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ダンスパーティ?

「────で、言った通りにやったのよね?」


 セレスティア王立学院内のカフェには二つの人影があった。

 その中の一人、マリーはティーカップを優雅に口に運びながら後輩のジョゼットに尋ねた。


「ええ…………言われた通り黒板に書きました。ショックは受けているようでした」


「そ。それならいいのよ」


 マリーはその報告を聞き、胸の中が充足感と快感で満たされるのを感じた。黒板に書かれている自分の悪口を見た瞬間の、顔も知らぬマールという新入生の気持ちを想像するだけで口の端が緩みそうになる。それはマリーの性格を本質的に表していた。


「まあこれで懲りるようならいいわ。私もわざわざ田舎者を退学に追い込むほど、暇じゃないもの」


 満足そうなマリーを見て、ジョゼットはホッと胸を撫でおろした。そしてその後、マールがアラン様との事を諦めてくれることを祈った。

 ジョゼットはマールの事が嫌いではない。容姿は整っているし、子爵令嬢にしては立ち振る舞いも落ち着いている。授業の様子を見る限りどうやら頭脳も明晰らしい。マリーとの事が無ければ是非とも友人になって欲しいくらいだった。


(…………それも、もう過ぎた願いか)


 ジョゼットは自分がした事の意味を正しく理解していた。例えそれがマリーに言われて仕方なくやった事だとしても、到底許されることではない。マールと友達になりたい、などと一体どの口が言うのか。ジョゼットは自分を戒めた。

 それにそもそも、マールとアラン様の事をマリーに伝えたのは他ならぬジョゼットだ。例えいい思い出が無かったとしても長年の知り合いに義理を立ててしまう、その実直さがジョゼットの長所であり、同時にジョゼットを苦しめていた。


(どうかこれ以上マールに酷い事をしないで済みますように)


 ジョゼットは心の中で、誰にともなく祈るのだった。





「…………ダンスパーティ?」


 先生が言った言葉を、私は繰り返しました。


「セレスティア王立学院では入学してから一か月後に新入生をメインとしたダンスパーティを執り行うのが慣例です。新入生はこのダンスパーティをもって正式に学院の生徒と認められる、とても重要な行事となりますので、余程の事情が無い限りは必ず参加するようにしてください」


 先生は続けます。


「通常、ダンスの相手は上級生がランダムに務めますが『特定の相手が良い』という場合はその希望が優先されます。既に婚姻関係を結んでいる場合などもありますからね」


 頭の中で既にフラウさんかアンナさんと踊ろうと考えていた私は、すっかり出鼻を挫かれてしまいました。先生の口振りから察するに、どうやら相手は異性になるようでした。そりゃそうですわよね。ダンスってそういうものですもの。


 「異性だったら女性じゃないか」そう思いもするのですが、今の私はマール・フォン・グリーンウッド。どこからどう見ても女性です。つまり男性と踊らなければいけません。


「気が進まないな…………」


「お姉さま、ダンスは苦手なのですか?」


 つい漏れてしまった私の独り言に返信がありました。

 声のした方を見ると、隣の席のアンナさんが興味深そうに私の事を見ていました。


「いえ、そういう訳ではないのですけれどね…………男性と踊るのが、あまり気が進まなくて」


「ふふっ、分かります。私も『出来ればお姉さまと踊りたいな』って思っちゃいましたから」


 そう言ってはにかむアンナさんは私の大切な妹です。正直もう、目に入れても痛くない所まできています。そんなアンナさんもダンスパーティでは年上の男性と踊ることになる。それを想像しただけで、私はとても嫌な気持ちになりました。

 誰だお前は!

 お前みたいな馬の骨にうちのアンナはやらん!

 そんな気分でした。


「…………あれ、でもお姉さまはアラン様とお踊りになるのでは?」


「うっ…………」


 アンナさんの言葉に、私は現実に引き戻されます。

 そうでした…………上級生という括りには当然アラン様も入っています。これは自惚れでは無いと思うのですが、近いうちアラン様は私のダンスパーティの相手を務めようとするでしょう。「マール、君のダンス相手を務めたいんだが」そう言って教室を訪ねてくるアラン様がありありと想像出来ます。


 今の所、私とアラン様の関係は知ってる方は知っているもののまだ大っぴらにはなっていない、そんな感じでした。けれどダンスパーティで踊ってしまっては大々的に知られることになってしまいます。それは私の望む所ではありません。私の使命はフラウさんとアラン様をくっつけることなのですから。


「それは…………どうかしらね」


 アンナさんの疑問に曖昧に答えながら、私はフラウさんに視線を向けました。


 フラウさんは先生の方に真っすぐ視線を向け、話に聞き入っていました。膝の上に乗せた手が、ぎゅっと握られています。一体、何を願ったのでしょうか。私には分かる気がしました。


 ────安心してください、フラウさん。あなたの願いはきっと私が叶えます。

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