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扶桑国戦記 (改訂版)  作者: 長幸 翠
第四章 反攻作戦
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反攻作戦28

 ――扶桑軍 フェニックス飛行隊 フェニックス12――


 ≪メーティス・システム≫を通し、≪MQ-13A≫のカメラから見える景色は、灰色の雲に覆われている。


 フェニックス飛行隊のドローンオペレーター、宇喜多翔子中尉は、指揮官の品川佳南子大佐から作戦変更指示を受け、コントロール下にある≪MQ-13A≫三機、≪MQ-12B≫十二機を、敵編隊へと密かに接近させていた。


 当初、ワイバーン飛行隊の伊吹健太朗中尉が一次攻撃を行い、混乱しているところに翔子が二次攻撃を加える作戦であった。しかし一次攻撃が妨害装置によって悉く無効化されたため、接近して攻撃する事になったのである。


(まさか、本当に空の上で“潜入”することになるなんて……)


 分厚い雲と、全方位ステルス能力を最大限に活かした、空中の潜入作戦。しかし敵に接近しての攻撃は、こちらにとってもリスクは大きい。≪MQ-13A≫はともかく、機動性と速度の劣る≪MQ-12B≫は、敵戦闘機から見ると格好の獲物となってしまう。もし攻撃前に発見されようものなら、十二機全て失う可能性もあり得た。現に翔子は、シミュレーターで≪MQ-12B≫を何度も全滅させた経験があったのだ。


 翔子は、リアルタイムで更新される雲の分布状況を元に、雲の薄いエリアに入らないようドローン編隊を慎重に(と言っても、時速七百キロメートル以上で)進めていく。


 健太朗と敵の戦闘は、なおも続いている。


 健太朗は品川大佐の指示を受け、ミサイルを敢えて散発的に、様々な方向から目標に撃ち込み、妨害装置の性能を探っている。全ては翔子と友軍編隊の攻撃を成功させるためだ。そのために四十八発のミサイルが無駄となるが、品川大佐を始め上層部は、必要経費と割り切っていた。


 そのお陰で、妨害装置の効果範囲は大まかではあるが予測出来ていた。


 敵主力編隊との距離を、十キロメートルまで詰めると、攻撃態勢に入る。ここからが本番だ。


 まず三機の≪MQ-13A≫が加速。機首をほぼ九十度まで起こし、まるで打ち上げられたロケットのように上昇していく。


 続いて、十二機の≪MQ-12B≫も僅かに加速。目一杯の角度で上昇しながらウェポンベイの扉を開く。


「フェニックス12、一斉攻撃開始っ!」


 ≪MQ-12B≫一機当たり四発の中距離空対空ミサイル、計四十八発が数秒のうちに大空に放たれ、雲の向こう、高度一万メートルを飛ぶ、怪鳥の群れへと殺到する。


 ミサイルを発射した≪MQ-12B≫は、ウエポンベイを閉じるとすぐに反転する。ウエポンベイを開いたことで敵レーダーに捕捉されており、いつ敵機から攻撃されてもおかしくはない。降下とアフターバーナーで速度を稼ぎながら、一目散に逃走していく。


(第一フェーズ、完了!)


 翔子は安堵する間もなく、意識を集中し続ける。


 敵主力は、至近距離からの突然の攻撃に混乱し、編隊を乱して必至に回避行動を取っている。


 そんな中、七割以上のミサイルが敵機を無視するかのように、真っ直ぐ上昇していく。


 戦術AIの分析により、妨害装置の効果範囲は、機体の前後方向は非常に広いが、側面や真下は狭い。そして上面は範囲外になる事が判明している。この結果を基に、真下と真上の二方向から攻撃するのだ。


 三機の≪MQ-13A≫がミサイルを追うように雲を突き抜け、敵中へ突入すると、ミサイルの目標を設定していく。優先目標は、対艦ミサイルのような妨害装置を搭載した機体だ。


 編隊の外周部にいた、アホートニク飛行隊の六機が≪MQ-13A≫の動きを封じようとするが、回避のためあちこち動き回る友軍機に邪魔され、攻撃はもとより接近もままならない。


 一旦敵機の上に抜けたミサイル群が、上空でターンすると降下に移る。


 上と下、複数のミサイルから狙われた敵機が、妨害装置とチャフを駆使し回避を試みる。


(逃がさないっ!!)


 ≪MQ-13A≫は、内蔵する高性能コンピュータによって最大八発のミサイルを同時に誘導可能だ。二十四発の中距離空対空ミサイルが、単体では為し得ない複雑な機動を取りながら十機の敵機に向かう。


 始め餌食となったのは、妨害装置を搭載している≪Vo-31≫だ。旧世代機ながら速度に秀で、可変翼である程度の旋回性能を持っている。下方から接近するミサイルを妨害装置で無効化すると、急旋回しつつチャフを撒き、上方からのミサイルをやり過ごそうとした。だが≪MQ-13A≫から直接コントロールされているミサイルには何ら効果は無く、≪Vo-31≫の動きを先回りするように飛行し、交差する直前に起爆する。その破片をモロに浴びた≪Vo-31≫が、片翼をもぎ取られ錐揉みしながら落ちていく。


 次の贄は、カナード翼と推力偏向ノズルを持つ格闘戦に秀でた≪Ab-30≪だ。有人機の中ではトップクラスの機動性を活かしてほぼ垂直にまで機体を起こすと、下方と上方からそれぞれ迫り来るミサイルを妨害装置で無効化して見せた。ところが、僅かな時間差で上方からさらに一発のミサイルが襲いかかった。このミサイルも、≪MQ-13A≫がコントロールしているものだ。≪Ab-30≫のパイロットが気付いた時には、既に目と鼻の先。回避不能を悟ったパイロットが咄嗟にベイルアウトした直後、ミサイルが≪Ab-30≫に直撃し木っ端微塵となる。


 この奇襲で、翔子は一分足らずの内に六機の撃墜に成功した。このうち、五機が妨害装置を搭載していた。なお、≪Vo-51≫二機にも攻撃していたが、全て回避されていた。


(第二フェーズも完了!)


 翔子隊の攻撃終了に合わせ、友軍主力編隊が一斉にミサイルを放つ。


 このミサイルの誘導も行い戦果に貢献しようとした翔子だったが、そこまで上手くは行かなかった。ようやく駆けつけたアホートニク飛行隊の六機が、コントロール下にある三機の≪MQ-13A≫に襲いかかってきたのだ。数にして三対六。≪MQ-13A≫は多少の不利を跳ね返す性能を持っているものの、最精鋭を相手にしては分が悪い。


 アホートニク飛行隊は≪MQ-13A≫の危険性を十分に承知していたが、先程の攻撃を経験し、警戒度をさらに引き上げていた。


 ≪MQ-13A≫一機あたり≪Vo-51≫二機が張り付いてくる。急旋回で一機を振り切っても、即座にもう一機が背後に回り込んでくるために、回避に専念せざるを得ない。


(ふっ、振り切れないっ!)


 心の中で、翔子は驚愕の声を上げる。


 今までの戦闘や訓練では、同時に三機以上を相手にしない限り振り切られた。だがアホートニク飛行隊は、一人一人の技量が翔子より高いだけではなく、しっかり連携を取ってくるため、二機でも逃れられない。


 ≪MQ-13A≫三機にミサイルが飛んで来る。咄嗟にECMユニットとチャフで無力化し難を逃れるが、ロックオン警報が鳴り止まない。


(さすがズレヴィナ軍最強の飛行隊……!!)


 まだ落とされていないのは、ほとんど≪MQ-13A≫の性能、そしてECMユニットとチャフのお陰だ。負けん気の強い翔子も、アホートニク飛行隊との実力差を認めるしかない。


 少し離れた空域では、敵味方の主力編隊がぶつかり合い、各個に空中戦を繰り広げている。こちらの先制攻撃でいくらか数を減らしていたが、それでも敵の方が多く、司令部の評価によると『互角』の状況だ。


 さらに別の空域では、ワイバーン12――健太朗――のコントロールする三機の≪MQ-13A≫が、アホートニク飛行隊の半数と未だに交戦している。≪MQ-12B≫がミサイルを撃ち尽し全機離脱した事で『やや優勢』から『やや劣勢』に下方修正されていた。


 なお、翔子の戦うこの空域も『やや劣勢』と評価されている。


(強引に行くしかない)


 このまま普通に戦い続けても反撃の芽はなく、チャフが尽きれば被弾する可能性がある。何より翔子の性格上、攻められっぱなしは性に合わない事から、無理を押してでも反撃するべきと考える。


 ECMユニットを搭載した≪MQ-13A≫の武装は、二十五ミリ機関砲一門のみ。余程敵に接近しないと効果は無い。


 敵機に追い回されながらも、なんとか三機の≪MQ-13A≫を接近させていく。


 ≪MQ-13A≫一番機と二番機が交差する針路を取る。両機を追っていた≪Vo-51≫は咄嗟に標的を切り替え、迫り来る≪MQ-13A≫にそれぞれミサイルを放って来る。それを敢えてECMで無力化せず、二機が交差する直前、一番機と二番機の機関砲が火を噴き、互いに迫っていたミサイルを撃ち落とす。


 まさか撃ち落とされると思っていなかった敵機は、破片を避けるため一斉に散開する。


 ≪MQ-13A≫一番機が破片を回避する中、二番機は敢えてその中に突入する。ミサイルの破片が二番機を叩き、機体数カ所にあるセンサーを破損させながらも爆煙を抜け、狙い定めた敵機へと一直線に突っ込む。


 旋回中の敵機は、二番機に対し無防備に腹を晒す形となっていた。


 すかさず機関砲を発射する。


 毎分三千発、秒換算で五十発の発射速度を誇るガトリング砲が唸りを上げ、≪Vo-51≫に鉄の礫を叩き込む。


 ≪Vo-51≫は被弾し微かに黒煙を吹き上げた後、力尽きたかのようにガクッと機首を下げ雲海に没していく。


(よしっ!!)


 思わず心の中で喝采を上げた翔子。


 アホートニク飛行隊は仲間が落とされたことに一瞬の動揺を見せたが、すぐに≪MQ-13A≫への追跡を再開する。


 これで数的には三対五。敵の方が多いことに変わりないものの、≪MQ-13A≫一番機につく敵機が一機となったことで戦局が大きく動いた。


 敵機を振り切った≪MQ-13A≫一番機が、≪MQ-13A≫二番機、三番機に纏わり付いていた敵機に攻撃する素振りを見せると、狙われた敵機は回避行動を取らざるを得なくなる。連携を崩された敵編隊は、結果的に≪MQ-13A≫二番機、三番機の追跡を断念するしか無くなった。


 この勢いで敵を叩きたい翔子だったが、武器が機関砲だけとあっては決定力に欠けていた。ミサイルと違って敵機に数百メートルまで接近しなければならず、簡単に回避されてしまう。数分間の巴戦が繰り広げられたが、ここで時間切れとなった。主力編隊同士の戦いは終わりつつあり、多くの機体が翼を翻していた。


 飛び去っていく≪Vo-51≫を油断なく見守りながら、友軍に合流すべく、三機の≪MQ-13A≫に進路変更の指示を出す。そこで翔子は、ワイバーン飛行隊の≪MQ-13A≫が一機減っていることに初めて気付いたのだった。


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