初陣
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直也達が、本拠地の鈴谷市から由良市の前基地に到着して数日後、退却部隊の殿を務めていた第十二師団が敵部隊に包囲されたという知らせが届いた。
グリフォン中隊を含む統合機動部隊の陸上部隊に出撃命令が下り、慌ただしく準備する中、直也とあけみはケルベロス大隊長の中佐と打ち合わせをしていた。
「敵は東に二個山岳大隊規模、西の国道八号線に二十両以上の戦車と一個歩兵大隊と聞いているが……、任せて良いのだな?」
「はっ。我々が敵を排除しますので、本隊は国道八号線を進み、退路の確保をお願いします」
心配そうな大隊長に直也はそう告げた後、思い出したように付け加える。
「救援する友軍には、くれぐれも誤射に注意するよう連絡をお願いします。何せ見た目が“アレ”ですから」
直也の視線を追い、トラックから下車し整列していくロボット兵器を見やる。≪タロス≫と≪バーロウ≫のそれぞれ数カ所に扶桑国旗は記されているものの必要最小限の大きさであり、気付かない可能性が高い。
況して友軍は追い詰められている。そんな精神状態でロボット兵器を見たらどうなるか。敵の新兵器と勘違いし、戦意喪失、もしくは半狂乱になって攻撃してくる事も考えられた。友軍を救援に行って、敵と間違われて同士討ちなど、笑い話にもならない。
中佐は意図に気付くと、「任せておけ」と笑みをこぼす。
打ち合わせを終えた直也とあけみは、続いてグリフォン中隊の隊員達が待機する場所へ向かう。今回は十人全員での出撃だ。一人一人の顔を見ていく。誰もが緊張に身を固くしている。何とかリラックスさせてやりたいが、直也自身も初陣で緊張は少なからずある。それでも、微笑を浮かべて仲間達に向き合った。
「いよいよ初陣だ。皆不安と思うが、訓練通りに行動すれば大丈夫だ。無事に戻ってこよう。作戦概要は先程伝えた通りだ。
各員乗車!」
「「はっ!!」」
一斉に駆け出す隊員達。彼らが乗り込むのは≪九五式多脚指揮車≫。不整地でも行動できるように四脚を備えている。ロボット/ドローンのコントロール用に改造されたもので、乗員は六名。ドライバー、通信士兼サブドライバー、そしてオペレーター四名が搭乗できる。
直也、彩華ペアのアルファ小隊が乗り込む一号車には、長門三奈少尉、播磨レックス曹長のペアであるデルタ小隊も乗り込んでいた。
「三奈とレックスは俺たちと一緒に行動するから、あまり緊張しなくても大丈夫だ」
「「はいっ」」
後席に並んで座る三奈とレックスの肩に手を置くと、二人は安心した様に笑って見せる。
直也は席に着こうとしたところで、通路を挟んで隣の席の彩華が「私には?」と期待を込めた瞳で自分を見上げている事に気付く。
「彩も、訓練通り頼むよ」
「はい、兄様」
微笑む義妹を見て、直也も自然と顔が緩む。シートに座ると一つ深呼吸をしてからヘルメットを被り、手袋を付ける。
≪タロス≫や≪バーロウ≫といったロボット兵器、そして偵察ドローン≪カワセミ≫は、≪メーティス・システム≫という専用のシステムを用いてコントロールする。このシステムは、直也達オペレーターに投与されているナノマシン≪アメノサグメ≫を介し、思考でコントロールを可能とするものだ。映像や音声、一部の触覚も、直接脳に送られる。
このシステムによって、一人で複数機の精緻なコントロールが可能となった反面、極端に人を選ぶ上に習得に相当な訓練が必要な物となってしまった。
ヘルメットに内蔵しているHMD、そしてコントロール用の手袋は、このシステムへのリンクが切れた時の補助デバイスであり、普段は使用しない。
スキャナーが網膜パターンを読み取り直也と認識する。それと同時に、ヘルメット内のセンサーが体内に投与されているナノマシン≪アメノサグメ≫とリンクを始める。
『リンクレベル5』
二秒ほどでリンクが完了し、配下のロボットの情報や地図を確認していく。異常なし。
配下のロボット/ドローン全てに応答確認のテスト信号を送ると、正常に応答が返ってくる。異常なし。
自分と部下達の状態も確認していく。今回から、十人には部隊名であるグリフォンと、番号を合わせたコールサインが与えられている。これは今後小隊メンバーの入れ替えや個人での出撃を考えての処置である。
・アルファ小隊
前衛:神威直也中尉[グリフォン01]:タロス十二機、バーロウ(輸送)二機、カワセミ三機
後衛:神威彩華少尉[グリフォン04]タロス四機、バーロウ(迫撃砲)四機、バーロウ(輸送)六機、カワセミ二機
・ブラボー小隊
前衛:出雲あけみ中尉[グリフォン02]:タロス十機、バーロウ(輸送)四機、カワセミ二機
後衛:支倉義晴曹長[グリフォン05]:タロス五機、バーロウ(迫撃砲)三機、バーロウ(輸送)四機、カワセミ二機
・チャーリー小隊
前衛:久滋龍一少尉[グリフォン03]:タロス八機、バーロウ(輸送)八機、カワセミ二機
後衛:伊吹久子曹長[グリフォン06]:タロス四機、バーロウ(迫撃砲)三機、バーロウ(輸送)二十機、カワセミ四機
・デルタ小隊
前衛:長門三奈少尉[グリフォン07]:タロス九機、バーロウ(輸送)二機、カワセミ二機
後衛:播磨レックス曹長[グリフォン10]:タロス二機、バーロウ(迫撃砲)二機、バーロウ(輸送)四機、カワセミ二機
・エコー小隊
後衛:穂高亮輔少尉[グリフォン08]:タロス三機、バーロウ(迫撃砲)三機、バーロウ(輸送)六機、カワセミ二機
前衛:播磨エイミー曹長[グリフォン09]:タロス五機、バーロウ(輸送)二機、カワセミ一機
・合計:タロス六十二機、バーロウ(迫撃砲)十五機、バーロウ(輸送)五十八機、カワセミ二十二機
二号車のブラボー小隊とエコー小隊、三号車のチャーリー小隊も準備が整い、移動を開始する。
昼下がりの曇り空のもと、各車両から次々と≪カワセミ≫が戦場へ飛び去っていく。続いて迷彩塗装された≪タロス≫と≪バーロウ≫の隊列が、敵の潜む山中へと前進を開始。そして三両の≪九五式多脚指揮車≫、さらにはケルベロス大隊の計一個中隊を乗せた十両の多脚輸送車が続く。この一個中隊は、捕虜を確保するための人員である。
これが扶桑軍史上初の、ロボット部隊の初陣であった。




