017話 買い物
まとまった金が手に入った俺たちは、そのお金でラミリィの服を新調した。
「どう……でしょうか?」
冒険者向けの服を着たラミリィは、照れくさそうに控えめにポーズを取った。
そのしおらしい態度は、ちょっとだけ意外だった。
なんとなくラミリィはもっと、こういう時に嬉々として見せつけてくるような快活なイメージがあったからだ。
「うん、いいと思うよ」
「本当ですかっ! あたし、可愛いですかっ!?」
「うん、ラミリィはかわいい」
「そうですよね。そう聞かれたらそう答えますよね。なんか、言わせちゃってごめんなさい……」
本心を述べたつもりだったが、ラミリィは落ち込んでしまう。
いままで破れた服を着ていたのでマジマジと見るのは悪かろうと、しっかり見てこなかったが、改めて見るとラミリィはお世辞抜きで可愛らしい。
魔族のマーナリアのような妖艶な造形美というわけではないが、ラミリィには健康的な可愛さがあるのだ。
明るい橙色の髪を束ねたツインテールは、ラミリィの笑みをより朗らかに見せる。
それでいてしっかりと発育している肉体は、大人の魅力も醸し出している。
胸元を大きく開けたファッションはいささか扇情的な気もするが、本人が自発的にやったのであまり口を出さないようにしておこう。
「じゃあ、これで」
「お買い上げありがとうございます」
金を払い終えると、ラミリィが俺の手を握って、不安そうに言った。
「カイさん、この服の代金は、一生かけて返しますから! ですから、どうか……」
「その心配はいらないよ」
「えっ」
「このお金は、パーティーの共有資金にしようと思ってたんだ。分配をどうするかとか、決めてなかったからね。だから、パーティーのメンバーに必要なものを共有資金から払った、ただそれだけのこと。ラミリィが気にする必要はないよ」
「そう……ですか……」
安心させるつもりで言ったのだが、ラミリィはその表情に暗い影を落とした。
けれどもそれも一瞬。
すぐにラミリィは笑顔を浮かべる。
「それなら、その分もあたし頑張りますね! なーんちゃって!」
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まだお金に余裕がありそうなので、武具も新調することにした。
俺は<魔法闘気>を使わずに戦う時のための武器が必要だったし、ちょっと試したいこともある。
ラミリィもドズルクに襲われたときのいざこざで、自分の武器を失くしたとのことだった。
とはいえもちろん、オーダーメイドの装備を買えるほどの手持ちがあるわけではないので、俺たちが手にするのは型の使いまわしで作られた量産品だ。
冒険者の街であるサイフォリアには、そういった武具を扱う量販店が多数ある。
俺たちはその中のひとつにやってきていた。
ラミリィも共有資金という話に納得したのか、真剣な顔で武器を物色している。
「ラミリィは弓を使うのか」
「あっ、はい。まぁ……。故郷では、よく森に狩りに出かけて……」
気のせいだろうか。
微妙に歯切れが悪い言い方だ。
「それよりも! カイさんは大剣を使うんですか? てっきり格闘家なのかと思ってたんですけど」
そういえば<魔法闘気>で大斧のドズルクを倒したときは、素手で殴ったんだったな。
ラミリィの言葉通り、俺はいま大剣を握っている。
ちなみに得意な武器は、往々にして”天啓”のスキルが何だったのかで決まる。
大斧のドズルクは<大斧マスタリー>という大斧専用のスキルなので分かりやすかったが、他にも射撃武器専用のスキルを”天啓”で獲得したので弓使いの道に進むなんてこともありえる。
個人の嗜好に比べて”天啓”スキルの影響が大きすぎるので、どんなに弓が嫌いでも、”天啓”が弓系のスキルだったら得意武器は弓という扱いになる。
もちろん俺の場合は”天啓”がハズレスキルなので、得意な武器「特に無し」だ。
「ああ、これは違うんだよ。幼い頃からの憧れの冒険者が大剣を使っていたから、ちょっと気になっただけなんだ」
言いながら、俺は大剣を棚に戻した。
とくに使用武器に制限はないが、自分の身の丈だと大剣は不釣り合いなことぐらいは分かる。
「憧れの冒険者……ですか」
「うん、そうなんだ。あの人と出会ったから、俺は冒険者になろうと決めた。今の俺があるのは、あの人のおかげだよ」
そう言う俺を、ラミリィはもの哀しそうな笑みで見ていた。
手の届かない、けれども愛おしい何かを慈しむような、なんとも言えない顔だった。
またこの顔だ。
ラミリィは快活な人物だが、時折こうやって憂いを帯びた表情をする。
何が理由でそうなるかは分からないが、ともかくただの天真爛漫な少女というわけではなさそうだ。
「俺はこっちのショートソードにしておこうかな」
「そっちもカイさんに似合ってますね!」
「ラミリィはその弓でいいの?」
「えっ、あっ、はい! じゃあこれで!」
慌てながら、ラミリィは先程から持っていた弓をカウンターに置いた。
目が泳いでいた気がするけど、気のせいだろうか。
「あとは、矢も100本ぐらい買っておくか」
「100本ですかっ!?」
「足りなくなるよりはいいだろ。俺には<アイテムボックス>があるから、持ち運びも簡単だし」
「あー、まー、うーん。カイさんがそう言うなら、おまかせしましょうか」
そうして俺たちは剣と弓と矢を買った。
店員のやる気の無い「まいどありー」の言葉に送られながら、店を出る。
すると、ラミリィが俺の腕に抱きついてきた。
「どうしたんだ?」
「えへへっ、なんかこーしたくなっちゃったので、やっちゃいました!」
胸があたってるんだけど、という言葉が喉元まで出かかったが、すんでのところで抑え込んだ。
やりたいなら仕方ない。
ラミリィの豊満な胸の、柔らかい感触のことは、気にせず振る舞うことにした。
ディーピーが呆れた様子で「やれやれだぜ」なんて言ってるのも、聞こえなかったことにしよう。
「金はまだ残ってるし、パーティー結成の記念に、豪華な食事でも取ろうか」
「あっ、いいですねー! カイさんは、どんな食べ物が好きなんですか?」
この時、俺はまだラミリィのことを、スキンシップが積極的な少女ぐらいにしか思っていなかった。
日常回すき。