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後編

相変わらず後編が長くなります。

 とある酒場にて

 6人の男女がテーブル席で向き合って座っていた。


「エイブリーです。病院で助手してます」


「リンジーです。警備隊に所属してます」


「ケイトです。ギルドで受付嬢をしています」


 かつて異世界人が逆輸入したされる『合コン』。

 この世界でも特に女性が恋愛に積極的であるナダ共和国においては爆発的な流行を見せ、下火になりつつあった結婚率を大きく上げ、人口の増加に繋がったらしい。


 さて、ケイトから死角になっている離れたテーブルででその様子を見守る男女が居た。

 彼女の弟、そして末妹である。


「今の所やらかしてはいませんね。以前の合コンでは自己紹介で躓いてましたから」


 恋愛偏差値の低い姉はあろうことか自己紹介の席で『攻撃系スキル』や『武器適性』を紹介していた。

 その中には『ほとばしる毒』など物騒なスキルまであり男性はドン引きだ。


「後ろ姿しか見えないが、いつ見ても姉さんは綺麗だなぁ。あれだけでご飯3杯はいける」


「本当にこのシスコンは……それにしても男性メンバーも爽やかそうなイケメンぞろいですわね」


「なぁ、リム。お前もやっぱりイケメンには弱いか?」


「顔が良い男性は見ていて目の保養にはなりますわ。ただ、弱いかと聞かれると否!ですわね。見た目が良くても中身が下衆な男もいます。それを見極めないといけないことはリリィ姉様の件でよく理解していますから」


「ああ、そうか。お前はわかってたんだな……」


 かつて彼女らの姉である次女は悪い男に恋をして酷く傷つけられたことがあった。


「何があったか気づいていないのはメールくらいです。それだけ、あの頃のお姉さまの状態は酷かったですから」


「…………ああ」


 確かに四女は能天気なので次女がどんな目に遭ったかは気づいてなさそうである。

 あの事件の事を思い出すと皆心を痛める。

 特に長男であるホマレにとって自分に原因があった為、あの出来事は別次元のトラウマである。


「いかんな。ちょっと気分が暗くなっちまった。姉さんは今は幸せなんだから、俺達が暗くなってたらいけない。よし、好きなものを頼め。今日は俺の驕りだ」


「ふふ、ありがとうございます」

 

 末妹は『元からそのつもりですけどね』という言葉は飲み込み礼を言うと微笑んだ。

 

 さて、合コンの席では女性陣が趣味を紹介していた。

 これは自身のアピールとして重要な場面である。

 料理が得意だったり、裁縫が得意だったり。

 特に警備隊のリンジーは無骨そうなイメージとのギャップを見せる事で男性陣の興味を引き付けていた。

 そしてついにケイトの趣味紹介が始まった。


「あたしは格闘技が得意なの。得意分野はドライバー系よ」


 テーブルの空気が凍り付いた。

 ついでに見守っていた方の空気も。


「ドライバー系が得意な女って何だよ……」

 

 長男は思わずテーブルを殴りつけていた。


「前に打撃系が得意って紹介した事を咎めたんですがどうやら根本がわかっていなかったようです……」


「お前、そういう事はちゃんと教えておけよな。相手はあの姉貴だぞ?」


「ええ、私の注意不足ですわ……」


 合コン席では更にケイトが暴走する。


「後、魔法使い系でもあります。得意魔法は『強酸魔法』です」


 更に空気が凍り付いた。


「何でだよ!そこは治癒魔法とかで女性らしさを強調だろ!!」


「でも嘘はついていませんわ。お姉さまは強酸魔法が得意です。後、治癒魔法は苦手だったはず」


「いや、だけどなぁ……お前、下手したら溶かされるかもしれない女って嫌だろ?」


 そうこうしていると皿に乗せられたチキンが運ばれてくる。

 もう一つの皿には絞ってかける様のリンゴが置いてあった。


「そ、それじゃあ、チキンにリンゴ汁をかけましょうか」


 流石に凍り付いた空気を察したのだろう。

 ケイトは慌てて女性らしさをアピールしようとしている。

 末妹は思った。『マズイ。ドツボにはまってる』


「あれいつも思うけど何でリンゴなんだろうな。普通レモンだろ?ていうか勝手にかけるのはどうかと思うんだけどな……」


「兄様は時々おかしなことを言いますね。チキンといえばリンゴでしょう?そう言えば以前、父様も似た様な事を言っていた気がしますが……」


 因みにこの男、転生者の子どもとして生まれた転生者だ。

 なので、この世界とは常識の認識に多少の差異がある。


「あれ?絞り器が無い。仕方ないわね……フンッ!!」


 ケイトは仕方なさげにリンゴを片手で握ると力を込め……クラッシュさせた。


「うわぁ、やっちまった。リンゴを片手で無造作にクラッシュさせるなんてもうこれ、怖がらせてしかいないじゃんか……」


「……これでは今回も惨敗でしょうね」


 仕方ない、と二人は運ばれてきた料理を食べながら合コンを見守っていた。


「ねぇ、あの男性達。何かやたら女の子にお酒を飲ませてません?」


「ああ。上手く隠してはいるが明らかに『潰そう』としているな」


 長男は思う。

 前世でもそういう輩というのは居た。

 これは『お持ち帰り』を狙っている。


 そして一瞬のスキをついて一人の男が錠剤の様なものを警備隊のリンジーの酒に入れるのが見えた。


「見ました?」


「ああ。薬をいれやがった!!」


 ここで、予想外の事態が起きた。


「あはは、そのお酒どんな味なの。ちょっと飲ませて―」


 陽気になったケイトがリンジーのお酒を横から奪って飲み始めたのだ。

 やがて彼女は薬が回り出したのかフラフラになりそのままテーブルに突っ伏してしまった。

 男たちは顔を見合わせたがやがて紳士を装いながらケイトを介抱し始めた。


「あいつら、何て真似を!」


 立ち上がり乗り込もうとした姉を妹が止める。


「連中が暴れたらお店に被害が出ます。外で抑えましょう」


□□

 お開きにした後の男どもの行動は素早かった。

 ケイトを家まで送ると言いながら肩を貸し、人気のない方向へと少しずつ移動していった。

 その後を二人は追いかける。


「吐き気がする連中ですわね。だから私は合コンなんかしたくないんです」


「完全に同意だ。とりあえずぶちのめして姉貴を奪還するとしようか」


 やがて男達はケイトを暗がりに連れ込む。

 兄と妹がその先を阻止するべく駆けだそうとした瞬間。


「ぐへぇぁっ!!」


 悲鳴と共に男が一人、暗がりから回転しながら飛び出してきて地面に倒れる。


「な、何だあの女!?手を縛ったのに何であそこまで動ける!?」


「クソッ、やっぱりあんな化け物女止めとくべきだった!!」


 男達が2人逃げ出してきた。

 ホマレは一人の腕を掴み柔道で言う釣込腰の形で投げて地面に倒す。


「悪いな。俺は凡人だけどよ。これくらいは出来るぜ?」


 リムは懐から出したメイスでもうひとりを殴打し倒した。


「硬くもなんともない、つまらないものを殴ってしまいましたわ」


「あらあら、追いかける手間が省けたわね」


 暗がりからはけろっとした表情の姉が出てきた。

 彼女は後ろ手に縛られていたが少しもぞもぞ動くとあっという間に拘束を解いてしまった。


「あれ、姉貴。もしかしてあんた……」


「何か変な薬を入れるのが見えたからね。それで、最近お酒に薬を盛って女の子にひどい事する連中がいるって聞いたのを思い出して。それでわざとあのお酒を飲んでやったのよ」


「そうだったんですの……で、でも薬は飲んでしまったのに」


 するとケイトがペッと口から何かを吐き出した。

 小さなカプセルの中には溶けかけの錠剤が。


「結界魔法でくるんで口の中に残しといたのよ。多少の毒物なら無効化出来るけどダメだった時困るしね。それにしても、あたしって本当、男運ないのね……」


「お姉さま……」


「大丈夫。姉さんには俺が付いて……ぐはっ!!」


 末妹は空気を読まない兄の足を力の限り踏みつけ悶絶させた。


「む?リュシトーエでは無いか」


 背後からっ掛けられた声にリムの顔が曇る。


「私を本名で呼ぶって事は……イザヨイさん、あなたですわね?」


 眼光が鋭く彫りが深い長身痩躯の男がそこに立っていた。

 彼の名はイザヨイ。かつてリムの母親、メイシーに仕えていたアカツキという男の息子だ。

 現在は警備隊に勤めており、年齢はケイトより2つほど下である。


「その名で呼ばれる事はあまり好きでは無いと何度言えばわかるのですか」


「そうは言ってもな……おや、ホマレとそれに……!?」


 不意にイザヨイの顔が赤くなる。


「お、おお。ケイト『殿』では無いか!」


「久しぶりね、イザヨイ。丁度良かった。このバカな男達をしょっぴいてくれないかしら?合コンで薬を盛ってお持ち帰りをしようとする卑劣な連中よ。証拠はこの薬」


「むぅ。最近噂になってる卑劣漢共か……む、合コン?もしやケイト殿、合コンに参加していたのか?道理でその、可憐というか……いや、今のは忘れてくれ構わんぞ。はは……」


 明らかに視線が泳ぎ挙動不審なイザヨイの様子を見た長男と末妹は顔を見合わせる。


「なぁ、妹よ。俺が思うにイザヨイのあれって……そういう事、だよな?」


「え、ええ……そしてお姉さまが何も気づいていないって所までセットですわね」


 灯台下暗し。

 実の所、彼女はこの他にも幼馴染のセインから想いを寄せられていたりする。


「何処かにあたしを好いてくれる男って居ないかなぁ」


「あ、相手をお探しか?そ、それなら……」


「え?誰か紹介してくれるの?」


「いや、その……」


 ただ、残念な事に彼らの好意に全く気付いていないのだった……


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