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扶桑国戦記 (改訂版)  作者: 長幸 翠
第一章 統合機動部隊
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友軍救出作戦1

第一章が終わるまで、2,3日おきに投稿する予定です。

 ≪カワセミ≫が上空から進路上を警戒、全面と側面に展開した≪タロス≫が接敵に備え、その後を≪バーロウ≫と≪九五式多脚装甲車≫が進む。木々は数メートル間隔で生えているため、多脚装甲車の移動にも支障は無い。


「改めて状況と作戦を説明する。友軍、第十二師団は北への撤退中に、山岳地帯東側から攻撃を受けて総崩れとなった。大部分は損害を出しながらも撤退に成功したが、殿を務めた歩兵二個大隊が敵部隊に包囲され、山頂に構築してあった陣地に立て籠もっている。

 俺達はこの友軍の救助に向かう。

 アルファ、チャーリー、デルタ小隊は南下し、友軍北側、及び東側の山中に布陣する二個山岳大隊を攻撃する。これ排除したのち、チャーリー小隊が友軍と合流し、西側の海岸線沿いにある国道八号線まで撤退を支援する。ブラボー、エコー小隊は西へ向かい、国道上と友軍西側の敵部隊を排除して退路を確保する。

 敵の山岳大隊は、我々が接近中であることは知っているが、山中をこの速さで突破してくることは考えていないはずだ。一気に突き崩す」


 道の無い山中の移動に通常の車両は使えない。もし徒歩で四十キロメートル移動するなら半日以上かかり、友軍の救援に間に合わない。そこをロボット兵器と多脚車両の走破性と機動力を使って短時間で走破し、≪タロス≫の攻撃力で粉砕する作戦だ。


 ロボット兵器が無ければ海岸沿いの国道八号線からのルートしか無い。本隊はこちらから進んでいる。しかし、国道の両側は海と山に挟まれた隘路だ。敵は救援を見越して国道上に戦車隊を配備し待ち構えているはずで、身動きの取れない場所で正面からの撃ち合いになるため、突破するにもかなりの時間と損害を覚悟する必要がある。また、攻撃機や戦闘ヘリ、攻撃ドローンを飛ばそうにも、山中からの対空ミサイルが脅威でおいそれと近づけない。ロボット兵器が無ければ、救援は絶望的であった。


「各員、友軍はビーコンを持っていない。誤射には最大限注意」


 ≪タロス≫は基本的に敵味方をIFFまたはビーコンで判別している。画像認識で判別しようにも、完璧ではなく誤射の危険性がある。そのため、一緒に戦闘する際は歩兵にビーコンを持たせることになっていた。


 グリフォン中隊は山中でまず南と西の二手に分かれた。南へはアルファ、チャーリー、デルタ小隊が。西へはブラボー、エコー小隊。


 直也達三小隊はさらに南へ進み、約二時間後、出撃地点から三十キロメートル南方へと到達。そこで直也は指示を出す。


「アルファ、デルタ小隊はこのまま南下し敵後方へ。チャーリー小隊は予定通り西へ向かい、友軍陣地北の敵を側面から攻撃。

 グリフォン02、友軍を頼む」

『02了解。そちらもしっかりな』

「ああ」


 龍一(02)と久子(06)のチャーリー小隊が離れていく。アルファ小隊、デルタ小隊はそのまま南下していくのだった。



「02より06へ。≪バーロウ≫五機スイッチする」

『06了解』


 襲撃地点に近づき、チャーリー小隊の久滋龍一少尉は、ペアの伊吹久子曹長に声をかける。≪バーロウ≫五機を引き渡し、代わりに≪タロス≫二機のコントロールを引き受けて襲撃準備を整える。龍一が前衛で突撃を、久子が後衛で支援攻撃を担う。龍一がコントロールしていた≪バーロウ≫は空荷で、友軍兵士や物資の輸送のために持ってきた。戦闘に使えない機体を預け、戦闘用の機体を引き受けたのだ。


 それから二十分後、友軍の北側に布陣する敵部隊を発見した。敵部隊は友軍を包囲するために東西に広がり南側を警戒した陣形で、チャーリー小隊のいる東側の警戒は手薄だ。捕捉されない距離から≪カワセミ≫で敵部隊の規模と配置を探り、攻撃準備を進めていく。上空からは木々に阻まれて完全な配置の把握は難しいが、発見した敵は二個中隊、約三百人。塹壕や蛸壺を掘り、機関銃座が南を睨む。その後方、少し開けた場所に敵の迫撃砲を発見する。すぐさま久子は、配下の迫撃砲搭載≪バーロウ≫の最優先攻撃目標に設定する。


『06より、攻撃準備完了』

「02了解。アルファ、デルタ小隊の配置完了まで待機」

『了解』


 久子は普段、おっとりとした人柄ではあるが、戦場ではキリッとしたキャラクターに一変する。全体の状況判断が非常に上手く、優れた指揮能力を発揮する。反面、咄嗟の対応は苦手である。


 龍一は短距離から中距離の戦闘、特に攻撃を得意とする。


 前衛向きの龍一と後衛向きの久子は、互いに補完し合うコンビだ。


 龍一はリアルタイムに更新される他の小隊の状況を確認する。アルファ、デルタ小隊は北側の敵山岳大隊の、南北に広がった陣の背後へと回り込みつつある。ブラボー、エコー小隊は、西海岸線沿いの、国道を見下ろす坂の上へと移動中だ。他の部隊が配置に付く前に攻撃すると、敵に余計な警戒心を与えてしまうので、できる限り足並みを揃えて攻撃を開始したい所だ。しかし思い通りには行かない。


『06より02へ。敵偵察ドローンを捕捉。このままでは三分後に発見されます』


 久子からの通信だ。他の小隊は、配置完了まであと七、八分かかるため間に合わない。


「攻撃するべき、だよな?」

『はい』


 内心では既に行動を決めていたが、念のため確認する龍一。間髪入れず返ってくる久子の言葉に、無意識に舌打ちしてから「わかった」と告げる。


「グリフォン02より各員。敵ドローン接近中。二分三十秒後に攻撃を開始する」


 各隊に通信を入れる。


『グリフォン01、了解した。少し早いが初めてくれ』


 直也からの応答。


 攻撃開始数秒前にジャミングを開始。久子に攻撃指示を与えた。


 敵の索敵範囲外に待機していた≪カワセミ≫二機が敵の索敵ドローンに急速接近し、一斉に超小型対空ミサイルを発射する。このミサイルは対ドローンや対人用に開発されたもので、射程が短く炸薬量も少ない。航空機やヘリに対して効果は無いが、偵察用の小型ドローンや生身の兵士に対しては十分な威力を持っている。


 発射されたミサイルは、同じく二機の敵偵察ドローンへと襲いかかった。近接信管で炸裂したミサイルの破片によって、一機はバッテリーに被弾して空中で爆発、もう一機は四基あるローターの半数をへし折られ、バランスを崩して落ちていく。


 偵察ドローンの排除が終わると、三門の迫撃砲による砲撃を開始した。砲弾は敵迫撃砲陣地に着弾すると、迫撃砲と周囲にいた敵兵をまとめてなぎ払う。四門あった迫撃砲陣地を、瞬く間に無力化していく。


 続いて歩兵に目標を変更する。予想だにしない側面からの砲撃に、敵部隊は大混乱に陥っていた。兵士達は砲撃開始直後、慌てて塹壕や蛸壺、近くの遮蔽物の影に逃げ込んでいたが、その上空で次々と迫撃砲が炸裂し、地面へと叩きつけられる破片によって斃れていく。


 たった三門の迫撃砲による砲撃ではあるが、自動化された攻撃は無慈悲なまでに正確かつ効率的であった。上空の≪カワセミ≫は、リアルタイムで敵部隊の座標を送り、迫撃砲弾が着弾する度に着弾座標を報告する。その情報を元に方位と仰角がモーター駆動で正確に調整され、二本のマニピュレータが一分間に三十発の割合で砲弾を次々と砲身に落とし込んでいくのだ。


 隠れても無意味と判断した兵士達が、塹壕から次々と飛び出して逃走を図る。だが、その時には龍一のコントロールする≪タロス≫が六百メートル先まで接近していた。手に持つ狙撃ライフルや小銃が逃げる兵士達に向けられ火を噴く。背中に銃弾を受けた兵士達が、その場に倒れ込み動かなくなる。


 チャーリー小隊によって、敵の二個中隊は二十分程で壊滅。逃げ延びた者は皆無で、生きて捕虜となった者は、二割にも満たなかった。


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