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フラウさんはダメそうです

「僕はフラウさんにも問題があると思うんですよ」


 アラン様が放課後に僕を訪ねて来た日は、フラウさんは必ず僕の部屋のベッドに座って僕の帰りを待っている。この日も不安そうに僕を待っていた。きっと、「僕とアラン様がくっついてしまったんじゃないか」と心配しているんだろう。僕は男なのでその可能性はない。


「一体何が問題だっていうのよ」


()()ですよ」


「それ?」


 姿見の前で制服を脱ぎながら話す。フラウさんは初めの頃こそ僕が脱ぐだけでキャーキャー騒いでいたのに、今や目もくれない。男の裸なんてすっかり見慣れましたわウフフフフ。いつの間にか僕は一人の公爵令嬢を汚してしまったのかもしれない。


「フラウさんの魅力って、その歯に衣着せない態度じゃないですか」


「…………アンタ、喧嘩売ってる?」


「売ってないですよ」


 スカートを落とすと、用意していたナイトドレスに着替える。家から持ってきた服もあるのだけれど、グレイシア家が用意してくれたものの方が着心地が良かったので、最近はすっかりこのナイトドレスばかり着用していた。このドレスを着用するとフラウさんと色違いのお揃いさんになり、気分はすっかりグレイシア家の次女である。


「フラウさん、はっきり言って…………今のままじゃフラウさんには全く脈がないですよ」


「うっ…………」


「フラウさん自身、どう考えてるんですか? アラン様との事」


 言いたくないが、ここは言うしかない。

 アラン様とフラウさんをくっつけるにはどうすればいいか────その事について僕は何度も頭を悩ませたけれど、効果的な策は全く思いついていない。それも全部アラン様にとってフラウさんが『ただの知り合いの一人でしかない』ことが原因だった。せめて仲のいい友人であってくれれば、会話の中で話題に出す事も出来るのだが、今はそれも出来ていない。


 結果として、僕とアラン様の仲が深まっていくだけなのが今の現状だった。


「そ、そりゃあ…………私だってお話したいわよっ。でもアラン様はアンタに会う為に来てるんだし。私なんかが話しかけたら…………迷惑、なんじゃないかって…………」


 フラウさんはベッドのシーツをギュッと掴んで俯いてしまった。


 …………僕に対しては『バカ』だの『アホ』だの『ヘンタイ』だの言いたい放題なのに、どうしてアラン様にだけはこう、しおらしいのか。恋をすると人間は別人になってしまうらしい。僕も恋をしたらこうなっちゃうのかな。


「それでも話しかけないと何も変わりませんよ…………ほら、僕って結構フラウさんの事好きじゃないですか」


「ヴぇッ!? いいいいきなり何なのよッ!? 告白っ!?」


「違いますよ。それで、僕が知ってるのって素のフラウさんだけなんですよね。だから素のフラウさんにはちゃんと魅力があると思うんですよ。僕がアラン様だったら少しは気になると思うんです」


「うー…………」


 フラウさんは僕の言葉を告白と勘違いしたのが恥ずかしいのか、顔を赤くして唸っていた。


「とにかく、僕としてもダンスパーティでフラウさんとアラン様に踊って貰いたいんです。でも今のままでは流石に無理です。僕も頑張りますから、フラウさんも勇気を出してください。いいじゃないですか、どうせダメだと思えば。ダメで元々、ダメ元ですよ」


「何がダメ元よ! …………でもまあ、アンタの言う通りだわ。今のままじゃ流石にダメよね…………」


 フラウさんは何かを決心したように小さく頷いた。


「そうと決まれば、早速話してみましょうよ」


「話すって…………一体誰と?」


「そりゃあ勿論、アラン様ですよ」





 私とフラウさんが待ち合わせのカフェに入ると、まだアラン様は到着していないようでした。

 もたもたしているとフラウさんが緊張で泡を吹いてしまいそうだったので、放課後になった瞬間にカフェに移動したのですが、早すぎたかもしれません。まあ待たせるよりは良いでしょう。


「マ、マールさん…………本当に来るの……?」


「ええ。覚悟を決めて下さいな」


 フラウさんは席に座ると、借りてきたセレスティアキャットのように背筋を伸ばしてカタカタと震えています。素を出す、というのが目的のはずですが、これではキャラを作っている時より酷いですね。アラン様が来てもまともに話せないだろうな、という確信が持てます。


「幼馴染なんでしょう? 何を緊張する事があるんですか。ほら、深呼吸して」


 私の呼びかけにフラウさんはスーハー、と深呼吸を繰り返しますが効果はあまり無いようでした。


「ねえ、今日はやっぱり辞めに────」


「すまない、遅れてしまった」


 フラウさんが何やら弱気な事を言おうとしていた気がしますが、それを遮るようにカフェの扉が開き、アラン様が入ってきました。

 このカフェは基本的に貸し切りなので他の客はおらず、アラン様は一直線に私たちのいるテーブルに向ってきます。


「アラン様、今日はありがとうございます」


「いや、こちらこそ誘ってくれて嬉しいよ。それにフラウも。こうしてちゃんと話すのは久しぶりだな」


「エ、エエ…………ソウデスワネ…………」


「? どうした、体調でも悪いのか」


「イ、いえ…………問題ありませんわ…………」


 フラウさんは早くもダメそうですが、こうして私たちにとって大切なお茶会の幕が開きました。

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