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扶桑国戦記 (改訂版)  作者: 長幸 翠
第二章 第二次扶桑海海戦
30/98

航空戦3

 ナディム基地を出撃した虎の子の≪Ab-34≫戦闘爆撃機三十機と護衛機からなる総勢九十二機は、三隊に分けた飛行隊の最大戦力、そして精鋭だった。


 基地を出撃後、東に向かっていた飛行隊は進路を変え、友軍右翼――敵軍左翼となる南西側から攻撃をするべく高度九千メートルを飛行中だ。


『敵のジャミングにより、我が軍の行動に影響が出ているそうだ。この為、攻撃地点を変更する』


 隊長機からの無線と共に、戦術マップがアップデートされる。友軍艦艇が近くにいたため、ジャミングを上回る強力な電波によって一時的にデータリンクが復旧した形だ。それも束の間、すぐにデータリンクが途切れる。


『今回の戦い、厳しくなりそうですね』


 後席のミハイルの言葉に、イサークは「そうだな」と返しながら、新たなルートを確認する。当初の攻撃地点は、敵艦隊の南西からであったが、西に変更されている。


(きっと他の隊は“厳しい”では済まないだろうな)


 リゴラ基地から出撃し北東側から攻撃するリゴラ隊、空母≪ナヴァリン≫から出撃し北西側から攻撃するナヴァリン隊が持つ空対艦ミサイルは、機体の性能上、ナディム隊のものより旧式で、低速かつ射程が短い。敵艦隊へ同時に着弾させるためには、より敵艦隊に接近する必要がある。時間的には既に攻撃地点に到達しているはずだが、データリンクから送られてきた情報に他の隊の状況は表示されていなかった。


 データリンクの途絶によって状況が分からないのか、それとも攻撃に失敗したのか……。


 敵のジャミングによって、前の海戦の意趣返しとなっている現状に、イサークは嫌な予感を拭いきれない。


 飛行隊で三方向から同時に空対艦ミサイルで攻撃する作戦は、イサークの乗る≪Ab-34≫からの攻撃が本命であるため、護衛が多い。しかし他の二隊――ナヴァリン隊とリゴラ隊――は少し規模が小さい。


 特にリゴラ隊の攻撃隊は、旧式で速度の劣る≪Ab-25≫戦闘攻撃機と言うのが大きな懸念だ。過去に搭乗していた経験上、戦闘機と戦うこと……、特に空対艦ミサイルを腹に抱えた状態での交戦は、絶対に避けなければならなかった。


 前の編隊が進路を変えると、程なくして愛機の自動操縦も更新されたルートに従って機体を軽く旋回させる。


 少しずつ高度を上げて攻撃地点へと移動しつつある攻撃隊だったが、別行動をしている護衛隊からの『敵機発見!』の報によって俄に色めき立つ。


『攻撃隊各機、予想より敵の動きが速い。護衛隊が踏ん張っているうちに、我々は攻撃地点へ急行する。付いてこい!』


 攻撃隊の隊長は、配下の攻撃隊に通信を送ると、手動操縦に切り替えて翼を軽く振り、加速する。


 攻撃隊の三十機は、一斉にオレンジ色の炎を引いて高度を上げていった。


――――


 南側のナディム隊に対するは、航空宇宙軍だ。由良市近郊や周辺の空港から出撃した迎撃隊は、≪F-17≫戦闘機が三十機、そしてマルチロール機である≪F-33≫十機で構成された有人機が四十機、それにドローンの≪MQ-12B≫五十機を合わせた計九十機だ。


 対するズレヴィナ軍は、主力マルチロール機の≪Ab-30≫が三十機、可変翼を持つ旧式戦闘機の≪Vo-31≫が四十機、そしてアホートニク飛行隊が駆る≪Vo-51≫が十二機の、計八十二機の護衛機。そして攻撃隊は≪Ab-34≫戦闘爆撃機が三十機。


 敵の主要な航空宇宙軍基地である、ナディム基地からの攻撃が多いと予測していた扶桑軍は、統合機動部隊ではなく航空宇宙軍を割り当てていた。それは航空宇宙軍の顔を立てる意味よりも、統合機動部隊の飛行隊の持つ有人機が合計二十二機と少ない為であった。


 先の海戦では、電子戦に敗北したこともあり航空機の損失は多かった。しかし亜州随一の練度と交戦意欲を誇るパイロットの損失は少なかった。これはパイロットの状況判断の的確さ――機を捨て生き残ることを優先した――もあるが、黒崎島近海の戦闘だったため、救助ヘリを多数投入し救助出来たことも大きい。


 パイロット達の、雪辱戦とも言えるこの海戦に賭ける意気込みは並大抵では無かった。


 扶桑軍は、迎撃機の一部を敵攻撃隊へと差し向けると、残りは敵の護衛隊へと襲いかかった。


 有人機より先行させた≪MQ-12B≫は、ジャミングにより電子の目を失った敵護衛隊の近くまで接近すると、中距離空対空ミサイルを斉射した。


 ミサイルを回避しきれなかった≪Ab-30≫が主翼に直撃を食らうと、自らのミサイルに誘爆してオレンジ色の火球となり四散する。


 三発のミサイルに追われながらも、果敢に空対空ミサイルを放ち、ベイルアウトする≪Ab-30≫。


 炸裂したミサイルの破片を片方のエンジンに食らい、黒煙を吹きながら離脱を図る≪Vo-31≫。


 ≪MQ-13A≫によるミサイル誘導が無いため、決して命中率は高くなかった。しかし不意打ちによって、ナディム基地から出撃した護衛隊は初撃で十機以上を失った。


 回避行動をとり体勢を崩した敵編隊に対し、後続の有人機が獲物を狙う肉食獣さながらに襲いかかる。空はたちまち敵味方の乱戦となった。


 ズレヴィナ軍は不意を突かれたものの、それでも有人機の数は扶桑軍の倍である。数の多さを頼みに体勢を立て直していく。


『敵の有人機は少ない。複数機で行動し、確実に仕留めろ!』


 護衛隊の隊長機からの檄が飛び、萎みかけていた隊員達の闘争心に再び火を灯す。


 ≪F-33≫の一機が放った短距離空対空ミサイルを、ミサイルとフレアを撃ち尽した≪Ab-30≫が身代わりとなって喰らう。間隙を縫って接近した≪Vo-31≫は全開にした可変翼とエアブレーキで急旋回し、必中の位置からミサイルを放つ。それに気付いた≪F-33≫は緊急回避を図るが間に合わない。胴体に直撃を受けた機体がパイロットを吐き出した後、火だるまとなって落ちていく。


 三発のミサイルに追われた≪F-17≫が、矢のような勢いで海面に向かい急降下していく。海面近くまで降下し急上昇をかけると、追尾していたミサイルは旋回しきれずに海面に水柱を上げる。


 春の穏やかな青空の下、百機余りが乱舞する戦場は苛烈を極めていた。大空の青いキャンバスに、赤やオレンジ、黒色の染みが彩りを添えていく。


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