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扶桑国戦記 (改訂版)  作者: 長幸 翠
第四章 反攻作戦
101/110

反攻作戦22

 ――扶桑軍 第三回廊 第二ライン――


『グリフォン5よりグリフォン11。

 予測通り、第三回廊に攻撃が集中する見込みです』

「了解した」


 久子(グリフォン5)からの通信に、高阪重久中尉(グリフォン11)が答える。


 内陸側の防衛ラインは第一ラインと第二ラインの間で二股に分かれ、第二回廊と第三回廊となる。第二回廊はあけみの隊が、第三回廊は重久の隊が守備につく。


 第一回廊と第二回廊の間、第二回廊と第三回廊の間を隔てているのは木々が生い茂る丘で、幅は一キロから五キロメートル程度ある。道は存在せず、木々や崖などもあることから車両は通行できない。多脚式のロボット兵器か歩兵ならば通れるが、扶桑軍は側面攻撃を警戒して罠やセンサー、それに数機の≪タロス≫を置いているため、不意に側面を突かれる心配は少ない。


 それに比べ第三回廊の東は幅が何十キロもある山岳地帯だ。全域に罠を張り巡らし警戒する事は不可能で、作戦立案時からズレヴィナ軍が別働隊を送って第三回廊の突破を狙ってくると予測していた。


 実際は衛星測位システムのデータに細工をすることで敵別働隊の移動ルートを誘導し、穂高亮輔少尉(グリフォン8)の待ち構えるエリアに誘い込んでいたが。


 重久は(いよいよだ)と気合いを入れ、部下達に檄を飛ばす。


『グリフォン11より各員へ。

 我々が要だ。敵の本隊を食い止めるぞ!』

『『了解っ!!』』


 当初重久達六人の能力に不安があったことから、第三回廊はあけみ達が守る計画だった。しかし半月前の試験で想定を大きく上回る結果を出したことで変更になった。


 重久達が成長するきっかけとなったのは、五月に直也達が研究所に訪問した際のアドバイスだ。


 当時の重久達は、<瑞雲>作戦の訓練として陣地防衛のシミュレーションを繰り返していた。敵は圧倒的な大部隊であり、重久はそれに対応するため、各オペレーターの能力を上回る数の≪タロス≫を無理矢理コントロールしようとして失敗を繰り返していた。


 直也達は「無理に数を増やしても、まともにコントロール出来なければ逆効果」と指摘し、コントロールする≪タロス≫を一旦減らすようアドバイスした。また、研究所の職員を軽んじる事にも苦言を呈した。職員達は直也が訪問する以前から同じ指摘をしていたが、重久達は「兵士ではなく、≪メーティス・システム≫も使えない者の言葉など、信用出来ない」と聞く耳を持たなかったのだ。


 研究所の職員達は、直也達と共に≪メーティス・システム≫そして≪タロス≫の開発に関わってきた者達だ。たとえ当人がシステムに適応していなくても、知識や経験を侮るのは愚かなことだ。


 その時は直也に反発した重久達だが、不承不承ながら従ってみると驚くほど効果があった。≪タロス≫の数を減らしたことで一機一機の状況をより正確に把握し、緻密かつ有機的にコントロール出来るようになったのだ。


 また職員のアドバイスや指摘に従ったことで、今までの苦労が嘘のようにシミュレーションを楽にこなせるようになった。


 重久は直也とあけみのアドバイスを聞いて良かったと思っていたが、ソリの合わない直也には何も言わず、あけみにだけ謝意を伝えていた。


 ともあれ、重久達六人が第三回廊を任せられるほど成長したことで、作戦の幅は大きく広がり、今回の人員配置となっていた。



 重久達の後方から支援砲撃を行っている第七師団の自走榴弾砲は、第三回廊を北上してくる敵部隊に砲弾を降らせているが、敵は移動している事から命中率は高くない。とは言え、前線に立つ重久達のため、少しでも敵を減らそうと手を休めること無く撃ち続けている。


 もう少しで交戦距離に入るという所で、緊急の通信が入った。


『グリフォン5よりグリフォン11。

 敵が一斉砲撃を開始! 至急退避してください!』

「了解!

 全員、退避だっ!!」


 戦術マップに、多数の砲弾の軌跡と着弾予測地点が表示される。そのほとんどが重久達の≪タロス≫がいる第二ライン上を示していた。着弾まで一分も無い。反射的に重久が指示を出すと、≪タロス≫や≪バーロウ≫、≪九一式戦車≫が一斉に掩体壕へと逃げ込んでいく。この動きもまた、シミュレーションで幾度も繰り返したものだ。


 退避を終えた直後、砲弾が第二ライン上に降り注ぐ。泥や水分を含んだ土砂、それにコンクリート片や木の欠片が巻き上げらる。


『敵最終弾落下、十秒前!』


 副隊長の井手田少尉(グリフォン12)がカウントを行う。普段は重久とペアを組む事が多いが今日は別だ。前衛の重久は、後衛の古守少尉(グリフォン14)とペアを組み、後衛の井手田少尉は、前衛の周防曹長(グリフォン16)と組んでいる。


「外に出たら敵は目の前だ。気を引き締めてかかれ!」

『『了解!!』』


 砲撃の間も、敵のロボット部隊は北上を続けている。人命に影響が無い以上、多少の誤射は許容出来るのがロボット兵器の強みの一つだ。突入するギリギリまで砲撃を行っているようだ。


 こちらも、着弾予測地点から外れている≪タロス≫と≪九一式戦車≫が掩体壕から飛び出し、敵ロボット兵器と交戦を開始する。


 上空には複数の≪カワセミ≫が地上を監視しており、戦術マップに北上してくる敵の位置をリアルタイムに投影している。当然ながら、兵力は敵の方が遙かに優勢である。だが敵の偵察ドローンは全て排除しているため、状況把握のうえでは圧倒的に有利だ。


『最終弾落下……、今ッ!』


 夥しい砲弾が、着弾と共に大地を揺らす。その揺れが治まる前に、重久は



『リントブルム・リーダーよりグリフォン11。

 厄介そうな奴らはこちらで引き受ける。撃ち漏らしと小物は任せた』

「グリフォン11、了解。お願いします」


 第二ラインから二キロ後方に展開していたリントブルム大隊の戦車二十六両が、土を蹴り立てて前進してくると、次々と百二十ミリ滑腔砲を発射。HEAT-MP弾が≪BM-102≫を破壊し、炸裂した砲弾が近くにいるロボット兵器にも損傷を与える。


 古守少尉の≪タロス≫一番機が、携帯式レールガンで残っていた≪BM-102≫を撃破する。


 二十ミリ対物ライフルを持った≪タロス≫が、対戦車壕にグレネードを打ち込んでいた≪BM-17≫に向けて発砲する。弾丸がグレネードの弾倉に命中すると、グレネード弾が次々と誘爆。自分の弾で損傷した≪BM-17≫が動きを止めた。


 厄介な敵を排除出来た事で、前線にいた他の≪タロス≫も動きやすくなった。


 対戦車壕の百メートルまで接近していた≪BM-3≫五機を、阿野田少尉(グリフォン13)の≪タロス≫四番機と五番機が十二・七ミリ弾を叩き込み黙らせる。


 諏訪曹長の≪タロス≫B型二機が、接近してくる≪BM-17≫に向けて、携帯式対戦車ミサイルを発射。撃ち終えると、肩に担いだまま隣に控えていた≪タロス≫が発射筒を即座に交換し再び発射する。二発撃ち終えると、対戦車壕内を移動して、別の場所から再び攻撃する。


 猛烈な攻撃を加えるが、敵は怯むこと無く前進してくる。


『敵が塹壕内に侵入!!』


 二機の≪BM-35≫が並んで対戦車壕に飛び込んできた。重久の≪タロス≫一番機が二機の間で刀を抜き放つと、その刀身が目に見えぬほど微細な振動を始める。斬り上げた刃が片方の≪BM-35≫の砲塔を斜めに切り裂き、反す刀で胴体を袈裟懸けに斬って止めを刺す。続いて素早く振り返ると、流れるように地を駆け≪タロス≫一番機に砲身を向ける≪BM-35≫の懐に飛び込む。二十三ミリ弾が、先程まで≪タロス≫一番機のいた空間を貫く。≪タロス≫一番機は両手で刀を持ち、最大まで振動させた刀身を振り下ろせば、凄まじい火花を散らしながら≪BM-35≫を一刀のもとに斬り伏せた。


 一機の≪BM-35≫が対戦車壕の上から二十三ミリ機関砲を撃ち込んでくるが、≪タロス≫一番機は破壊した≪BM-35≫の残骸の陰に隠れて回避する。重久の≪タロス≫四番機が、お返しとばかりに十二・七ミリガトリングガンを発砲。≪BM-35≫は横っ面に数十発の弾丸を受け、痙攣するかのように震えた後頽れる。


 銃を持つ敵を電光石火の早業で切り捨てる。まるで映画のワンシーンのような出来事に、≪カワセミ≫のカメラでその姿を見ていたカーバンクル中隊のオペレーターが、人知れず「すげぇ……」と声をもらすのだった。



 ――扶桑軍 迂回部隊迎撃隊――


 亮輔と共に行動する≪タロス≫は十四機。百機ものロボット兵器、そして同数の≪ジウーク≫と正面切って渡り合うにはあまりにも少ない。取りうる戦術はゲリラ戦となる。


 最初の襲撃を終えた後、二機の≪タロス≫を敵の動向を探るために残すと、補給のため弾薬の集積場所がある西へと急ぐ。


 地雷は広範囲に敷設している事から、亮輔の隊も地雷原の中にいる。だが敷設場所は全て戦術マップにプロットしている上、一部の地雷は敵味方識別機能があるため、自分の仕掛けた地雷に引っかかるヘマはしない。


 目的地に到着すると、≪タロス≫が補給のため散っていく。全機バッテリー残量はまだ十分残っており、襲撃で使用した弾丸やミサイルを補充する程度だ。


 十五分ほどで補給を済ませると、敵迂回部隊の追跡に移った。こちらは敵の動きを捉えつつ、敵からは見つからない距離を保つ。索敵能力の高い≪BM-3≫は全滅させており、残っている≪ジウーク≫自体は、暗視ゴーグルやサーモグラフィーを備えるものの通常の歩兵と大差ないため、見つかる可能性は低い。


 崖を登った敵は、北へと移動している。この動きは想定通りだ。もしそのまま崖下を進んでいたなら、崖を再度爆破して≪ジウーク≫を強制的に崖の上に上げる手筈になっていた。


 敵は見事に地雷原へと足を踏み入れている。数分進んでは地雷を見つけて停止し撤去するという行動を繰り返して進んでいた。隊列は長く伸びており、側面から攻撃すれば一気に崩せるだろうが、敵の損害は出来る限り減らすよう上から指示が出ているので攻撃はしない。地雷の薄い地帯を探そうとしているようで、隊列を変えたり、いくつかの分隊を周囲に送り出しているが、その都度地雷の撤去に追われ、無駄な努力となっていた。


 第二ラインでは、敵第二陣と交戦が始まっていた。≪するが≫の攻撃によって第二陣は半数程まで数を減らしている。それでもこちらより圧倒的に多いが、仲間達ならしっかり守り通してくれるだろう。



(地雷撤去が早くなっているな……)


 しばらく敵迂回部隊を追っていると、移動速度が上がっている事に気付いた。何度も同じ地雷を撤去しているせいか、撤去にかかる時間が少しずつ短くなっていた。


 ざっくり移動時間を計算すると、このペースでは間に合う可能性がある事に気付く。


(襲撃で時間稼ぎするか……)


 地雷だけで敵を足止め出来れば手を出すつもりは無かったが、それだけでは足りなかった。戦術マップから近くの襲撃ポイントを確認すると、二機の≪タロス≫を残して先回りする。


 十五分後、敵が攻撃範囲に入ったところで、≪タロス≫に攻撃指示を与えるのだった。


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