040話 Eランククエスト:薬草採取
勇者パーティーの賢者に探りを入れられることになった俺たちだが、それで冒険者としての活動を止めるわけにはいかない。
そもそもここで逃げ隠れするのであれば、さっさと冒険者として成り上がるのを諦めて辺境でひっそりと暮せばいい話なのだ。
そんなわけでフェリクスと別れた後、俺たちは冒険者ギルドで手頃な依頼がないか探していた。
ギルドの掲示板には、依頼の内容を書いた紙がずらりと並んでいる。
この中から受けたい依頼の紙を取って、受付で申し込むのが流れだ。
「当初の予定通り、危険の少ない依頼を優先して受ければ問題ないだろう。俺たちは全員Eランクだから、レベルの低い依頼ばかり受けたとして、それが理由で疑われるはずがないからな」
「あっ、この薬草採取のクエストなんてどうですか? 低層の採取場所から薬草を取って帰るだけみたいですよ!」
ラミリィがEランク向けの簡単な依頼を見つける。
確かにその依頼なら、危険な魔物に遭遇する可能性は低そうだ。
「他にEランク向けの依頼はなさそうだし、これにするか」
俺は依頼を受けるために、薬草採取のクエストが書かれた紙を掲示板から取った。
そこに、嫌な男が話に割り込んできた。
「クハハハハッ! お前らやっぱり、その薬草採取のクエストを受けるのか!」
<黒衣の戦士団>クランの一員、<闇討ちのゴメスダ>だ。
「俺たちに何のようだ? 金なら払わないと前に言ったぞ」
「ほう。俺たちに対して、まだそんな強気な態度が取れるんだな。まあ別に構わないけどよぉ。考え方は人それぞれだもんなぁ。俺としても、個人的にはお前たちの新たな門出を応援したいけどよぉ」
「だから話が回りくどいんだよ。何が言いたい?」
「薬草採取といったら町人が小遣い稼ぎでやるような依頼だぜ? とーっても簡単なやつだ。もしもだぜ? お前たちがそんな簡単な依頼さえも出来ないようなら……お前たちには冒険者としての才能が無いってことだよなぁ。そうなるよなぁ?」
<闇討ちのゴメスダ>はバカにするように、ねっとりとした口調で言った。
ラミリィがその挑発に乗ってしまった。
「あたしたちをバカにしないでください! 薬草採取なんて、絶対に成功します!」
「おっ、言ったな? じゃあもしも薬草採取の依頼に失敗したら、今度こそクラン脱退の手切れ金をしっかり払ってもらうぜ?」
「待てよ。なんで俺たちが一方的に不利な条件を呑まなくちゃいけないんだ」
「おっと、もしかして自信ないのぉ? カイちゃんよぉ。薬草採取なんて、子供でも出来るお使いだぜぇ? それを失敗しちゃうかもって、怖がってるのかぁ? だからお前は万年Fランクなんだよぉ!」
「勝負は公平にいこう。もし俺たちが薬草採取のクエストに成功したら、これ以上俺たちに付きまとうな。この条件が飲めるなら、その勝負受けてやる」
こちらとしても、<黒衣の戦士団>と揉めている冒険者というイメージは早いところ払拭したい。
<闇討ちのゴメスダ>は一瞬悔しそうな顔をしたが、すぐにほくそ笑んだ。
「いいだろう。お前らが薬草採取のクエストに成功したら手切れ金の話は無しだ。だが、失敗したらどうなるか……覚悟しておけよぉ?」
ゴメスダはそう言うと、さっさと立ち去ってしまった。
ラミリィが不安そうに俺の顔を覗き込む。
「ごめんなさい、カイさん。あたしが挑発に乗っちゃったせいで……」
「いや、いいさ。それよりもあいつ、アッサリと俺達の条件を飲んだな。それだけ、何か策があるってことか……?」
そうして俺たちは手切れ金を賭けて、薬草採取のクエストをすることになった。
<黒衣の戦士団>が何を企んでいるのか分からない。
俺たちは入念に準備を整えてから出発した。
■□■□■□
ダンジョンの中には、<資源ポイント>という素材が大量に湧く不思議な場所がある。
たとえば採取ポイントには様々な薬草が生えていて、たとえ全ての薬草を採り尽くしても時間が経てばまたすぐに薬草が生えてくるのだ。
これが、冒険者が儲かる理由のひとつ。
ダンジョンは魔物が住まう危険な場所であると同時に、人類に素材の恵みを与える場所でもあるのだ。
そしてCランクダンジョン<深碧の樹海>は、サイフォリアの街付近にある唯一のダンジョンなだけあって、その浅層はほぼ探索しつくされている。
<資源ポイント>の位置は、ほとんどの冒険者が知っているのだ。
だから俺たちは簡単に薬草の取れる採取ポイントまでたどり着いた。
むしろ問題は、採取ポイントに着いてからだった。
「こいつらは……!」
採取ポイントは、黒い服を着た冒険者たちが占拠していたのだ。
「<黒衣の戦士団>!」
俺たちの声に気がついて、黒服の集団の一人がこっちを見た。
見覚えのある顔。
<闇討ちのゴメスダ>だ。
「ようやく来たか、カイちゃんよぉ。まあ採取ポイントといえば、真っ先にここに来るよなぁ」
「ゴメスダ! 資源ポイントの占拠はギルド協定違反だぞ!」
「占拠だぁ? おいおいおい、人聞きの悪い言い方はやめてくれよぉ! 俺たちはたまたま皆で薬草採取をしにきただけだぜぇ? ほら、ちゃんと並べば、お前らだって採取はできるんだぞ?」
ゴメスダはあごで人だかりを指した。
見れば確かに、冒険者たちが列をなして並んでいる。
その中には、黒服ではない普通の冒険者たちも混じっていた。
順番待ちをしろってことか。
「カイさん、どうするんですかこれ!」
「資源ポイントで順番待ちをするのは、別に違反じゃない。嫌な予感がするけど、素直に待つしかなさそうだ」
そうして俺たちは最後尾に並んだ。
だが、やはりというべきか、順番待ちの列は一向に進む気配がなかった。
こいつらはワザとゆっくり作業をして、俺たちの時間切れを狙っているのだろう。
薬草は需要が高く、薬草採取のクエストは毎日出る。
そのかわり、クエストの期限はその日の日没まで。
日が沈むまでに薬草を依頼主に届けなければ、俺たちの負けだ。
「ひ、卑怯ですよ! こんなマネ! ズルです!」
「おっと、難癖つけるんじゃねえぞ! たまたま今日は時間がかかってるだけだ。嫌なら別の資源ポイントに行ってもいいんだぜ? それとも、俺たちを力づくで排除するか? そのときはお前らが違反者になるけどな!」
「うぅ……! カイさん、どうしましょう……!」
別の資源ポイントに行ったとして、そこで妨害されない保証はない。
いや、<黒衣の戦士団>は大規模クランだ。
冒険者たちを動員して、この辺りの資源ポイントは全て封鎖していると考えたほうがいいだろう。
「行こう、みんな。ここで待っても時間の無駄だ」
けれども俺たちは、ひとまず採取ポイントから離れることにした。
「お? 帰るの? 帰っちゃうの、カイちゃんよぉ! 金の用意はしっかりしておくんだぜ、金貨20枚だ!」
背後からゴメスダのいやみったらしい声が聞こえてきたが、全て無視した。
そして離れた位置から、資源ポイントで必死に採取をしている冒険者たちを眺めた。
ゴメスダは俺たちを不思議そうに見ている。
「あぁん? なんでそんなところで止まった? 何を見てやがる?」
「なあ、あんたら。ちゃんと気配感知はしてるのか? いきなり魔物の不意打ちを受けたら危ないぞ?」
「何を言ってやがる……うわっ!? なんだっ!?」
ゴメスダの叫びと同時に、採取ポイントに魔物が乱入してきた。
冒険者たちは、その魔物の姿を見て戦慄した。
獅子の頭と山羊の胴体、そして蛇の尻尾を持つ魔物が、なぜかいきなり現れたのだ。
この辺りを拠点にする冒険者なら、ある意味では馴染みのある魔物だ。
「<野生化した合成獣>だとー!? 第2層のエリアボスが、どうしてこんなとこにー!?」
突然現れた強敵に、冒険者たちは慌てふためく。
「冗談じゃねえ! <野生化した合成獣>なんかに勝てるかっ!」
「安全な薬草採りをたっぷり時間かけて行うだけの任務って聞いたぞっ! どういうことだっ!」
そして冒険者たちは、戦おうともせずに次々と逃げ出していく。
「おい、待てっ! 逃げるな、お前らっ! ボスに言いつけるぞ! 留まって戦え!」
ゴメスダが必死に呼びかけるが、一度恐慌状態に陥った冒険者たちの逃走を食い止めることは出来ない。
「あわ……あわわわわ……!」
ゴメスダが<野生化した合成獣>に睨まれた時、すでに黒服の冒険者たちは居なくなっていた。
「ちくしょう、なんだってこんな時に限って、こんな魔物が襲ってくるんだよ!」
言いながら、ゴメスダも一気に逃げ出した。
その様子を、俺以外の仲間たちは呆然と見ていた。
最初に声をあげたのは、ディーピー。
「なあ、カイ。あれって、前に俺様が必死に戦った魔物だよな……。お前、もしかして……」
「何を言ってるんだ、ディーピー。俺たちは魔族と関わりなんてない。そうだろ? それよりも、採取ポイントが急に空いたぞ。人が戻ってこないうちに、薬草を集めよう」
そう、準備は入念に。
俺はゴメスダが妨害してくるのを見越して、あらかじめ採取ポイントを魔物に襲わせるよう魔族のメルカディアに頼んでいたのだ。
ディーピーは何が起きたのか正確に理解しているようで、俺のアイディアに呆れていた。
「カイ、お前ってやっぱ時々とんでもない発想するよな……」
ともかくこれで、薬草採取は無事にできそうだ。
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