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016話 Fランク冒険者の日常

ここから2章です。


 古代魔法帝国が崩壊してからというもの、人類は衰退の一途をたどっていた。

 多くの村や街が魔物たちに襲われ、魔の領域に呑まれていった。

 かつて1つだった世界は分断され、人類はこのまま緩やかに滅亡していくかと思われた。


 状況が変わってきたのは、今から五百年ほど前。

 歴史上初めてのSランク冒険者、後の世に”冒険王”と呼ばれる男が失われた大地を”再征服”して、人類の生存圏を押し広げたのだ。

 それが、冒険者ギルドが興隆こうりゅうする「大冒険者時代」の幕開けだとされている。


 冒険者の使命は人類の再興。

 魔物たちを駆逐くちくし、魔の領域に呑まれた大地を取り戻すこと。

 そして、裏で暗躍する魔族たちを打ち倒すことだとされている。


 もちろん、その理念を心に抱いて行動している冒険者なんて、ほとんどいない。

 有り金をはたいて武器や防具を新調して危険なクエストに行くか、それとも安全な依頼で手堅く稼ぐかとか。

 ビールと子供の新しい服のどちらを切り詰めるかとか。

 そういうことに頭を悩ませているのが、普通の冒険者なのだ。


 それは俺たちも同じ。

 立場上はお互いFランクの俺とラミリィにとって解決するべき問題は、この世界のどこかで悪事を働く悪い魔族のことではなく。

 Fランクのままだとロクな依頼を受けられず、まともにお金を稼げないことなのだ。


 そんなわけで、心機一転してパーティーを結成した俺たちに待ち受けていたのは、Fランク冒険者の日常だった。



■□■□■□



 冒険者ギルドからの事情聴取を終えた俺たちは、ひとまず冒険者ギルドの裏手に回った。

 ギルドの裏手はちょっとした広間になっており、物資の搬入出や冒険者の訓練など、様々なことに利用されている。

 今は閑散としていて、人影はまばら。


「まずはラミリィの破れた服をどうにかしないとな」


 俺の渡したコートで隠しているので今は見えないが、ラミリィの服はドズルクたちに破かれたままである。


「うー。ここまでボロボロだと、縫い合わせるだけじゃごまかしきれなそうです。しばらく、みすぼらしい姿になっちゃいますね。ごめんなさい」


「いや、ここは新しい服を買おう。ラミリィも、あいつらに破かれた服をそのまま着続けるのは嫌だろう?」


「でもでも、あたしお金は全然持って無くて……」


「それは俺がなんとかするよ。とはいっても、換金してみないと何とも言えないけどね」


 そう言いながら、俺は密かに<アイテムボックス>に入れていた魔物の死体を取り出した。


「それって……」


「帰りの道でディーピーが倒した魔物を片っ端から拾ってたんだ。素材の部分を剥ぎ取って売れば、多少の金にはなるはずだ」


 邪魔にならないように魔物の死体を広げて、さっそく剥ぎ取りを始める。


 ドズルクのパーティーで荷物持ちをしていたときは、これが俺の仕事だった。

 他のメンバーは遠巻きに眺めるだけで、決して手伝おうとはしなかった。

 臭いし、汚れるし、なにより地味な仕事だからだ。


 けれども、ラミリィは違った。


「あの、あたしも手伝います!」


「汚れるけど、いいの?」


「だったらなおさら、カイさんにだけ、やらせるわけにはいきません!」


 そうして、パーティーを結成してから初めての共同作業は、剥ぎ取りとなった。

 まあ、俺たちらしいといえば、らしいのだが。



■□■□■□



 結論から言うと、剥ぎ取った素材は結構な額で売れた。

 俺たちは初めて手にする大量の銀貨に、恐れおののいた。


「いいんですか、こんなにたくさん銀貨があって!?」


 動転するラミリィ。

 まさかそれが、こんなにたくさんの銀貨を一度に持っても許されるのかという意味だとは思わなかったのか、素材屋は「色をつけておいたぞ」と答えた。


 きっと、相場よりも高く買い取ってくれたのだろう。


「損傷の少ない良質の素材だったからな。それに、剥ぎ取りも丁寧だ。いい仕事をするね、あんたら。最近はいい素材を手に入れるのが大変になってきてるんだ。また素材が手に入ったら、優先してうちにおろしてくれよな」


 先行投資というやつだろうか。

 なにはともあれ、褒められて悪い気はしない。


「ですって! さすがはカイさんですね! 結局剥ぎ取りは、ほとんどカイさんがこなしちゃいましたからね」


 俺とラミリィでは、剥ぎ取り作業のスピードに差があった。

 まあ、まがりなりにも俺は剥ぎ取りと荷物持ちだけして3年過ごしたんだ。

 年季が違う。

 ただ、冒険者として威張れることじゃない気がしたので、黙っておくことにした。


「ディーピーがほとんど一撃で倒してくれたのも大きいだろうな」


「そうですね! ディーピーさんも凄いです!」


 ラミリィが俺の肩で暇そうにしていたディーピーに言った。

 ちなみに冒険者の街であるサイフォリアは、魔物を連れて街中を歩いても問題ない。


 まあこの街の人たちは<死の銀鼠(デス・オコジョ)>なんて知らないだろうから、そもそもディーピーが珍しい動物だと思われてる可能性もある。

 そのディーピーは「俺様が凄いのは当たり前だ」と興味なさげに答えていた。


 魔物には人間の経済活動は退屈なのかもしれない。

 俺はというと、冒険者が1回の冒険で稼げる額を知って、正直驚いている。


 ドズルクが「依頼クエストに無い素材は安く買い叩かれるんだ」と言っていたので信じてしまっていたが、本当はそれなりの稼ぎになっていたんだ。


 あいつは当時の俺に、本当にはした金しか渡してなかったと分かり微妙に嫌な気分になったが、終わったことなので切り替えていこう。


「ともかく、このお金があれば買い物はできそうだな」


 まとまったお金が手に入ったのはありがたい。

 Fランクのままだと稼ぐのが難しことに変わりないが、それはおいおい考えよう。


 今はラミリィとの買い物を楽しむことにする。

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