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扶桑国戦記 (改訂版)  作者: 長幸 翠
第一章 統合機動部隊
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友軍救出作戦4

 チャーリー小隊は友軍と合流するため、陣地のある山頂へ北側から登っていた。既に友軍へは敵部隊の排除を完了していること、人型のロボット兵器がいる事は無線で連絡済みだ。


 誤射を避けるため、武器使用を無効にした≪タロス≫と≪バーロウ≫が粛々と山を登っていく。数十分後、陣地から撤収する準備をしている友軍と合流した。



(これは、酷いな……)


 龍一は、チャーリー小隊の先頭を進ませる≪タロス≫一、二番機を直接操作モードでコントロールしながら、山頂にいる兵士達の様子を見ていた。


 敵から主力を逃がすため殿を務めた第十二師団の兵士達。執拗な追撃によって数を減らしながらも戦意を失わず、友軍が残した陣地に立て籠もっていた。極度の緊張を強いられ続け、誰もが疲労を色濃く滲ませている。顔や手足に包帯を巻いている者、枝を杖代わりにしている者もいる。


『大きな犠牲は出てしまいましたが、間に合って良かったですね』

「ああ……。本当に良かった」


 久子の言葉に、龍一は心から同意する。本来、撤退する友軍の最後尾は統合機動部隊が護衛する予定だった。しかし陸軍は、統合機動部隊の支援を不要としたため部隊を派遣できず、結果として敵の追撃を許してしまった。


 信憑性の高い噂では、陸軍参謀総長の朝加部大将が神威中将を嫌っている事が理由と言われる。本当であれば個人のつまらない感情によって第十二師団が損害を受け、多くの兵士達が命を落としたことになる。


 扶桑軍にはいくつかの派閥がある。朝加部大将率いる朝加部派は、特に陸軍で強い勢力を持つ、扶桑軍最大の派閥だ。次いで海軍主体の楠美野派、他にもいくつかの派閥はあるが、その中に神威中将が立ち上げた神威派もあり、朝加部派と犬猿の仲であった。


 チャーリー小隊が近づくにつれ、山頂で待機する第十二師団の兵士達が集まってくる。その誰もが、初めて目にする≪タロス≫や≪バーロウ≫の姿に釘付けになっている。興味、驚嘆、畏怖といった表情をするものも多い。簡単に言うと、滅茶苦茶目立っていた。


(何か、注目されすぎて落ち着かない)


 背中をくすぐられるような感覚に襲われる龍一であった。



 山頂にたどり着いたチャーリー小隊の元に、数人の兵士を引き連れた壮年の士官が歩み寄る。表情からは疲れが滲み出ているものの、足取りはしっかりしていた。


『統合機動部隊、グリフォン中隊の久滋龍一少尉です』


 龍一は≪タロス≫のスピーカー越しにそう言うと、一番機に敬礼をさせる。


「第十二師団、第二大隊の九鬼康宏少佐だ。救援に感謝する」


 九鬼少佐は≪タロス≫を見上げながら敬礼を返すと、そのまま右手を差し出す。龍一は≪タロス≫一番機の右手を出し、その手を軽く握る。


 ≪タロス≫のあまりのスムーズな動きに、九鬼少佐は目を見張る。


「遠隔操縦のロボットと聞いていたが、握手も出来るのだな。……実は人が入っていたりしないよな?」

『間違いなく、遠隔操縦のロボットです』


 そう答え、苦笑する龍一。九鬼少佐は「そうか」と笑いながら右手を下ろすと、今度は≪タロス≫に近寄りベタベタと触り始めた。よほど興味があるらしい。後ろに控えていた兵士達も、困惑と共に九鬼少佐を見ている。


『あの……、少佐。国道の敵も排除しましたので、準備が出来次第、下山したいと思うのですが……?』


 困惑しきった龍一の声が、≪タロス≫のスピーカーからこぼれると、九鬼少佐は楽しそうに「いや、すまんすまん」と返すのだった。



 そんなやり取りをしている外では、久子が他の兵士達と共に撤収準備を進めていた。


 初めは身長二メートルもある無骨な≪タロス≫から聞こえてくる若い女性の声に驚いていた兵士達だが、多数の敵に包囲されていた絶望的な状況を脱した反動か、とても陽気になっていた。疲労も色濃い筈なのに、足取りはとても軽く見える。


 負傷し満足に身動き出来ない兵士、そして戦友の遺体を、空荷の≪バーロウ≫に載せていく。残った装備は≪タロス≫に持たせ、友軍部隊とチャーリー小隊は下山する。一度では全て運びきれない為、≪バーロウ≫と≪タロス≫は数回往復し、山頂の陣地からの撤収を完了したのであった。


――――


 国道八号線で扶桑軍の救援部隊を阻止していた戦車隊が攻撃されているとの報に、西側斜面の南方で包囲していた第八十一独立親衛自動車化狙撃旅団に所属する歩兵に反撃の命が下った。攻撃目標は、山の上から迫撃砲弾を撃ち込み続ける敵部隊だ。


 敵の立て籠もる陣地の西側には、一個歩兵大隊と一個戦車中隊が展開していた。道幅が狭く大部隊を展開できないが、敵は弱体化した歩兵部隊である。兵力的には十分と判断されていた。


 しかし、想定外に苛烈な攻撃を受けている。攻撃位置から、立て籠もっていた部隊ではなく増援であることは明白であった。しかし増援にしては、到着が余りにも早すぎた。


 敵の広域ジャミングによって、遙か南方で指揮を執る旅団本部、そして敵陣の東に控える友軍の山岳大隊とも通信は途絶している。


「第二、第三、第四中隊で敵を攻撃する。先鋒は第二中隊、我々は殿だ」


 大隊からの指示を受け、第四中隊の中隊長は配下の小隊全てに移動を命じる。三個中隊の約三百名は、敵が潜む山中へと移動を開始する。


 この大隊では、つい二ヶ月前にパワードスーツ≪ジウーク≫が正式配備されていた。扶桑国侵攻によって、イコルニウムを使った大容量バッテリーの大量生産が可能となったお陰だ。それ以前のパワードスーツは、背中にバックパックのような巨大で重いバッテリーを背負いながらも稼働時間は二時間ほどと、実用的ではなかった。今は二リットル入りペットボトル程度の大きさで六時間動き回れる程に改善されている。


 ≪ジウーク≫は山岳歩兵旅団の≪スケリェット≫とは違い、関節を除けば七・六二ミリまでの銃弾に耐える装甲を持つ。また、パワーアシストで六十キロの荷物を持ったまま、(装着者の体力が続く限り)時速十キロ程度で行軍し続けられる。


 この性能から、扶桑軍の増援部隊を圧倒出来る判断されたのだ。


 敵までの距離は約七キロメートル。今回は敵歩兵との戦闘を想定しているため、必要な武器弾薬以外の荷物は持っていない。警戒しながら移動すると一時間近くかかる見込みだった。しかし移動を開始して三十分後、突如先行していた偵察ドローンが撃墜され、続いて前方を進む第二中隊の方角から銃声と爆発音が聞こえてきた。


『こち…第二中隊! 前方お……左右か…攻……受けて…る! …急援…を!』


 無線機からノイズ混じりに切迫した声が響く。


『第四中隊、こ…ら第三中隊…。我々は第二中隊の救援…向かう。支援…てくれ』


 続いて第三中隊からも、支援の依頼が来る。


「第二、第三中隊を援護する! 迫撃砲小隊は射撃準備! 残りは前進だ!」


 中隊長は迫撃砲陣地の準備を指示すると、残りを率いて前進する。だか間もなく、先程より近くから発砲音や爆発音が聞こえてくる。


『…ちら第三…隊! 敵…急襲を受けて…る! 至急、援護…!!』


 次は前にいる第三中隊からの救援依頼だ。


 十分に訓練を積んだ仲間達が、一方的な攻撃に晒されている事が信じられず、中隊に動揺が広がっていく。


「中隊長、この銃声は……」

「ああ。重機関銃だろうな」

「こんな山の中に持ち込んでいるのでしょうか?」

「もしかして……、敵もパワードスーツを使っているのかもしれん」


 軽機関銃のものとは違う重い銃声から、敵が十二・七ミリ重機関銃を持っていると推測する。しかし重機関銃は重く持ち運びにくい上に設置しないと射撃出来ない銃だ。そんな物を用意して、尚且つ通常の歩兵を上回る速度で移動している。この事から、敵もパワードスーツを実用化している可能性が高いと推測する。


(早く救援に向かいたいが、迂闊に動いてもこちらが襲われる可能性がある……)


 逸る気持ちを抑え、中隊長は一個小隊を偵察のために先行させ、残りは周囲に警戒しながら慎重に進んでいく。パワードスーツ≪ジウーク≫を装着し、装甲と筋力は補助されているが、レーダーやセンサーは搭載しておらず、索敵は各自の目や耳に頼るしかない。


 しばらく進んで行くと、先行していた小隊が第二、第三中隊の生き残りと合流したと報告が入った。すぐさま数名の兵士が中隊長の下にやってくる。


「第二、第三中隊はどうなっている?」


 中隊長の問いに、やってきた第二中隊の兵士が「……壊滅しました」と恐怖に顔を強ばらせる。


 話によると、先頭の第二中隊は対人地雷によって動きを止めたところ、前方そして左右から突如猛攻を受けたそうだ。中隊長と小隊長が真っ先に狙われ、指揮官を失った中隊は総崩れとなった。何とか後退した第二中隊が第三中隊と合流したところで、今度は第三中隊が左右から攻撃を受け、這う這うの体で後退したという。


 銃弾が≪ジウーク≫の装甲を貫通することから、重機関銃を持っているという推測は正しいことが分かった。


「敵の姿は?」


 その問いに、別の兵士が「遠目でしか確認出来ませんでしたが……。フルフェイスヘルメットと装甲を纏っており、普通の兵士には見えませんでした」と答える。


「やはり、敵もパワードスーツを使っている可能性が高い」


 中隊長はそう結論付ける。出撃した迎撃部隊は手も足も出ないまま攻撃され、第二、第三中隊の生き残りを合わせても半数近くまで数を減らしていることから、≪ジウーク≫より遙かに高性能に違い無い。


 任務遂行は不可能と判断した中隊長は、急いで部隊を帰還させることにした。だが中隊長は知らなかった。既に逃げ時を失している事に。


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