前編
「あたし、今夜合コン行ってくるから!!」
バッチリと化粧とおしゃれを決め込み宣言するのはこの家の長姉ケイト。
その様子に末妹であるリムは一抹の不安を感じずにはいられなかった。
「あの、お姉さま…………その、『また』、合コンですの?」
「ん、『また』?え、それってどういう事?」
「ああ、いえ……」
姉は今月になって既に3回も合コンに行っている。
ちなみに『合コン』彼女らの父親が居た異世界からの転生者が広めた文化らしい。
元々、姉は恋人候補を探して時折合コンに参加する人であったが最近のペースは早すぎる。
やはり前節に三女が結婚して家を出た事で危機を覚えたのだろう。
その前年には次女が結婚した上、現在は子どもまで生まれている。
二人とも元々彼氏が居てそこから進展しての結婚だ。
しかしケイトにはそもそも彼氏自体が居ない。
そう、進展以前の問題なのだ。
「警備隊の友達がセッティングしてくれたのよね。だからさ、今日こそは勝つ!!」
だからまずは彼氏を見つけようと躍起になっているわけだが……今の所、戦績は惨敗である。
長姉は冒険者ギルドの受付嬢という、この世界においてとんでもないモテ職業についている。
放っておいても男性がホイホイ来るというのが受付嬢である。
そんな勝ち組職でありながら合コンで惨敗するにはそれなりの理由がある。
「それでしたら妹として助言をさせてください。まず、そのアクセサリーは止めましょう」
末妹は姉が手首に嵌めている武骨なブレスレットを指した。
早速減点ポイントを発見したのだ。
「え?」
「それ、外してみてください」
首を傾げながら姉がブレスレットを外す。
「では、それを庭に投げてみてください」
「ほいほい」
姉が投げたブレスレットが地面に落ちた瞬間。ドスッ!と鈍い音と共にブレスレットがめり込んだ。
やはり。異様な重さの装飾品だった様だ。
「ほらやっぱり!お姉さま、トレーニング器具をブレスレット代わりになんかしないでください!!」
「ち、違うわよ。あれはおしゃれとトレーニングを兼ね備えた高機能装飾品であって……」
「あの武骨さは全然おしゃれじゃありませんけど……では聞きますがあれの重さはどれくらいありますの?」
「えーと……『片方40kg』かな?」
姉の言葉に末妹は思わず気が遠くなった。
「あのですねぇ。左右で80kgの重りをつけた戦闘部族的な女性を誰が口説くのですか!?」
「えー」
リムはこの事態に頭を抱えた。
長姉は間違いなく美人だ。面倒見も良く、気も効く。
頭も良い。学校を首席で卒業しているくらいなのだ。
運動も出来る。魔法使いでありながら格闘家としての一面も持ち合わせている。
仮に魔法を封じられても肉体言語が火を噴く。
まさしく文武両道を地で行く存在であり自慢の姉である。
ただ、ひとつ致命的とも言える欠点があった。
それは恋愛偏差値が異常に低いのだ。
異性が思わず身を引いてしまう様な脳筋言動が多々見受けられるのだ。
恐ろしい事に、他人の恋愛についてはその限りではない。
次女の恋愛をサポートしている時は至極まともなアドバイスを送っていた。
だが自分の事となるともうダメなのだ。
天は二物を与えず、とはよく言ったものだ。
だが出来れば彼女に恋愛の才能は与えてあげて欲しかった。
「まあ、確かにあの重さはやりすぎだったわね。そうよね、トレーニングしつつ彼氏を見つけようだなんて欲張りすぎよね。ありがとう、リム。それじゃあ、未来の旦那探しに行ってくるわ!!」
元気よく出て行った姉を見送りながら末妹は小さくため息。
絶対何かやらかす。姉はそういう人だ。
「やはり心配ですね。というわけで様子を見に行きますよ、お兄様」
「ほほぅ。俺の気配に気づくとは腕を上げたな妹よ」
柱の陰から長男であるホマレが姿を見せた。
かつては神童と呼ばれた兄だったがある日を境に凡人になり果ててしまった。
まあ、神童であろうが凡人であろうが関係はない。
彼が兄であり、大切な家族であることは間違いない事実なのだから。
むしろ、神童でなくなったおかげで身近な存在になったとも、リムは感じていた。
「馬鹿な事言ってないで真面目にお願いしますわ。お兄様も変な男が義理の兄になるのは避けたいでしょう?」
「モチのろんってやつだ。俺が認めた男以外がケイト姉さんに清らかな体に触れるのは許せんからな!そもそも姉さんに最もふさわしいのはこの俺だが、そこは涙を呑んで眼を瞑る必要がある。さりとて……」
「はぁ、本当にシスコンなのですから……」
この兄もまた、残念である。
神童と呼ばれていた頃からそうであった。ともかく『シスコン』なのだ。
よく『姉さんと結婚する』『妹と結婚する抜け道、無いだろうか』と口走っていた。
当然、そんな抜け道は無い。法整備もその辺しっかりしている国なので血の繋がった兄弟姉妹の婚姻は認められていない。
次女が結婚した時は祝福していたが後で血の涙を流しているのを見つけリムは『ダメだこの人。早く何とかしないと』と思ったものだ。
「もう何というか、本当に不安しか無いですわ……」