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扶桑国戦記 (改訂版)  作者: 長幸 翠
第四章 反攻作戦
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反攻作戦27

 ――ズレヴィナ軍 アホートニク飛行隊――


 <巨人の鉄槌>作戦に参加する多くの航空部隊の中に、精鋭として名高いアホートニク(狩人)飛行隊の姿もあった。


 この飛行隊は、作戦に参加する飛行隊の中で唯一、最新のマルチロール機≪Vo-51≫擁している。


 ついにズレヴィナ軍が満を持して開始した<巨人の鉄槌>作戦であったが、≪避来矢≫防空システム無力化の失敗、レールガンと大量のミサイルを搭載した未知の改造艦からの攻撃、そして守備隊の頑強な抵抗によって、未だ戦線を突破出来ずにいる。


 作戦が始まってからこれまでの間、アホートニク飛行隊は二度出撃していたが、敵に遭遇すること無く帰還していた。そして陸上部隊の第三陣、最後の攻勢に先立ち、他の飛行隊と共に出撃命令が下っていた。


 早期警戒管制機からの情報では、対する扶桑軍もまた、多数の戦闘機を上げて迎え撃つ構えを見せている。


 アホートニク飛行隊隊長のレオニート・ベスパロフ少佐(アホートニク1)は、眼下に広がる雲海に目を凝らした後、正面に視線を戻す。離陸前、地上では未だ小雨が降っていたが、高度九千メートルの世界は蒼穹が広がっている。


 アホートニク飛行隊の一部は、今作戦の二週間ほど前に、本拠地ヌレンスク基地から扶桑国占領地域に進出していた。これは、扶桑軍の擁する新型ドローン≪MQ-13A≫に関する情報を収集する為である。


 第二次扶桑海海戦以降、度々見かけるようになった≪MQ-13A≫は、アホートニク飛行隊が脅威と見なす存在だ。機体サイズは有人機より小ぶりで、無人機らしくコックピットを持たない外見と高度なステルス能力を持ち、さらに凄まじい機動性能を発揮する。そして最大の特徴である、他機が発射した複数のミサイルを同時に誘導する能力。これは未確認ながらも、≪MQ-13A≫と交戦した時だけ突出して損害率が高い事と、撃墜された複数のパイロットがレーザーまたはレーダー照射を受けたと証言していることから、この能力を持つことは確実と見ていた。


 この恐るべき能力に対抗するため、ズレヴィナ軍は新型のミサイルの妨害装置を投入し、今回、≪Vo-51≫十二機を始め作戦に参加する一部の機体に搭載している。


 新型の妨害装置は、増槽のように細長い形状で、機体下部に取り付けられている。これのせいで≪Vo-51≫はステルス能力を失う事になるが、敵ミサイルへの対処を優先させた形だ。それ以上にレオニートを含むパイロット達に不評なのは、妨害装置が空対艦ミサイル並みの重量を持つせいで、機体の運動性が低下していることだ。


 全員が内心で「こんな“重り”を付けて空戦をさせられるのはゴメンだ」と思っていたものの、飛行隊司令部と政治将校のイシドル・グラドビッチ少佐が全機分の妨害装置を用意するために相当に苦労したと聞いてしまえば、口を閉ざすしか無かった。


 レオニートは、もうすぐ強敵と相まみえる興奮を胸に秘め、口を開く。


「アホートニク1より各機へ。

 ブリーフィングで説明された通り、我々の役目は新型ドローンの相手だ。十分注意を払い、必ず複数機で当たれ」


 敵が≪MQ-13A≫を投入して以来、会敵時の敵の一斉攻撃によって勢いを挫かれ、そして大きな損害を出していた。この戦訓を元に、今回の空戦では、アホートニク飛行隊を始め新型妨害装置を搭載した機体が、友軍編隊を先導して盾の役割を果たす。さらにアホートニク飛行隊は≪MQ-13A≫の行動を妨害する事になっている。


 動きがすばしっこく、撃墜することは難しいと予想している。だが、自由に飛び回らせない事が大切だ。


 レーダー画面では彼我の距離はまだあるが、レーダーにほとんど映らない≪MQ-13A≫と≪MQ-12B≫は、それより先行しているに違いなく、程なく交戦距離に入るだろう。


 早期警戒管制機から交戦許可が出る。


「アホートニク1より全機へ。

 ……狩りの時間だ」

『『了解っ!!!』』


 友軍編隊の露払いとして、アホートニク飛行隊の十二機はスロットル出力を上げ、音速の壁を越える。


「アホートニク1より全機へ。

 上昇しろ。敵は雲の中から来る筈だ」


 操縦桿を軽く手前に引くと、体が見えない手で押さえつけられたかのようにシートに押しつけられる。すぐ真下にあった白い絨毯が視界から消え、惚れ惚れするほど澄み切った蒼い世界が視界を埋め尽くす。


 僚機もそれに従い、雲海から距離を取る。


 機を水平に戻した十秒後、耳障りなブザーがコックピットに鳴り響く。敵からロックオンされた事を示す音だ。


 レーダー画面の敵編隊より遙か手前に、突如、ミサイルを示す輝点が現出する。直前までレーダーに映っていなかったことから、敵主力より先行した、≪MQ-12B≫編隊から発射された物と判断する。


(やはりいたか)


 レオニートは、タッチパネルから妨害装置のスイッチを入れる。


 この妨害装置は、レーダー誘導方式およびレーザー誘導方式に対応する。機体下部に取り付けられているため、効果範囲は水平方向から下方向。左右よりも前後方向に広く、ラグビーボールのような楕円体を、横から半分に切ったようなイメージと聞いている。だから機体上面から来るミサイルは範囲外だ。


 今向かってきている敵の空対空ミサイルは、≪Vo-51≫の正面下方から上昇してくるので範囲内となる。


 百パーセント完全に防ぐわけでもないため、安心しきることは出来ない。だが効果はあった。程なくしてブザー音が消え、ミサイルは何もない方向へ飛び去っていったのだ。


 無意識に、小さく息をつく。


 相変わらずレーダーには映らないが、正面下方、雲から飛び出してくる芥子粒のような三つの黒い点を目視で捉える。あれが≪MQ-13A≫に違いない。


 僚機も敵を捉え、敵機発見の報告が無線から聞こえてくる。


 今回、レオニートとペアを組んでいるのは、イサーク・パストゥホフ中尉(アホートニク10)だ。


「アホートニク1より10。

 正面の敵に突入する」

『アホートニク10、了解』


 二機はアフターバーナーに点火。放たれた猟犬の如く、獲物を目指して突き進む。


 突入する合間にも、≪MQ-13A≫は二機に向けてミサイルを差し向けてくる。しかも正面下方からだけではなく、高度や斜めからなど、微妙に方向を変えて狙ってくるところが嫌らしい。


 だが、妨害装置は期待された性能を発揮し続け、一発たりとも当たることは無い。範囲外となる上方から来たミサイルには、機首を上げる事で範囲内に収めて無力化した。


 レオニートとイサークもまた、≪MQ-13A≫を攻撃しようとするが、敵機も同じような妨害装置を装備しているのか、なかなかロックオン出来ない。本来の射程よりかなり接近し、ようやくロックオンすると、中距離空対空ミサイルを一発ずつ見舞う。だが、ミサイルは敵機から逸れ、あらぬ方向へと飛び去ってしまう。


 さらに敵機との距離は詰まり、レオニート機とイサーク機は赤外線方式の短距離空対空ミサイルを発射する。経験上、「命中する」と確信した攻撃だ。


 ところが≪MQ-13A≫は、見事に予測を覆してきた。有人機ではあり得ない小半径で旋回しながらフレアを撒き、ミサイルを回避したのだ。


 一瞬、驚きを見せた二人だが、そこはエースパイロット。即座に操縦桿を倒し追撃に移る。


(……面白いっ!)


 レオニートは不敵に笑う。彼は敵が強力であるほど、闘志を燃やすタイプの人間だ。対象が有人機か無人機かは問題では無い。


 三機の≪MQ-13A≫は、レオニート機、イサーク機と交差し、後方の友軍編隊を目指し一直線に駆けていく。


『アホートニク5より各機へ。

 第一、第二、第五エレメントで対処する。

 他は周囲を警戒しつつサポートに回れ。どこかにあと三機いるはずだ』

『『了解!』』


 副隊長のルドルフ・ズィーコフ大尉(アホートニク5)が、隊の各機に指示を出す。レオニートは隊長の身ながら真っ先に切り込むため、隊をまとめるのはルドルフの仕事だ。


 今回、≪MQ-13A≫一機あたり≪Vo-51≫が二機ずつ貼り付いて足止めをする。≪MQ-13A≫がいなければ、敵のミサイル攻撃の命中率を下げられる為だ。


 気がかりは、残りの≪MQ-13A≫は所在が分からない事だ。こちらに向かっていることは疑っていないが、二機の早期警戒管制機を以てしても見つける事が出来ていない。


 レオニート機とイサーク機が相手をする≪MQ-13A≫は、先程イサークがミサイルを外した機だ。追いつくと後方からロックオンする。しかしミサイルの発射ボタンを押す瞬間、右に急旋回して振り切られる。


『カバーに入る』


 レオニート機の後ろを飛んでいたイサーク機が急旋回し、≪MQ-13A≫の後方に付く。直後、短距離空対空ミサイルを発射するも、妨害装置によって目標を見失い、明後日の方へ飛び去っていく。


 この合間にも、雲の中にいるのであろう≪MQ-12B≫から、アホートニク飛行隊の各機は、断続的にミサイル攻撃を受けている。一回に撃ち込んでくる数は少ないが、正面下方のみならず、左右、後方、そして上面からなど、飛んでくる方角は様々だ。攻撃を受けた機は、その都度機動やチャフで回避しており、被弾したものは無い。しかし通常のミサイルとは明らかに違う挙動に、無線からは戸惑いの言葉も聞こえてくる。


 そしてこのミサイルの複雑な機動は、≪MQ-13A≫がミサイルを精密誘導しているという予測を裏付けるものでもあった。


 散発的な攻撃のため、こちらが撃ち落とされることはないだろうが、気が抜けずとても鬱陶しい。母機の≪MQ-12B≫を攻撃しようにも、ミサイル発射地点は四十キロ以上離れた雲の中に隠れており、何より発射するまでレーダーで捉えられないため、手の打ちようが無い。


 ≪Vo-51≫がペアで≪MQ-13A≫の相手をしていることで、三機の封じ込めは出来ている。≪MQ-13A≫が機動力で後ろに張り付いている≪Vo-51≫を躱しても、先程のイサーク機のように、もう一機がカバーに入り、後ろを取り続けている。≪Vo-51≫は全周囲の敵機をロックオン可能だが、敵機の後方を取るのが最善である事に変わり無い。


 いくら機動性が高いと言っても、同じ航空機だ。旋回すれば速度は落ちるし、急激な機動は燃料消費も激増する。撃ち落とせないまでも、自由にさせないという目的は達成出来ている。


 アホートニク飛行隊と≪MQ-13A≫が戦っている傍らを、友軍編隊が通り過ぎていく。


「アホートニク1よりアホートニク5。

 こちらは問題無い。友軍の護衛に付け」

『アホートニク5、了解。

 第三、第四、第六エレメントは、友軍の護衛に回る』


 六機の≪Vo-51≫が飛び去り、三機のドローンと六機の有人機による空中戦は続く。


 互いの妨害装置によってミサイル攻撃が出来ず、また撃っても命中しないことから、ミサイルの撃ち合いは少なく、傍から見れば奇妙な鬼ごっことなっている。時折、≪Vo-51≫が機銃を発射するも、≪MQ-13A≫の機動性の前に一発も命中することはなかった。


 決着が付かないかのように見えたが、≪Vo-51≫を駆るレオニートとイサークの脳裏には、共通した考えが浮かんでいた。


(このパイロットは、“まだまだ”だな)


 機体の操り方の端々に、若干の拙さが垣間見える。駆け引きに慣れていない様子から、能力的にはベテランの手前、まだ比較的若いパイロットだろうと推測する。


(ならば、まだ遣りようはあるな……!)


 無人機の≪MQ-13A≫と有人機の≪Vo-51≫。機体性能は劣っているが、勝てない相手ではないと判断すると、レオニートとイサークは策を講じるため無線で軽く会話を交わす。


 会話を終え行動を開始しようとした所で、ふと嫌な予感を抱いてレーダー画面に意識を向けたレオニート。


 敵編隊に向け、中距離空対空ミサイルを一斉発射しようとした友軍編隊と同じ場所に、突如、大量のミサイルが出現した。


『クソッ! やられたっ!!!』


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