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扶桑国戦記 (改訂版)  作者: 長幸 翠
第四章 反攻作戦
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反攻作戦23

 ――ズレヴィナ軍 迂回部隊――


 地雷撤去を繰り返しているせいか、部隊の移動速度が上がっていた。


「残り五キロです。何とか間に合いそうですね」

「ああ……。しかし山を抜けてからが本番だ。気を抜くな」


 部下の言葉に頷きながらも、中隊長は注意を促す。この言葉は自分に向けてのものでもあった。


 データリンクで得た情報では、友軍は敵第二ラインを果敢に攻撃し続けているが、一進一退とのことだ。このタイミングで敵の後方から攻撃を仕掛ける事ができれば、天秤はこちらに大きく傾くだろう。と言うより、迂回攻撃が成功しないと、突破は難しそうだ。


 どのように攻めるべきかと、敵の配置を確認しながら移動していたところ、前を進む隊の方角から、重い銃声が聞こえてきた。


「敵襲っ!!」


 全員がサッと身を屈め周囲を警戒する。前方からは、こちらから撃ち返す複数の連射音も響いてくる。


 不意に「ガンッ!」という激しい音と共に一人が倒れ、一拍遅れて銃声が響き渡る。


「狙撃だ! クソッ!」


 周囲には木々があり隠れる物はある。しかし周囲に地雷が残っているかもしれず派手に動き回る事は出来ない。非常に不利な状況だ。


 皿のように目を凝らし、敵の姿を探す。その間にも敵の銃撃は続く。ところが命中は無く、木を抉り土煙を上げるだけだ。また、最初に狙撃された一名は、銃弾の当たった角度が浅かったお陰で装甲に弾かれて無傷だった。


「敵ロボット三機発見!

 十一時方向、距離八百メートル!!」


 銃撃を受け始めて二分ほど、ようやく敵の位置を発見し一斉に撃ち返すと、敵は姿を隠した。


 続いて、別の方角から飛んできた銃弾が数名に命中し、≪ジウーク≫の装甲に火花を散らした。


「大丈夫か!?」

「……ハッ、問題ありません!」


 驚いて声をかけると、被弾した兵士は命中した辺りを手探りで確認し、穴が無いことに安堵して返答する。当たったのは五・五六ミリ弾だろう。≪ジウーク≫の装甲はしっかりと役目を果たし、弾丸を弾き返していた。


 なおも散発的に、敵からの攻撃が続く。これは明らかに時間稼ぎを狙ったものだ。


 中隊長は、容赦なく迫り来るタイムリミットの前に、ついに苦渋の決断を下した。


「……中隊各員に告げる。

 地雷と敵の攻撃を無視し、全力で目標地点に向かい、防衛ライン上の敵に攻撃せよ。

 ……いかなる犠牲も厭うな」


 これまでの地雷の設置状況から、地雷原を強行突破した場合、損害は一個小隊程度になると、つい先程見積もりを更新していた。残った兵士達が敵の防衛ラインを攻撃しても、効果があるかは分からない。しかし被害よりも任務の遂行を優先し、突撃を指示した。他に手立てが無かったのだ。


 身を屈めていた兵士達は立ち上がると、一斉に走り出す。敵からの銃撃で≪ジウーク≫の装甲に火花が散るが、見向きもせず駆け抜けていく。


 敵の襲撃を振り切っても、なお森を走る。≪ジウーク≫のパワーアシスト能力は、平地であれば五十キログラムの装備を背負いながら、毎時十五キロメートルの速度を可能とする。今は障害物が多く足場の悪い山中なので三分の二ほどの速度しか出せないが、それでもなかなかの速さである。


 前方からは、地雷と思われる爆発音が響いてくる。その数は想定よりもかなり多く、中隊長は自らの決断が間違いだったのではないかとの考えが脳裏を過る。しかし今更引き返すことは出来ない。たとえ仲間達の屍を乗り越えてでも、任務を果たさなければならないのだ。


 目標地点まで残り三キロとなったところで、前方に多くの人影が見えた。近づくと、ほとんどの者達が進行方向を向いたまま、人垣を作り立ち尽くしている。


「貴様ら! 何をしている! 時間がないんだぞ!!」


 副中隊長が怒声を上げながら、ズンズンと大股で歩み寄る。


「サッサと走らな……」


 人垣をかき分けて前に出た副中隊長は、目の前の異様な場面に言葉を失った。


 二十名ほどの部下達が、白い網のような物に絡め取られ、身動きが取れなくなっていたのだ。幾人かは藻掻いているようにみえるが酷く緩慢で、スローモーションの映像を見ているかのようだ。


 例えるなら、蜘蛛の巣に絡め取られた羽虫のようであった。


「な……、何があったんだ。これは……?」


 後から現れた中隊長も、思わず呆然としている。


「て、敵の地雷にやられました。殺傷力は無いですが、ご覧の通り身動きが取れなくなるようです」

「助けることは出来ないのか?」

「救出に向かった者もいるのですが……。あのようになっています」


 兵士の指し示す先には、四人の集団がいた。歩いている最中に両足が固まり、突っ立ったままの者。足に絡まった粘着物を取り除こうとして、屈んだ姿勢のまま動けなくなった者。無理に抜け出そうとしてバランスを崩したのか、受け身の態勢のまま寝転がっている者。最後はなぜかひざまずいている者。


 ≪ジウーク≫のパワーアシストを以てしても抜け出せないとは、粘着力は相当強力なのだろう。


 ある意味前衛的な芸術かもしれないと、中隊長が現実逃避しそうになる。ここが戦場でなければ、笑ってしまいそうな光景だ。


「……彼らは見捨てて回り込むしかあるまい」


 残っていた部下達を引き連れ、粘着液地帯を避けて遠回りする。しかしその先でも、同じような光景が広がっていた。


「……何てことだ。地雷を撤去しながら進むしかないのか」


 もう猶予はないが、地雷を取り除きながら進むよう指示を出す。西からは、今なお砲声や爆発音が響いている。目指す戦場はもうすぐそこなのに、遙か遠く先のように感じてしまう。


 総出で地雷を撤去しつつ三百メートルほど進んだ時、終わりが訪れた。


 あちこちから「ポンッ!」という少々間の抜けた音と共に、地面から缶ジュースサイズのケースが打ち上げられた。驚愕に顔を歪ませる兵士達を尻目に、地上約三メートルで炸裂すると、透明な液体と白い繊維状の物体を周囲に撒き散らし、中隊長を含む全員に浴びせかけた。


 液体と繊維状の物体を被った者達は逃げだそうと走り出したが、急激に体の自由が利かなくなり、ついには動きを止めた。


 体に絡まった繊維を取り除こうと腕を振り回した者は、まるで納豆をかき回したかのように多くの白い繊維を身に纏って、最終的に身動きが取れなくなった。


 三分後、迂回部隊の最後の生き残りだった約五十名は、一人残らず動きを止めたのだった。



 迂回部隊を仕留めた兵器は、研究所で≪試作拘束地雷≫と言われているもので、その名の通り試作品だ。センサーと組み合わせたり、無線指示で起爆させ、対象を粘着剤で拘束する。


 非殺傷兵器としているが、散布する液体及び揮発する気体は人体に有害なため、拘束する目的で生身の人間に使用することは難しい。今回は≪ジウーク≫やロボット兵器を相手にする事が分かっていたために使用した。


 粘着剤は、専用の薬液をかけるか、時間経過で効果を失う。



 この新兵器によって囚われの身となった迂回部隊は、追いかけてきた亮輔の隊、そして北からやってきた兵士達によって呆気なく身柄を拘束されたのだった。


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