102≫を狙撃します!」


 直接操作モードに切り替え、三機で≪BM-102≫の一機に狙いを定め、引き金を振り絞る。


 一定の速度で直進してくる≪BM-102≫を狙撃することは容易だった。三発の二十ミリ弾のうち一発がカメラに命中し、残る二発が三十ミリ機関砲と砲塔側面の対戦車ミサイルに命中する。


(よしっ!)


 ≪タロス≫一番機のカメラ越しに損傷を与えたこと確認し陣地変換しようとしたところで、敵の激しい反撃が始まった。


 被弾した一機を除く≪BM-102≫の砲塔全てがレックス配下の≪タロス≫三機に向き、三十ミリ機関砲を斉射したのだ。


 敵と味方の距離が縮まったと言うことは、敵からもこちらを狙いやすくなっている。


 フルオートで叩き込まれる三十ミリ弾の嵐に晒され、≪タロス≫一番機は頭部と右腕を失った。二番機は機体は無事だが対物ライフルを壊され、三番機は左手と右足の膝から下を吹き飛ばされる。不幸中の幸いと言えば、予備の武器と弾薬を搭載している非装甲の≪バーロウ≫を後ろに下げていたため無事だったくらいだろうか。ともあれ、レックスの手の中にあった≪タロス≫から戦闘力が失われた。


(しまった!!!)


 ≪タロス≫を一気に失った事で、レックスの中に後悔や焦り、不甲斐なさがゴチャまぜになって押し寄せる。それでも「10より02へ。≪タロス≫二機戦闘不能っ!! 一機は武器を喪失!」とあけみに報告する。


 あけみとレックスそれぞれの≪タロス≫の機体状況は常に共有されており、あけみも確認すれば分かることだが、戦闘中の余裕の無い状況では難しく、報告することを義務づけられている。


『02了解! 可能なら、出来る範囲で援護して!』


 幸い≪BM-102≫からの攻撃は収まっている。機体を破損した一、三番機をバリケードや建物の陰で待機させ、無事な二番機には予備の二十ミリ対物ライフルを持たせる。迫撃砲はひたすら敵部隊目がけて撃ち込んでいたが効果は薄く、残弾もなくなりつつある。


『カーバンクル07よりグリフォン02へ。敵ロボット部隊の増援が来ます……!』


 小康状態となり、あけみ達が体勢を立て直している間に、敵もまた再進撃の準備を進めていた。それまで戦っていたロボット兵器を下げ、後方から新たな機体を送り込んで来たのだ。


「……嘘でしょ?」


 思考が声となって漏れる。これにはあけみとレックスも戦意を失いそうになる。


 こちらが≪タロス≫を数機失い、弾薬も底が見え始めたと言うのに、敵はロボット兵器の数を回復してきた。戦力差はさらに広がっている。


『市街地まで下がりましょう!』

「ダメよ。ここで食い止める!」


 レックスの進言を言下に否定する。


 意地が全く無いとは言わないが、算段はある。既に市街地の外縁近くまで後退した事によって建物が増えている。これを使えば先程よりも上手く立ち回れるのだ。それに、増援があと十五分足らずで到着する見込みだ。


「グリフォン10、残っている発煙弾を撃ち込んで!」


 座標を送ると、侵攻ルートを予測して配下の≪タロス≫を配置につける。市街戦はシミュレーターで何百回とこなし、戦い方は心得ている。


「さあ、ラストスパートよ!」

『了解っ!』


 いつもより集中力が高まるのを感じながら、あけみは戦端を開いた。



『グリフォン02。こちらリントブルム大隊、第三戦車隊だ。よく持ちこたえてくれた。あとはこちらで対応する』

『グリフォン02、了解。感謝します!』


 ようやく到着した増援に、あけみがホッとした声音で答える。≪メーティス・システム≫を介した通信では、実際に声を発するのではなく思い浮かべた内容を、感情と合わせて発言者の声で再現している。だから本当にあけみが安堵していることを表していた。


 遮蔽物が増えたことでかなり戦いやすくなっていた。交戦距離は短くなり、物陰に隠れていた≪タロス≫が刀でロボット兵器を破壊する事も出来た。


 敵が榴弾砲や戦車を投入しなかったことも大きい。砲撃があれば容易に接近は出来なかったのだから。


 それでも五百メートルほど押し込まれ、あけみ配下の≪タロス≫二機が損傷していた。


 市街地から現れた≪九一式戦車≫が、走りながら百二十ミリ砲弾を発射する。≪タロス≫が苦戦した≪BM-102≫も、それなりの装甲を持つ戦闘車両でしかなく、戦車の相手ではない。容易に正面装甲を破られて沈黙する。


 敵のロボット部隊は、増援が来たことで即座に反転、潮が引くように撤退していくのであった。



「助かったわ。ありがとう」

「ありがとうございます」


 久滋龍一少尉と播磨エイミー曹長が≪九五式多脚指揮車≫から降りると、一足先に波田基地に戻っていたあけみとレックスが揃って頭を下げる。


 救援に向かったのはリントブルム大隊の戦車隊だけではない。グリフォン中隊からは龍一とエイミーのペアも出ていた。


「あけみんとレックス、おっつー」

「お疲れ。俺達は戦っていないけどな」


 素っ気なく返事をするエイミーと、頭を掻きながら笑う龍一。リントブルム大隊と一緒に向かったものの、≪タロス≫を降ろしている間に戦車隊が先行して敵を蹴散らしたため、龍一達が到着した時には敵は撤退していたのだ。エイミーは「あたしも敵のロボットと戦ってみたかった」と残念がっている。


 敵の撤退を確認した後、グリフォン中隊の四人と連れてきた部隊で戦場の掃除をした。主に破壊された≪タロス≫、それに敵のドローンやロボット兵器の回収だ。特に敵のロボット兵器は、その性能を知る為の貴重なサンプルとなる。戦闘で疲れていたあけみとレックスは途中で戻り、後から来た龍一とエイミーは最後まで残っていた。


「レックスー。敵のロボット見て来ようぜー」


 エイミーは、あけみと龍一が二人で話したそうな空気を敏感に感じ取ってレックスを連れ出そうとする。


「ええっ? 向こうに戻ってからでも……。あ、うん……。わかった」


 対してレックスは留まろうとするが、姉の合図に気付いて了承すると、「姉さんとみてきます」と声をかけて去って行く。残された二人もまた、並んでゆっくりと歩きだす。


 今回の戦闘結果は、≪タロス≫が五機損傷し≪カワセミ≪は一機撃墜、一機が中破となる。敵ロボット兵器は、合計二十機ほどを撃破した。また、敵の前進を阻止したことから成功と言えるだろう。しかしあけみの表情は暗い。


「≪カワセミ≫は見つかった?」

「いや……。やはり敵に鹵獲されていた」

「…………」


 あけみが目を伏せる。彼女がコントロールしていたうちの一機で、地上からの射撃によって撃墜されていた。≪カワセミ≫や≪タロス≫など≪メーティス・システム≫に対応した機体には特殊な通信ユニットを搭載しており、極めて機密度が高い。それが敵に渡ってしまったことに、あけみは責任を感じたのだろうと考え、安心させようと言葉を続ける。


「でも破壊信号は受け取ったから、気にしなくて良いってよ」


 ≪メーティス・システム≫に対応した機体には、敵の手に渡った場合の技術漏洩対策として、回路部分には自壊させる機能が標準で搭載されている。破損状況次第では使えない可能性もあるが、今回は無事に機能していた。


 しかしあけみの表情は優れない。


「それは良かったけれど、奪われてしまったことには変わりないでしょ……?」

「ま、まあ……。上は『奪われたら仕方ない』って言っていたし、機密は守られたんだからそこまで深刻になる必要ねえんじゃね?」

「それは良いんだけれど……。

 私のコントロールしていた機体が最初に鹵獲されたなんて、みんなに示しが付かないじゃない……」


 思いも寄らぬあけみの返事に、龍一は数秒間ポカーンと呆気にとられた後、「ブフッ!」と吹き出す。真面目に失敗を悔やんでいるかと思いきや、見栄を張っていただけなのだから。


「何よ……?」


 口をへの字に結び半眼で見つめてくるあけみに、龍一はさらに笑いそうになるが、なんとかこらえる。


「いや……。ごめんごめん」


 あけみはグリフォン中隊のオペレーター達にとって、副隊長であると共に頼れるお姉さんとしても見られている。そのイメージを壊されたくないのだろう。あるいは意中の人である直也を意識しているかもしれないが。


 無言で睨んでくるあけみに、(苦労してんだな)と思いつつ龍一は話を戻す。


「まあ、とにかくだ。既に連絡行っている通り、この後は俺とエイミーが引き継ぐ。あけみちゃんとレックスは、由良基地に戻って戦闘の報告して欲しいってよ。初めてのロボット同士の戦いだから、色々聞かれるだろうな」

「そうね。報告書は一通り書いたけれど、由良基地に戻る間に見直しておくわ」


 波田基地に戻るまでの間に、あけみは報告書を一通り書き上げていた。≪メーティス・システム≫を使えば、戦闘ログや映像を確認しながら、キーボードを使わずに思考で文章を書き上げられる。そのお陰で簡単かつ素早く報告書を書けるのだ。


 その後もあけみと龍一が口頭で引き継ぎをしていると、エイミーとレックスの姉弟が戻ってくる。


「あけみーん。そろそろ由良基地に帰るってー」


 エイミーが、あけみとレックスと一緒に由良基地に戻る部隊の準備が出来た事を伝える。


 グリフォン中隊のオペレーター達は年齢が近く仲が良い事、そして直也と彩華、エイミーとレックスは名字が重複する事から互いを名字ではなく名で呼びあっている。大体は呼び捨てだったり“さん”“君”“ちゃん”を付けているが、その中でもエイミーは、相手にあだ名を付けており独特だ。


 一部を挙げると、直也と彩華は幼馴染みなこともあり、それぞれ“直兄”“彩姉”と呼んでいる。あけみは“あけみん”、久子は“ひーちゃん”だ。


 直也は以前、あけみから「直也君も“あけみん”と呼んで良いのよ?」と言われた。だが直也は「俺には、ハードルが高いです……」と少し照れながら辞退していた。


「龍一君とエイミー、あとはよろしくね」

「龍一さんと姉さん、お先です」

「おう。気をつけてな」

「おつかれー」


 あけみとレックス、龍一とエイミーのペアは、それぞれの≪九五式多脚指揮車≫に戻っていくのだった。


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