反攻作戦25
――扶桑軍 第一回廊 第三ライン――
「グリフォン5より各員へ。
国道三〇三号線に沿って、再び多数の自爆ドローンが接近中。
目標は第三ライン上に展開する我々と推測。数は……六百機以上で、さらに増加中。最大限警戒してください」
久子は、前線を守る仲間達に通信を送った後、思考の海に潜る。新米少尉ながら、今は久子が第三ライン全体の指揮を執っている。
あけみや遥、他隊の指揮官など、階級的により上位の者は何人もいる。だが、それぞれが自分の部隊を持っておりそれに専念させたい事、そして久子が、広い視野での状況判断能力に優れている為だ。
(自爆ドローンがまだこんなに残っていたなんて……。≪カグツチ≫も≪モリガン≫も無いのに、一体どうすれば……?)
想定外の事態と、それに対処する有効な手段が無いことから、弱気が顔を覗かせる。
最前線の第三ラインは、支援攻撃を除けば≪タロス≫や≪アトラス≫の手持ちの武器で対応することになっている。ドローンの速度は精々時速百~三百キロメートル程度、かつ低空を飛行するために、≪タロス≫と≪アトラス≫の火器管制能力を以てすれば撃ち落とす事は難しくない。
しかし迎撃出来る数には限度がある。想定していたのは、≪カグツチ≫が撃ち漏らした少数を掃討するものであり、六百機――しかもさらに増加中――は埒外だ。ましてや多数の陸上部隊も同時に交戦する事になれば、防衛ラインを守る事は不可能だ。
(≪モリガン≫のある第四ラインに後退を……。
いいえ、それではいざという時に後が無いし、ドローンを迎撃出来ても、陸上部隊との戦いが難しくなってしまう)
第四ラインまで後退すれば≪モリガン≫の防空圏に入るため、自爆ドローンの迎撃は容易くなる。しかし今度は、陸上部隊の迎撃に支障が出てしまう。≪タロス≫の周囲に友軍歩兵がいる事になり、戦いづらくなるためだ。
≪タロス≫同士であれば、常に互いの位置と動きを把握しているので、ぶつからないよう自動で制御される。例えば一機の≪タロス≫が走って移動する際、他の≪タロス≫は針路上から自動で退避、または交差しないよう動く。
しかし人間相手ではそんな器用な真似は出来ない。人間側が他のことに気を取られて接近する≪タロス≫に気付かない事もあれば、≪タロス≫を避けようとして、逆に針路を塞いでぶつかる可能性もある。そして人間よりも≪タロス≫の方が重量があるので、双方がぶつかるとほとんどのケースにおいて人間を跳ね飛ばす事になるのだ。
≪タロス≫が友軍兵士とぶつかって怪我をさせた」なんてことがあってはならない。おのずと≪タロス≫側、すなわちオペレーターが常に周囲の状況を確認し、ぶつからないよう気を配らねばならない。オペレーターの負担が無駄に増えるのはもちろんの事、≪タロス≫の強みである機動力を活かせなくなる。要するに、近くに人間がいると邪魔なのだ。
だから後退はせず、第三ラインで迎撃するしかないと考え直す。そうなると、自爆ドローンは榴弾砲を撃ち込んで数を減らし、残りは≪タロス≫と≪アトラス≫で撃ち落とす方法しか無い。
あけみから通信が入る。
『グリフォン2よりグリフォン5へ。
自爆ドローンは、榴弾砲と≪するが≫……は無理そうね。榴弾砲で数を減らして、あとは直接撃ち落とすしか無いと思うけれど、どうかしら?』
あけみも久子と同じ判断に至っていた。ちなみに、話の途中で≪するが≫が交戦状態に入りレールガンを使えなくなったため、言い直している。
「私も同意見です。支援要請を出しておきます」
『お願いね。それにしても、本当に厳しい状況ね……』
「ええ、本当に……」
陸軍から予定通りに弾薬が届いてさえいれば、このような事態は起きなかったのだ。秀嗣と同様に久子も、扶桑国の命運をかけた<瑞雲>作戦には朝加部大将も全面的に協力するに違いないと思い込んでいただけに、驚きは大きかった。狙いは、「扶桑軍として作戦は成功させるが、部隊に損害を出させて神威派の力を削ぐ」ことなのだろう。まだ戦争の勝利が見えていないにも関わらず派閥争いを持ち込む辺り、戦争を甘く考えている事が透けて見える。
『第二回廊と第三回廊は任せて。第一回廊と全体の指揮はお願い』
「了解です」
あけみとの会話を終えた直後、今度は司令部の秀嗣からの通信が入る。
『オーディンよりグリフォン5へ。
支援要請を確認した。自走榴弾砲は全て自由に使って構わない』
「了解しました。ありがとうございます」
『礼には及ばない。必要な弾薬を集められなかったこちらの責任だ。
だが、これだけで前線を維持するのは難しいだろう。自爆ドローンの発射地点にグリフォン1を送る。上手く行けば空に上がる数が少しは減るはずだ。
すまないが、何とか凌いでほしい』
「!!!
それは本当に有り難いのですが……」
『言いたいことは分かる。
だが、グリフォンⅠの体調よりも、戦線の崩壊を防ぐ方を優先した。グリフォン1は戦闘後、過負荷で何日か寝込むだろうな。
また、敵司令官には逃げられるかもしれないが、その時は割り切るしか無い』
「……了解しました」
『武運を祈る。以上だ』
直也を自爆ドローンの発射地点に送り込む案は久子もチラッと考えてはいた。しかし空に上がった分を撃ち落とす必要がある事に変わりなく、何より一介の少尉の身には余る判断だ。
秀嗣が全て了承の上で判断したならば、久子に否はない。
通信を終えると久子は、仲間達に秀嗣からの指示を伝えつつ第一回廊の配置と分担を振り分けていく。
自爆ドローンの編隊は、戦域に侵入すると、それぞれの回廊に向けて、最低でも三つの編隊に分離するに違いない。
久子はその動きから飛行ルートを推測すると、すぐさま自走榴弾砲に大まかな座標と高度を指示する。あとは射程に入ってくるのを待つのみだ。




