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影武者誕生

女装主人公が好きなので、頑張ってもらうことにしました。

書き溜めがあるのでしばらく毎日投稿の予定です。


よろしくお願い致します。

 私…………ロズウェナ・フォン・グリーンウッドはグリーンウッド子爵家の()()としてこの世に生を受けました。


 …………長女ではありません。長男です。


 春から私は()()()()()学院に通うことになるので、その為のトレーニングの一環として女性らしい話し方というものを実践しているのです。…………どうでしょうか。あなたには可憐な子爵令嬢の幻が視えていますか?


 視えていたらとても嬉しいです。お父様に叱られずに済みますから。


 さて、私には双子の妹がおります。その名をマール。とても愛らしく、誰からも愛される天使のような妹です。


 そして我がグリーンウッド子爵家の次期当主は妹のマールです。それは私達が双子として産まれたその時から決まっていました。


 とある理由により当主になる資格を持たない私は、この人生を妹のために捧げる────それがお父様から言いつけられた唯一の命令です。


 そのことに、私は何の不満もありません。兄として可愛い妹の幸せを願い、その為に身を粉にして尽力することに何の不満がありましょうか。


 話を戻しまして。


 私が通うことになるセレスティア王立学院に元々通う予定だったのは妹のマールでした。私は世間的には存在していない、いわゆる隠し子なので、グリーンウッドの名を背負って学院に通うことなど出来ませんからね。


 しかし、マールはこの冬に大病を患ってしまいました。幸い命の危険はない病気でしたが、それでも一年は療養に充てなければいけません。春から学院に通うことは誰の目から見ても不可能でした。グリーンウッド家お抱えの医者が床に臥せるマールの傍で残念そうにかぶりを振ったのを、今でも夢に見ます。


 マールの病は不幸なタイミングではありましたが、普通であればまた翌年入学すれば済む話です。病気であれば仕方がないですから。それで変な目で見られるようなことは、少なくとも貴族の間ではありません。


 …………ですが、この小さなグリーンウッド家においてはその『普通』が適用外だったのです。


 セレスティア王立学院はセレスティア王国で最も古く、そして権威のある学院です。その威光は王国内に留まらず、周辺国の貴族達ですら自国の学院ではなく「我が息子娘を是非ともセレスティア王立学院に」と少ない席を取り合っているのが現状です。


 そして貴族たちがどうやってその席を取り合っているのか────それは貴族が最も重要視し、そして誰も逆らえない唯一の理。


 ────そう、『爵位』です。


 かつては王国中の才子才媛を集め、学術の粋を極めたセレスティア王立学院は────今では権力の象徴となり、貴族階級に生きるものにとって最も大切な『箔』をつける機関に成り下がっていました。


 …………悲しいことに、そんな権力争いに勿論我がグリーンウッド子爵家も無関係ではいられません。


 しかし、とうの昔にセレスティア王立学院は田舎の小さな子爵家であるグリーンウッド家が通えるレベルではなくなっていました。それでも妹のマールが学院に通うことが出来るのは、グリーンウッド家の先代と代々学院の理事長を務めるローレンティア公爵家の先代が無二の親友だったからだと聞いています。有り体に言えば『コネ』というやつです。


 …………しかしそれも先代の話。今のグリーンウッド家には、先代の絆を除けば懇意にしたくなるような魅力は、はっきり言ってありません。ローレンティア公爵家も、本当はグリーンウッド子爵家の娘など入学させたくはないでしょう。マールの入学が許されたのは、僅かに残った先代の力の最後の大仕事だったに違いありません。


 そんな事情がありましたから、お父様も『娘が病気に罹ったから、入学を来年にさせてくれ』とは言えませんでした。少しでも先方の気が変わって「その話は無しで」となることを恐れました。そもそも天の上の存在にも等しい筆頭公爵家とまともに会話をする手段もありません。


 私がこのような事情を知ったのは、まだ自らを『僕』と呼称していた、とある昼下がりの事でした。





「────ロズウェナ。お前は来年からマールとしてセレスティア王立学院に通え」


「────────は、────」


 お父様から告げられた言葉────それは僕にとって勅命と同義だ────の意味が分からず、僕は固まってしまった。


 いや、意味は分かる。マールが学院に通うことが難しくなってしまった事は、グリーンウッド家にとって今最も重大な問題だ。お父様がその解決に頭を悩ませていることは僕も知るところだ。


「────返事はどうした」


 お父様の重厚な声色に呼応するかのように、ピリピリとした空気が部屋に満ちる。


 お父様の言葉には全て肯定で応えなければならない。それは僕が幼少期から言われ続けてきたことだ。

 例えお父様の言葉の意味が全く理解出来なかったとしても、僕にその意味を問うことなど許されていなかった。


 だけど、それでも今回は流石に直ぐ首を縦に振ることが出来なかった。


 …………マールとして?


 言っている意味が、本気で分からない。お父様は一体何を言っているんだろうか。


「…………申し訳ありません。お言葉の意味が分かりかねます」


 お父様の中に、この当主の資格を持たない愚息にも僅かながら親愛の情が残っていることを期待し、僕は幼少期以来に肯定以外の言葉を返した。


 けれど。


「…………ロズウェナ。私はお前の育て方を間違えたか」


 お父様の重く厳しい声が乾いた空気に伝播する。


「いえ……そんなことはありません。僕は十分な教育を受けさせて頂きました」


「ならば、この場で発するべき言葉が何か、分かるはずだな」


 鷹のような鋭い眼光が僕を射抜く。僕はお父様のこの目で見据えられると、どうしても萎縮してしまうのだった。


「…………はい。心得ております…………」


 僕は男で、マールは女の子だ。


 確かに僕たちは双子で、顔はびっくりするくらい似ている。昔から勤めてくれているメイドさんに聞いたら、若い頃のお母様によく似ているらしい。僕たちは二人とも母親似だった。


 それでも、使用人さんたちに間違えられたことはなかった。髪の長さも違うし、声だって今は違う。体つきだって少しづつ変わってくるだろう。見る人が見れば分かってしまうんだ。


「…………ですが、本気で僕がマールの代わりに学院に通えるとお考えでしょうか?」


 普通に考えれば不可能だ。そして、露見した時にグリーンウッド家が受けるダメージは計り知れない。あのセレスティア王立学院を欺くことになるのだから。


「通えない、は許されない。お前はマールとしてセレスティア王立学院に通い、マールの病気が完治するまでの間その正体に気付かれることなく、無事に学院生活を完遂しなければならない。これは最早、我がグリーンウッド家にとって避けては通れない事だ。当然、最大限の対策は施す」


 話は終わりだと言わんばかりにお父様が席を立った。


「詳細は追って伝達する。話は以上だ」

読んで頂きありがとうございます。


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