異世界カフェで恋バナしつつ神の考察をする女子学生達に出会った
前回とは違ったベクトルでおかしい女子学生の登場。
今回登場のカノンは早口モードの時のみCVイメージが福山○治 です。
学生時代からの親友が旦那と浮気した。
そんな二人を責めるとまさかの逆切れで旦那に突き飛ばされて頭を強打。気づけば異世界に転生していた。
何やかんやで異世界にて冒険者をしている私にはお気に入りの場所がある。
それは行きつけである『くつろぎカフェ やよい』。日本ぽい名前が何か懐かしくて通っている。
お店の人に由来を聞いたら創業者の義母がそういう名前だったらしい。彼女も異世界転生者なのかな?
「カノン、一体何を考えているのですか?」
隣の席に座る女子学生の会話が聞こえてくる。
先日、衝撃的な女子学生に出会った。
その娘達とは違うが異世界女子学生の生態とやらに興味が沸いてきたので耳を傾ける。
「ミズキはさー、『オコノーミヤキ』を知ってる?」
ちょっぴり髪がぼさぼさしたショートヘアの女子学生がやや間延びした感じで話を切り出す。
えーと、『お好み焼き』のことかな?
「えーと、アスコーナ地方の郷土料理でしたっけ?私も好きですよ」
応えるのは流れる様なブロンドヘアーを腰まで伸ばした少女であった。
そういえば時々お好み焼きもどきを見かけるな。
まあ、簡単な料理だし似たようなものがあるのかと思って懐かしくて食べたりしてたけど。
「そー。水に溶いた小麦粉で生地を作り野菜や卵、魚など多種多様な食材を乗せて焼き上げるの。更に使用する調味料なども地域によってさまざまな種類があるの。ただしこの料理には非常に興味深い説が近年囁かれているんだよねー」
「興味深い説?何ですかそれは?」
「えーとね。『オコノーミヤキ』が異世界の食べ物である説。実は異世界の食べ物である『タコヤキ』と製法上似た部分があるの。それでもしやと思ってママに確認したらね。普通に『あ、異世界の食べ物だねー』って返事が返ってきたの」
もしかしてこの子の母親って私みたいな異世界人なのかな?
ちょっと会ってみたいかも……
「まさか『オコノーミヤキ』にそんな秘密が……」
「この国には昔から異世界転生者が多くいたでしょ。つまり彼、もしくは彼女たちが自分達の食文化を再現しようとした結果、新たな料理が生み出され浸透していったという事なんだよ」
「はぁ、あなたの話はいつも難しいながら面白いですね」
何だろう。
大真面目に語っている二人がなんかおかしいけど文化考察っていうのもなんか面白いな。
通ぶるつもりは無いけどちょっとお好み焼きについて色々教えてあげたくなるなぁ。
「それはそうとさー、『寝息大きいね』って逆から読んでも『ねいきおおきいね』ってなるんだよねー」
いや、落差!
さっきまで異世界の食文化に関する考察してたのにいきなり回文始まる落差!!
「た、確かに!カノン、あなたはやっぱり天才ですね!!」
ミズキちゃんいい子!
私なら友達がこんな落差ある事言ったら思わず『あんた何言ってるの?』って真顔になるもん!!
「そーいやさ、ミズキって今日男子に告白されてたじゃん?あれ、断ったの?」
また話題変わった!ギャルもびっくりの話題飛躍!!
でも今度は恋バナ開始。
この前の女子学生は肉体言語の使い手だったけど今度は異世界女子学生の恋愛事情が聞けるかな?
いや、意外とこの娘達もちょっとずれた恋愛してるかもしれないよね。
「学校というのは自らを磨く場所です。学生の内は好いた惚れただの浮ついた気持でいるべきではないのです!ですのでキッパリお断りさせていただきました」
なるほど、ミズキちゃんはお堅い系の子かぁ。
私もさ、学生時代は恋愛なんか興味は無いって感じで社会人になってから出会った男性と燃えるような恋してスピード結婚しちゃったけど結果がこれだからなぁ。
恋の経験は必要だって痛感したなぁ。
「ふーん……そーいやさ、ウチのお兄が珍しくこの間女の子にね」
「お兄?えーと、それはホクトの事ですか?え?女の子がどうしたのですか?」
さっきまで毅然とした態度で恋愛を否定していたミズキちゃんだが急に動揺した様子で前のめりになっている。
あれ、これってまさか……
「ミズキってさ、ホクト兄の事ホント好きだよね」
「す、好き!?そ、そんな事があるわけありません。昔から彼にどれだけ迷惑を掛けられてきたと思ってるんですか!友達のスカートをめくられたり、感謝祭の時は女装した男子を触りに行って私が謝ったり。本当に目が離せないというか、でも何だか優しくて頼りになる所もあるし」
うん。無茶苦茶好きじゃん。
え、この子まさか親友のお兄さんに恋しちゃってない?
うわぁ、ちょっとエモいかも。そのお兄さんがちょとロクでもない感するのが気になるけど。
「だ、大体私たちは、先ほども言ったように学生ですし」
「えー?でも結婚は出来る年齢じゃん?」
「けっけけっ結婚!?そ、そんな不埒な事!」
ちょっとミズキちゃんが可愛いんですけど?
もう顔真っ赤なんですけど?
「で、でも私なんか……だってホクトが好きなのはその………ヒイナ先輩ですし、私はあの人みたいに賢くもないし女っぽくもないです」
あらやだ。
想い人である親友のお兄ちゃんが好きなのは先輩でしかもちょいコンプレックス抱いているなんて………ごちそうさまです!
「私みたいなつまらない女に好かれても、彼は迷惑でしょう」
ごちそうさまです!!
何この健気な子!無茶苦茶かわいいじゃない。
「でもほら、ヒイナちゃんはウチの一番上のお兄が好きなわけだし」
三角関係!!
三角関係を展開しちゃってる!!
ミズキちゃんはカノンちゃんのお兄さんが好き。
カノンちゃんのお兄さんはミズキちゃんの先輩が好き。
そしてその先輩はカノンちゃんの更に上のお兄さんが好き。
9時放送の恋愛ドラマじゃん!!
「そんでそのお兄はミズキのこと好きなんだからさ。恋愛ってわかんないなー」
四角関係キター!
何なのこれ!エモすぎるでしょ!!
もうキュンキュンが止まらない!!
「私、一番上のお兄様についてはあまり好きでは無いので気持ちに応えることは出来ないです。すいません……」
ちょっとこれ誰と誰がくっつくの!?
1クールで終われるの!?シーズン2とか突入しない!?
きっと色々と新キャラ乱入して更なる混乱だよ。
劇場版だよ!!
「まー、頑張りなよ。私はミズキを応援するからさ」
カノンちゃんいい子!
きっとこの子は私の親友みたいに裏切ったりはしない!
こんな子が親友だったらよかった!!
何かもう色々と胸がいっぱいになっていると突然怒声が響く。
「早く持ってこいってんだよこのノロマが!!」
ガラの悪いチンピラ風の男が店員を怒鳴っていた。
店員が慌てて注文した品を持ってくると男はふんぞり返りながら『遅かったんだしタダにしろよ』と難癖をつけていた。
「何か嫌な感じのお客ですね」
本当。せっかくエモい気分に浸ってたのに台無しじゃん。
「あーゆー手合いは放っておくのがいいよー。下手に絡むとややこしい事になるもん」
「そうですね……思う所はあるけどお母様からもトラブルに首を突っ込むなと言われていますし……」
やっぱりこの世界でもそういうのってあるよね。
「お前なぁ!お客様は神様だろ!!」
うわぁ、凄いカスハラ。
これって日本の有名な歌手の言葉だけど本来の意味とは違って浸透しちゃってるんだよねぇ。
あいつもしかして転生者とかかな?
「お客様は……神様?」
カノンちゃんの動きが止まり震えだした。
あれ?どうしたんだろ?
「カノン、ちょっとあなたまさか……」
ミズキちゃんが顔を青くする。
あ、何かヤバい事起こりそう。
「実に興味深い!」
「あぁ……お願い、抑えて。その好奇心は抑えて!!」
そんなミズキちゃんの懇願も空しくカノンちゃんは勢いよく立ち上がった。
「お客様は神様である。この言葉を検証するに当たってまず必要なのは『神様』の定義づけ!まずここでは仮定として犠牲を以て私達に幸せや恩恵をもたらしてくれる上位の存在としよう。ではその神様が私達にどのような幸せをもたらしてくださるか」
カノンちゃんは早口でまくしたてるとノートを取り出しすさまじい勢いで何やら殴り書きを始めた。
何か某天才数学者みたいなことやりだした!?
「カノン、わかった。わかったから落ち着いて!」
「例えばあの男性をこのカフェに降臨なさった神として……考えられる恩恵を売り上げと想定し計算していくとしよう。そして必要な事はそう。今後労働をしなくても不自由なく生活できる対価を支払ってくださるとすれば……」
「何だこのガキ?」
「なるほど、店の食材が無くなる程注文したとして想定される売り上げ。これを彼に200日続けたと仮定すると……」
うわぁ、もう完全に周りが見えてないよこの子!!
ミズキちゃんが泣きそうになっているもん。
「だけど200日間、毎日食材が無くなる程の労働を続けなければいけないというのは到底恩恵をもたらしているとは言えない。つまり、この計算では『お客様は神様』説の立証は出来ない。これではダメ!とすれば次は……」
カノンちゃんはバッグから何やら取り出しチンピラに近づいて行く。
「何だお前?」
「頬の内側の粘液を採取させてください」
「はぁ!?」
「あなたが降臨なさった神であるとするならやはり私達と何が違う所があると考えられます。科学的な分析でそれを検証していきます。粘液の採取にご協力ください!!」
DNA鑑定しようとしてるぅぅぅ!?
あれだよ、持ってるの刑事ドラマでしか見たことのない採取セットだ!!
もうミズキちゃんは白目を剥きかけている。
「このガキ、舐めてっと酷い目に遭わすぞ?」
チンピラはカノンちゃんの胸倉を掴み睨みつけた。
「無礼なのは十分わかってますけど神を自称する方が目の前に居るんです!分析をせずにはいられません。私は自分の好奇心が抑えられない!」
抑えよう!そこは抑えよう!!
というか流石にまずいな。
私も冒険者の端くれ。助けに入ってあげるべきか。
「このクソガキが!!」
そんな風に考えているとチンピラがこぶしを振り上げた。
危ないっ!
そう思ったが拳は振り下ろされる事無く背後から来た大柄な男性がチンピラの腕を掴んでいた。
デカイ!2mを超す筋骨隆々な男性がチンピラを睨んでいた。
もう腕なんか丸太みたいに太いし腹筋が無茶苦茶割れてるよ。
「よぉ、俺の妹が何かしちゃったかい?」
「あ、ホクト兄」
「ホクト……」
お兄ちゃんキターーー!!
もう100点満点の登場だよ。
一方あたふたしていたミズキちゃんは顔を真っ赤にして別の意味であたふたしていた。
「あーいや……」
「お兄、その人は神様なの。粘液を採取したい!ちょっと抑えてて」
「はぁ、またわけわかんねぇことを。お前は下がってろ」
現在、チンピラの心情がどの様なものか簡潔に述べよ。
解答、『あ、終わった』。だろうなぁ。
ぶーぶー文句を垂れるカノンちゃんをミズキちゃんが必死に席まで引っ張っていく。
そしてお兄ちゃんはチンピラの顔を覗き込み威圧を掛けながら言った。
「妹が迷惑かけたな。悪かった。あのな、この店は死んだばぁちゃんが経営してた大事な店なんだ。従業員も家族みたいなもんだしよ。ここは俺に免じて許しちゃくれねぇか?」
チンピラは震えながら無言でうなずく。
「ありがたいねぇ。こいつはさっき買って来たんだけどよ、迷惑料だと思ってとっといてくれ」
お兄ちゃんは手に持っていた棒状のパンをチンピラの口に笑顔で無理やりねじ込み始める。
いや、やる事鬼畜!!
「まぁ、でもあんたは幸運だな。俺が駆け付けるのがもう少し遅かったらさ、妹が『能力』でお前の腹に『穴開けた』かもしれねぇんだぜ?」
どうやらカノンちゃんは何かしら特殊な能力者らしい。
腰が抜けたチンピラは無様に地面を這いながら慌てて店から出て行く。
「あぁ、神様が……証明がぁ……」
「まったく。お前は相変わらず何やってるんだってハナシだぜ。ミズキも悪かったな。こんな妹に付き合ってもらって」
「べ、別に私は……私がついていながら止められなくて……それで、助けに来てくれてその……」
あらやだ、ミズキちゃんったら目が合わせられない状態だ。
もう見てるだけでキュンキュンしちゃうよ!!
もうガチで好きじゃん。従兄弟のお兄ちゃん大好きじゃん!
いや、わかるよ。このお兄ちゃんカッコいいもん。
「ミズキお前……」
お兄ちゃんがミズキちゃんに近づき見つめていた。
「え?何?何ですか?」
「お前まさか……」
お、気づいたかお兄ちゃん。
ミズキちゃんの健気な恋心に気づいたんだな?
「また胸がデカくなったか?」
0点!
登場の仕方100点なのに声掛けは0点だよこのお兄ちゃん!!
あっ、眉が吊り上がってる!ミズキちゃんが怒ってる!!
「ホクト、あなたって人はそうやって昔から女性の胸やお尻ばかり見て!あなたは今や地元の名士であるレム一族の一員という自覚に欠けているのです!小さい頃からあなたの不始末の尻ぬぐいばっかりさせられて!本当にあなたって人は!!」
「何だよお前!別にそんな事頼んでねぇだろ!」
「私が尻ぬぐいしないと大事になっておばさまに無茶苦茶怒られるでしょうが!」
ミズキちゃん、喧嘩してる!
気持ちはわかるけどそれダメ!!
「あーあ、やっぱり道のりは遠いなぁ」
カノンちゃんは呟きながらスティックシュガーを口に流し込んでいた。
やっぱ異世界ってすごいしなんかエモい。
このカフェ、癖になりそう……
実は今回登場したカノンは前回出たユズカの妹、ホクトは兄です。
更に話に出てきたヒイナ先輩は従姉にあたります。
中々混迷を極めた四角関係ですね。
ミズキちゃんが苦労人です。