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扶桑国戦記 (改訂版)  作者: 長幸 翠
第二章 第二次扶桑海海戦
39/99

ロボット VS ロボット1

 統合機動部隊の陸上部隊には、偵察中隊が存在する。その名はカーバンクル中隊と言う。グリフォン中隊で使用する≪カワセミ≫を始め大小様々なドローンを駆使し、ある時は単身でバイク移動し無線操縦の小型ドローンで偵察し、またある時は≪カワセミ≫を超える大型のドローンで地上を監視する。戦闘能力は非常に低いが重要な部隊だ。この部隊は今、統合機動部隊の他の部隊と共に由良基地やその南方の波田基地を拠点として周辺の哨戒任務に当たっていた。


 グリフォン中隊の≪タロス≫が初めて戦場に出現すると、ズレヴィナ軍はパタリと進撃を止めていた。これは新兵器≪タロス≫を警戒していたからに他ならない


 だが第二次扶桑海海戦の前日よりズレヴィナ軍の動きが再び活発化し、海戦の翌日、ついにズレヴィナ軍が由良市に向けて行動を開始した。


 由良市の南方にある小都市、波田市に通じる国道三〇三号線を哨戒しているカーバンクル中隊から、敵地上部隊発見の報告が届き、待機していた出雲あけみ中尉と播磨レックス曹長のペアが出撃する。二人がコントロールするのは≪タロス≫十機、迫撃砲搭載≪バーロウ≫二機、武器弾薬を搭載した非武装の≪バーロウ≫四機、それに偵察ドローン≪カワセミ≫四機である。


 薄曇りの空模様の中、二人の乗る≪九五式多脚指揮車≫や≪タロス≫を搭載したトラック、そしてケルベロス大隊の歩兵を乗せた車両の列が南東へと向かう。


 最前線となる波田基地には、戦車隊などの兵力も詰めていたが、西の海岸沿いに走る国道八号線にも敵が出現したことから、分散して対処することとなった。また、由良基地から増援部隊が出撃準備を進めているものの、五十キロ離れていることからしばらくは現有戦力だけで敵を阻止しなければならない。


 現地への道すがら、リモートでブリーフィングを行う。メンバーは由良基地の出雲大佐、敵を発見したカーバンクル中隊の兵士、あけみ、それに同行しているケルベロス大隊の第三中隊長だ。他にレックスも参加している。


『敵の規模から、威力偵察と考えられるが……。問題は、ロボット兵器が確認されている事だ』


 出雲大佐が言葉を切ると、視界の一角にカーバンクル中隊のドローンが撮影した映像が映る。六脚を持つ偵察用ロボット兵器≪BM-3≫十六機を先頭に、歩兵に相当する≪BM-17≫二十四機と三〇ミリ機関砲を装備する≪BM-102≫八機が続く。さらに二、三キロ後方には複数の車両が連なっていた。こちらがロボットをコントロールしている本隊だろう。


「敵戦力を考えると、市街地で迎撃するべきと考えますが?」


 あけみが意見を述べる。≪タロス≫は言わば強力な歩兵であり、建物など遮蔽物が多い場所での戦闘を得意とする。それに対し上層部から指示された迎撃ポントは波田市の郊外で、道路には敵の侵攻を阻止するためのバリケードや、路外にはいくつか建物はあるが、基本的に見通しが良い。


『本来なら中尉の言う通りだが、今回は事情があるため外で戦ってほしい』


 続けて出雲大佐が理由を説明する。簡単にまとめると、来るべき反攻作戦に備え、市街地にはセンサーやカメラ、罠を仕掛けてある。それを敵に発見されたくないと言うのだ。


『もちろん不利になった場合は市街地への後退を認める。しかし可能なら外で撃退してほしい』


 言外に(出来るだろう?)と考えを滲ませる出雲大佐。見通しの利く地形での戦闘は、シミュレーターで幾度も経験しており同じとも言える。ただ今回は、やり直しのきかない本番であり、少しの不安は残る。


「了解しました。最善を尽くします」

『すまないな。敵を撃退するか、増援が到着するまで持ちこたえてくれ』


 出雲大佐がブリーフィングから退出し、残ったメンバーで話を続ける。歩兵のみの第三中隊はあけみ達が抜かれた時のために後方で防衛ラインを敷き、カーバンクル中隊は戦場を上空から監視する事となった。



 今回あけみとレックスの二人は、≪九五式多脚指揮車≫からコントロールする。降車位置に到着すると≪メーティス・システム≫を起動し、トラックから≪タロス≫を降ろして数キロ先の戦場へ移動を開始する。≪タロス≫の身長は二メートルもあり、前後左右のサイズも人より大きく、歩兵戦闘車や装甲兵員輸送車で直接戦場に乗り付け、下車して戦闘に入る事は出来ない。


 さらに前進し迎撃地点に到着すると、≪タロス≫は配置につく。前衛はあけみ、後衛はレックスだ。


『グリフォン10、配置につきました』


 レックスから通信が入り、あけみは「グリフォン02、了解」と返す。


 数分後、ついに敵が現れた。五機の≪R-11≫偵察ドローンが空を滑るように進んでくる。そこにあけみとレックスの≪カワセミ≫四機が急降下で襲いかかった。


 三百メートルまで接近した≪カワセミ≫が小型対空ミサイルを発射する。前回の戦闘でも効果のあった戦法だ。しかし≪R-11≫は、前と異なり急に左右に進路を変える。辛うじて二機を撃墜したが、残りは逃げられてしまった。


「!? 回避した?」

『敵ドローンがかわした!?』


 あけみとレックスが、揃って驚きの声を上げる。今まで何度か≪R-11≫と交戦しているが、いままで回避する素振りは無かったし、他の部隊からかも報告は入っていなかったのだ。


「グリフォン10。次は≪カワセミ≫を相手にしていると思って迎撃して」

『りょ、了解!』


 軽く動揺を見せるレックスに注意を促す。シミュレーターでは回避行動を取るドローンのモデルとして≪カワセミ≫を相手にした戦闘も訓練していた。


(敵も日々進歩しているのね)


 続いて、地上をロボット兵器が進んでくる。ドローンが交戦したことで、既に戦闘態勢に入っていた。


『グリフォン02より10。煙幕展開っ!』


 あけみの指示を受け、レックス配下の迫撃砲搭載≪バーロウ≫二機が発煙弾を発射する。ほぼ時を同じくして≪BM-102≫が三〇ミリ機関砲を発砲、その援護射撃の中を≪BM-3≫と≪BM-17≫が前進してくる。


「慌てずに、引き付けて……」


 彼我の距離はまだ二キロメートル以上あり、≪タロス≫は遮蔽物の陰にいるため当たることは無い。それでも時折至近に弾丸が命中し火花やコンクリート片、土煙を巻き上げると身を竦ませそうになる。遠隔操作の≪タロス≫を通してこれなのだから、生身の兵士としてその場にいたなら、恐怖はどれ程だろうか。


 じっとこらえていると、発煙弾が着弾し敵との間に煙幕が広がっていく。視界が無くなると、敵からの発砲も止む。


『敵ドローンが来ます!』


 カーバンクル中隊から通信が入り、あけみは咄嗟に配下の≪カワセミ≫二機を迎撃に向かわせる。


 ≪R-11≫二機が煙幕を抜けて来た所に、残っていた小型対空ミサイルを発射。一機を撃ち落としたが、もう一機には避けられる。


(鬱陶しい……!)


 ≪カワセミ≫ほどでは無いが、≪R-11≫の回避行動は厄介だ。しかも敵ドローンを残せば、こちらの配置が筒抜けになるため、できるだけ早く撃ち落とさなければならない。


 配下の≪カワセミ≫に後退指示を出した直後、≪カワセミ≫を狙って猛然と対空射撃が始まった。


(誘い出されたの!?)


 咄嗟に≪カワセミ≫に回避指示を出すが間に合わず、一機がアッという間に蜂の巣にされる。もう一機はローターを一つ吹き飛ばされながら、何とか逃げ切ることに成功した。


(くっ……!!)


 自らの迂闊さに歯噛みするあけみ。しかし気持ちを切り替え、≪タロス≫の携帯式地対空ミサイルで残っていた≪R-11≫を始末する。そして敵を待ち受けるべく、地上に意識を凝らした。


 敵は煙幕によって視認出来ないが、カーバンクル中隊のドローンに搭載しているレーダーで位置は把握している。


 ≪BM-3≫と≪BM-17≫が一斉に煙幕を抜けてくる。


「攻撃開始。≪BM-102≫には気をつけて」

「10了解っ」


 ≪タロス≫十機による迎撃が始まる。


 あけみ配下の重装型≪タロス≫五番機、六番機の持つ十二・七ミリ多銃身機関銃が弾幕を張り、他が対戦車ミサイルで≪BM-17≫を攻撃する。ある≪BM-3≫は、六本の脚のうち四本を吹き飛ばされた上に胴体にも十二・七ミリ銃弾をしこたま食らって動きを止め、正面装甲にミサイルが直撃した≪BM-17≫が動きを止める。


 後衛のレックスも攻撃に加わる。迫撃砲搭載≪バーロウ≫二機からの支援射撃の他、≪タロス≫一~三番機の持つ二十ミリ対物ライフルが猛然と火を噴く。対戦車ミサイルによって履帯が外れ、動けなくなった≪BM-17≫が、装甲の薄い砲塔に銃弾を撃ち込まれてトドメを刺される。障害物の間を通り抜けようとした≪BM-3≫の先頭が、胴体を狙撃されて擱座し道を塞ぐ。後ろに続いていた≪BM-3≫や≪BM-17≫が、あけみの≪タロス≫から一斉攻撃を受けて次々と破壊されていく。


 あけみ達の攻撃で数機のロボット兵器が擱座するが、残りはなおも前進してくる。さらに煙幕の中から≪BM-102≫の支援射撃が再開され、≪タロス≫が退避を余儀なくされる。距離を詰めてきた≪BM-17≫からはグレネード弾による攻撃も始まる。


「02より10へ。後退するから援護をお願い」

『10了解!』


 その後もあけみとレックスのペアは、攻撃しては少し後退を繰り返し、敵の前進を阻みながら時間稼ぎを行う。


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