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フラウさん頑張る

「まさかフラウとマールがそんなに仲良くなっていたとはな」


 アラン様は私とフラウさんに順番に視線をやり、そう呟きました。


「実は私、フラウさんと一緒に住んでいるんです。フラウさんはとても親切にして下さっていて、とても助かっています」


 ここぞとばかりにフラウさんのいい人アピールをする私。

 さあフラウさん、私に続いて畳みかけて下さい!


「ア、アハハ、ソウデスワネ…………」


 ダメだこりゃ…………。

 フラウさんはアラン様を前にして完全に固まっていました。分厚いキャラを張り付けなければ好きな人とまともに話せないなんて、フラウさんはなんて乙女なのでしょうか。しっかりしてください。


「というと、エーデルワイス館か。あの立派な庭園も気が付けば久しく見ていない。そうだ、今度訪ねさせて貰っても構わないか?」


 アラン様はそう言って館の主であるフラウさんに目を向けます。フラウさんは肩を縮こまらせながら顔を引き攣らせるという器用な芸当を披露しました。ダメそうです。


「え、ええ…………いつでも大丈夫ですわ…………」


 素の状態で話すという目標は諦めたようで、フラウさんはいつものキャラに戻ってしまいました。

 まさかフラウさんがここまで話せないとは。流石に想定外でした。


「そういえば、アラン様とフラウさんは幼馴染なんでしたよね? 二人ともどんな子だったんですか?」


 私は二人の過去の事に水を向けました。

 アラン様は昔を思い出すように顎に手を当てています。フラウさんもキャラを被って少し余裕が出て来たのか同じようにしていました。


「フラウは…………活発な子だったな。小さい頃は会う度に外で一緒に遊んでいたよ。だが、ある時期を境に急に大人しくなった。他の者より大人になるのが早かったのかな。そうなってからはこうして落ち着いて話すことも少なくなってしまった気がするよ」


 ああ…………アラン様の話を聞いて、私は涙が出そうになりました。

 きっとフラウさんは大人になったのではなく、その頃にアラン様の事が好きになってキャラを演じるようになってしまったのですね。幼きフラウ少女の葛藤を想像すると、目から熱いものが流れそうになります。





「私はそろそろ失礼しようと思うが…………二人は?」


 アラン様は腰を浮かせながらそう言いました。


「私たちはもう少しゆっくりしていこうと思います。()()()もありますから」


「反省会?」


「いえ、こちらの話です」


「そうか。では、あまり遅くならないようにな」


 そう言うとアラン様はカフェから出ていきました。


 さて。


「フラウさん」


 私は下を向いているフラウさんに声を掛けました。


「…………言わないで。分かってるから。言わないで」


 フラウさんはとてもとても落ち込んでいるようでした。「はあ」と大きな溜息がカフェに響き渡ります。


「…………まあ分かってるならいいですけど」


 私は腕を組んで大きく息を吐きました。


 まともに話す事すら出来ないフラウさんを、どうやってアラン様とくっつければ良いのでしょう。

 答えのない問いにぐるぐるぐるぐると思考が同じところをループします。


 「このままではダメだろう」という強烈な実感。今までは何とか自然な流れで二人をくっつけようと思っていましたが、多少強引な手を使わないと二人の仲は進展しないのかもしれません。


「うーん…………あ、そうだ。フラウさんこうしませんか」


「?」


 名案を思い付きました。

 ピッと指をあげた私を泣きそうな顔のフラウさんが見つめてきます。


「これから毎日────アラン様と話す練習をしましょう」


 何事もまずは練習ですよね。





「ほら、もっと目を見て!」


「うう…………無理よこんなの…………」


「泣き言言わない!」


 翌日の放課後、僕たちは早速エーデルワイス館で特訓を開始していた。

 ダンスパーティまでは時間がない。


 「いきなりアラン様は無理だ」と泣き出すフラウさんを尊重してまずは僕がアラン様の代役をやっているのだけれど…………フラウさんはそれでもうまく話せなかった。


「はい、もう一度。僕の目を見て下さい」


「う、うん…………」


 恥ずかしがりながらもじっ…………と僕に視線を合わせるフラウさん。宝石みたいな真っ赤な瞳が真っすぐ僕を捉えた。


「じゃあ僕をアラン様だと思って、まずは簡単な挨拶をしてみて下さい。勿論キャラに逃げるのはナシですからね」


「あ、挨拶ね、分かったわ…………えっと…………お、おおお、おはようございますアラン様っ」


 うーん…………。

 フラウさんの顔面があまり人様に見せられない状態になっていることを除けば、一応喋れてるし大丈夫か…………?


「とりあえず合格にしましょう。内容的にキャラ作ってるのかどうかも分からないですしね」


「ほっ…………」


「じゃあ次はダンスパーティの相手に誘ってみましょう」


「だだだだダンスパーティに!?」


「そうです。最終的な目標はそこですからね。はい、お願いします」


「……………………アラン様ッ!!?! えっとえとエト…………ダンス…………パーテぃ…………」


 もごもご。


 もごもごもごもご。


 どうやら先は長そうです。

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